観測成果

銀河の「化石」が明らかにした大質量銀河の形成と進化

2015年9月24日 (ハワイ現地時間)

  チューリッヒ工科大学の研究者を中心とした研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線多天体撮像分光装置 MOIRCS を使い、ビッグバンから 40 億年後の宇宙に存在している、既に星形成活動を終えた銀河を観測しました。その結果、このような遠方銀河の恒星の性質が、近傍宇宙で観測される楕円銀河のものとよく一致することがわかりました。また、恒星に刻まれた情報を元にこれらの銀河の祖先をあぶり出し、およそ 110 億年にわたる楕円銀河進化の様子を描くことに成功しました。


  近傍宇宙で太陽の 1000 億倍といった非常に大きな質量を持つ銀河をみると、そのほとんどは楕円銀河のような星形成活動が見られない銀河であることが知られています。このような大質量銀河の星形成がいつ頃、どのような規模で生じ、どの程度の時間にわたって継続したうえで停止に至ったのか、また、星形成の停止後にどのような過程を経て現在の宇宙に見られる楕円銀河になったのかについては、いまだに多くの謎が残っています。

  この謎を解き明かすため、研究チームは、ビッグバンから 40 億年後の宇宙で既に星形成を停止した銀河の恒星がそのスペクトルに刻みこんだ情報に注目しました。恒星の集団である銀河は、その年齢や金属量、元素組成に応じた特徴をスペクトルにまるで化石のように刻み込みます。現在の宇宙に存在する楕円銀河の研究からは、これらの銀河は年齢が 100 億年程度で、太陽よりも高い重元素を含んでいることが知られていました。また、アルファ元素 (注1) と呼ばれる星形成の継続期間の指標となる元素が鉄に比べて多く存在しており、短い期間で一気に星を作ったことが示唆されています。研究チームは、このような調査をビッグバンから 40 億年後の宇宙で行うことで、その進化の様子を、銀河の形成期により近いところにさかのぼって調べました。

  研究チームはすばる望遠鏡の近赤外線多天体撮像分光装置 MOIRCS を使い、遠方の楕円銀河の赤外線のスペクトルを取得しました。このような天体は非常に暗いため、恒星の性質をひとつひとつの銀河について詳細に調べることは難しいことです。そこで研究チームは、一度に多数の天体のスペクトルを取得できる MOIRCS の強みを活かして 24 天体について効率的にデータを取得し、それらをすべて足しあわせることで 200 時間もの観測時間に相当するスペクトルを合成しました (図1)。


図1

図1: ビッグバンの 40 億年後の宇宙で観測された、既に星形成を停止した銀河 24 天体の個々のスペクトル (左) と、それらをすべて足しあわせた合成スペクトル (右)。すばる望遠鏡の MOIRCS で約 200 時間の観測に相当します。スペクトル上に置かれた枠は、銀河の星の年齢、金属量、アルファ元素の鉄に対する量を求めるのに使用した、各元素に特徴的な吸収線の位置を示しています。(クレジット:チューリッヒ工科大学/国立天文台)


  得られた合成スペクトルの詳細な解析から、観測した 40 億年前の銀河の年齢が 10 億年、金属量が太陽に比べて 1.7 倍、アルファ元素と鉄の比が太陽の場合に比べて2倍程度であることがわかりました。遠方銀河において恒星のアルファ元素と鉄の比を求めたのは初めてのことです。これによって、銀河が星形成をおこなった期間が 10 億年より短かったことがわかりました。これらの結果から、大質量楕円銀河はビッグバンの 40 億年後の状態から、さらなる星形成活動が生じることなく、現在に至ったということが明らかになったのです (図2)。


図2

図2: 大質量楕円銀河の恒星の年齢 (左)、金属量 (中央)、アルファ元素と鉄の比 (右) の赤方偏移進化を示しています。灰色のデータ点は先行研究で調べられていたもので、青のデータ点が本研究が明らかにした銀河の恒星の性質です。左のパネルで色が塗られた領域は、このような大質量楕円銀河が現在 (赤方偏移がゼロ) から 100 億年から 110 億年前に形成され、その後は星形成をせずに加齢だけがあったと仮定したときの理論予測を示していますが、観測データとよい一致を示していることがわかります。また、中央と右のパネルからは、現在からビッグバンの 40 億年後の宇宙まで、銀河の金属量や元素組成比に進化が見られなかったことがわかります。(クレジット:チューリッヒ工科大学/国立天文台)


  では、このような大質量の楕円銀河が星形成をしていた時代はどのような銀河だったのでしょうか?研究チームは次に、実際に彼らが調査した銀河の祖先となる星形成銀河を特定しようと試みました。ビッグバンの 40 億年後に星形成が停止した状態の銀河の年齢が 10 億年ということは、その祖先は、10 億年さかのぼった宇宙で星形成活動をおこなっている銀河ということになります。実際にそこでは、同じような質量を持つ星形成銀河の多くは1年あたり太陽の数百倍の質量に相当する星々を形成していることが知られており、研究チームが遠方の楕円銀河の調査から見積もった祖先の性質とよく一致していました。祖先となる星形成銀河がこのペースで星形成を続けると、現在の宇宙に存在しないほどの質量になってしまうことが予想されるため、これらの銀河は何らかの作用によって、ほどなくして急激に星形成が停止し、その後は星形成をおこなうことなく現在まで進化してきたと考えられます。

  本研究によって、ビッグバンの 40 億年後の宇宙にある星形成が停止した銀河を足がかりに、時間軸の両側、あわせて 110 億年にわたる大質量銀河の形成の歴史が描き出されました。研究チームを率いた小野寺仁人さん (チューリッヒ工科大学) は「今後は、ひとつひとつの銀河の性質を詳しく調べたり、さらに遠方にこのような研究を拡張したりすることで、楕円銀河形成の詳細に迫りたい」と今後の展望について語っています。


  この研究成果は2015年8月1日発行のアメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました (Onodera et al. 2015 "The Ages, Metallicities, and Element Abundance Ratios of Massive Quenched Galaxies at z~1.6")。また、この研究成果は、日本学術振興会の科学研究費補助金 23224005 および博士課程教育リーディングプログラムによるサポートを受けています。なお、本論文のプレプリントはこちらから入手できます。


研究チームの構成 (所属は Onodera et al. 2015 出版時のもの)

  • 小野寺仁人、C. Marcella Carollo、Sandro Tacchella (スイス連邦チューリッヒ工科大学)
  • Alvio Renzini (イタリア・パドヴァ天文台)
  • Michele Cappellari (英国・オックスフォード大学)
  • Chiara Mancini (イタリア・パドヴァ大学)
  • 有本信雄、山田善彦 (国立天文台ハワイ観測所)
  • Emanuele Daddi (フランス原子力庁)
  • Raphaël Gobat (韓国・高等科学院)
  • Veronica Strazzullo (ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学)

(注1) アルファ元素とは、原子核の質量数が4の倍数の元素のことをいいますが、ここでは主に II 型超新星爆発にともなって放出される酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素、硫黄、カルシウム、チタンを指しています。





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