観測成果

110 億年前の宇宙では星形成活動を制御するメカニズムが変化していた?

2016年5月16日 (ハワイ現地時間)

  国立天文台ハワイ観測所 (すばる望遠鏡) とスイス連邦工科大学チューリッヒ校 (ETH) の研究者を中心としたチームは、W. M. ケック天文台 (注1) の望遠鏡を用いた観測から、遠方銀河に含まれる金属量と星形成活動の強さの関係を調査しました。その結果、これまで近傍の宇宙で知られていた関係とは異なり、遠方宇宙では金属量が星形成の強度には関係しないことを発見しました。これは銀河における星形成の理論に新たな疑問を投げかけるものです。


  研究チームは、光学望遠鏡では世界一の口径を誇るケック望遠鏡に搭載された近赤外線分光装置 MOSFIRE (注2) を用い、110 億年前の宇宙で典型的に見られる星形成銀河を 41 天体観測しました (図1)。


図1

図1: 本研究で観測された銀河のひとつ (青枠で囲まれている天体) です。この銀河から 110 億年かけて私たちに到達した、水素や酸素、ネオンから放射された光を調べることで、かつては重元素を生み出すメカニズムが現在の宇宙とは異なっていた可能性があることがわかりました。(クレジット: 3D-HST / NASA / ESA / STScI)


  研究チームは、ビッグバンから 20 億年後の宇宙において、平均的な銀河の重元素 (ヘリウムより重い元素) の量が、現在の宇宙の平均的な銀河に比べるとわずか2割程度しかないことを明らかにしました。さらに、遠方銀河の重元素量が星形成活動の度合いによらないということを新たに発見しました。これは、これまでに近傍宇宙で知られていた星形成活動と重元素量の関係とは対照的な傾向です。(図2)

  「私たちが今回観測した銀河は、光が私たちに到達するまでに 110 億年以上もかかるほど遠くにあるため、非常に暗い天体です」と話すのは論文の筆頭著者で、ETH 在籍中にこの研究をまとめ、現在は国立天文台ハワイ観測所 (すばる望遠鏡) に在籍する小野寺仁人さんです。「そのため、集光能力にすぐれた口径 10 メートルのケック望遠鏡を用いることが、この研究を行うためには不可欠でした」と小野寺さんは続けます。

  しかしながら、より多くの光を集めるだけでは十分ではありません。この光を無駄なく、そして高品質なかたちで記録する必要があります。ケック望遠鏡の最新鋭の観測装置 MOSFIRE がこの役割を担いました。

  「MOSFIRE を使うことで、多数の天体を高感度で一度に取得できるため、非常に効率のよい観測を行うことができました。解析したデータには、多数の銀河からのスペクトル線が記録されていました。たとえば、イオン化した水素や酸素、ネオンなどです。これらを用いることで、銀河のガスに含まれる重元素の量を求めることができます」と小野寺さんは語ります。

  ともにマウナケアにあるケック天文台とすばる望遠鏡は、観測時間の交換プログラム通した協力体制を築いています。今回の研究を完遂するためには、カリフォルニア工科大学の研究者との共同研究に加え、この観測時間交換制度が非常に重要な役割を果たしたと小野寺さんは述べています。

  星形成活動を行っている銀河の重元素量は、銀河に流入してくるガス、星形成、そしてそれに伴って銀河からガスが流出する過程が複雑に絡み合った結果です。どのくらいの量の重元素が銀河にあるのか、また星形成活動の強さとの関係性があるのかどうかは、遠方宇宙での銀河の進化を明らかにする上で重要な手がかりになります。


図2

図2: この図は 110 億年前の銀河と現在の銀河について、重元素量と銀河の恒星質量の関係を、星形成率が高い場合と低い場合について示しています。同じような恒星質量で比較すると、110 年前の銀河では重元素量が星形成率の高低で変化しない一方、現在の宇宙では、星形成率が低いと重元素量が高い傾向を示していることがわかります。(クレジット: 国立天文台)


  「現在の宇宙でみられる関係をそのまま遠方宇宙まで拡張すると、星形成活動が弱い銀河が高い金属量を示すと考えられますが、この研究ではそのような傾向は見られませんでした」と語るのは、ケック天文台のヒェン・トランさんです。「この研究は平均的な銀河の進化を追跡したものです。小野寺さんのチームは、遠方宇宙での星形成活動の強さが現在の宇宙で見られるほどの影響力を持たないことを明らかにしました。重元素量、星形成率そして恒星質量の間の関係を理解することで、銀河の進化についてのより深い洞察を得ることができるでしょう」とトランさんは話します。

  今回の研究チームの成果からは、重元素量への星形成率の影響を見出すことができませんでした。これは、星形成活動を司る物理的なメカニズムが初期の宇宙では異なっていたことを示唆しています。遠方宇宙では宇宙の大規模構造から供給されるガスの流入のペースが速すぎるため、たとえ星形成活動が活発でも、大量のガスをただちには消費できないことが関係しているのかもしれません。


  この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』2016年5月1日出版号に掲載されました (Onodera et al. 2016 "ISM excitation and metallicity of star-forming galaxies at z~3.3 from near-IR spectroscopy")。



(注1) ケック天文台は、すばる望遠鏡のあるマウナケアにおいて、ふたつの口径 10 メートルの光学赤外線望遠鏡を運用しています。

(注2) MOSFIRE (Multi-Object Spectrograph for Infrared Exploration) は、撮像機能、あるいは最大 46 天体のスペクトルを同時に取得できる多天体分光機能を備えた観測装置です。高感度の最新の検出器とエレクトロニクスによって、非常に暗い天体の観測を行うことができます。



研究チーム

  • 小野寺仁人: スイス連邦工科大学チューリッヒ校、国立天文台ハワイ観測所 (すばる望遠鏡)
  • C. Marcella Carollo, Simon Lilly, Sandro Tacchella: スイス連邦工科大学チューリッヒ校
  • Alvio Renzini: イタリア・パドヴァ天文台
  • 有本信雄: 国立天文台ハワイ観測所 (すばる望遠鏡) および総合研究大学院大学
  • Peter Capak: 米国・赤外線処理-解析センターおよびカリフォルニア工科大学
  • Emanuele Daddi: フランス原子力・代替エネルギー庁
  • Nick Scoville: 米国・カリフォルニア工科大学
  • 舘洞すみれ: 総合研究大学院大学
  • Gianni Zamorani: イタリア・ボローニャ天文台




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