観測成果

軌道面が傾いた小惑星の人口調査

2013年11月4日

【概要】

  国立天文台と兵庫県立大学の研究チームは、すばる望遠鏡による観測で黄道面 (地球の公転面) に対して大きく傾いた軌道の小惑星 400 個以上をとらえ、直径1キロメートル未満の小さな天体が黄道面付近の小惑星に比べて少ないことを発見しました。この観測結果は、高速度で起こる小惑星どうしの衝突では大型の小惑星が破壊されにくい一方で、小型の小惑星は相対的に破壊されやすく、早いペースで失われてしまうことを示します。このことから、惑星の重力によって小惑星の軌道が激しく乱され、高速衝突が頻発していた太陽系初期の時代には、小惑星の「衝突進化」は現在とは異なるペースで進んだと考えられます。今後、小惑星の衝突速度と強度特性の関係がさらに明らかになれば、小惑星の形成と進化についての理解がより深まると期待されます。


動画: 論文の筆頭著者である寺居剛さん (国立天文台) による解説。(2013年10月31日撮影) (クレジット:国立天文台)


【研究背景】

  小惑星の多くは火星軌道と木星軌道の間にある「小惑星帯」に密集しています。それらは形成されてから現在に至るまで絶え間なく互いに衝突を繰り返してきました。規模が大きな衝突では小惑星はばらばらに破壊され、その破片1つ1つが新たな小惑星になります。これがあらゆる大きさの小惑星で繰り返し起こり、小惑星の「人口分布」(天体の大きさと数の関係) が変化していく過程を「衝突進化」と呼びます。ある程度大きな小惑星では、大きければ大きいほど天体の強度が増すという特性があり、これが小惑星の「人口分布」を形作る最も重要な要素となります。この関係を利用すると、小惑星の人口調査を行うことによって、それらがどのような強度特性を持っているのかを知ることができます。これまでに行われた様々な観測によって小惑星の「人口分布」が測定されており、小惑星帯における衝突進化を再現するシナリオ作りが進められています。


【研究目的】

  現在の小惑星帯では天体の軌道は円い形で黄道面に近いものが多く、比較的そろっています。しかし、過去には小惑星の軌道がばらばらだった時代がありました。それは木星ができたばかりの頃です。木星の強い重力が作用して小惑星の軌道は激しく乱され、軌道の歪みや黄道面からの傾き (軌道傾斜角) が大きくなります。その結果、小惑星は互いに高速度で衝突するようになります。このような高速度衝突時に小惑星がどのような強度特性を持つのかはまだ知られておらず、その時代の衝突進化を明らかにすることは困難であるのが現状です。

  そこで、国立天文台・研究員の寺居剛さんを中心とする研究チームが注目したのが、大きな軌道傾斜角を持つ小惑星です。それらは他の小惑星との相対速度が大きく、非常に速い速度で他の小惑星と衝突します。したがって、それらの「人口分布」を測定することによって、高速度衝突を起こした小惑星の強度特性を調べることができます。この研究には直径が数百メートルから数キロメートル程度の小さな天体が適しているのですが、そのような大きさで軌道が傾いている小惑星の「人口分布」を調べた研究はこれまでありませんでした。


【すばる望遠鏡による観測】

  今回、研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された主焦点カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) を使用し、軌道が大きく傾いている小型の小惑星を観測しました。そのような天体は大変暗く、個数も少ないため、多くの天体をとらえることは難しい課題でした。そこで研究チームは新たな小惑星の検出方法を確立し (図1)、効率的な観測を実現することによってそれを克服しました。さらに目的の小惑星を見つけやすい場所を選ぶことで、数多くの天体を観測することに成功しました。


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図1: すばる望遠鏡主焦点カメラ Suprime-Cam の画像から検出された小惑星。左の2枚は同じ領域を 20 分間隔で撮った観測画像。一番右は観測画像に処理を施して作成された画像。背景の恒星や銀河が隠され、移動する小惑星だけが見える。小惑星は露出時間 (4分) の間にも画像上を動くため、その星像は移動方向に伸びた形状となる。(クレジット:国立天文台)


【研究結果】

  2008年8月に行われた2晩の観測で取得された画像が解析された結果、441 個の移動天体が検出されました。うち約 380 個が小惑星帯に属する天体です。これらは大変小さいので、直接大きさを測ることはできません。そこで、推定された軌道と明るさから天体の直径を見積もります。見つかった小惑星は直径 700 メートルから6キロメートル程度で、1キロメートル未満の小型小惑星が半数近くを占めていました。その多くが黄道面から 15 度以上傾いている天体です。

  小惑星の「人口分布」は、横軸に小惑星の直径、縦軸に累積個数 (その直径よりも大きな天体の総数) を取ってグラフを描くとその性質が浮かび上がってきます。今回観測された小惑星の「人口分布」を調べると、直径1キロメートル付近に特徴的な折れ曲がりが確認されました (図2)。これは過去の研究で観測されていた黄道面近くの小惑星が持つ特徴と一致しており、どちらの「人口分布」も同じ形を持つことが分かりました。


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図2: 観測された小惑星の「人口分布」。横軸は小惑星の直径、縦軸は累積個数 (その直径よりも大きな天体の総数)。直径1キロメートル付近に折れ曲がりが見える。オレンジの点線は今回の観測でとらえることのできる小惑星の大きさの限界 (直径 0.56 キロメートル)。赤い丸は分布の勾配が測定された範囲、×印は測定からは除外された範囲で、青と緑の直線はそれぞれ1キロメート ルよりも小さい範囲と大きい範囲から算出された分布の勾配を表します。(クレジット:国立天文台)


  一方で、直径 600 メートルから5キロメートルの範囲で両者の「人口分布」を比較すると、黄道面近くの小惑星に比べて、軌道が傾いている小惑星には小さな天体が少ないことが明らかになりました。小さな天体の割合が少ないということは、小さな天体に対して大きな天体の強度がより強い、という傾向で説明することができます。小さな天体は相対的に破壊されやすく、早いペースで失われてしまうのに対し、大きな天体は壊れにくく、そのままの大きさであり続けるからです。このことから、傾いた軌道の小惑星で起こるような非常に速い速度での天体衝突の場合、天体の大小により強度差がより顕著になるという性質を小惑星が持つと考えられます。この結果を適用すると、誕生間もない木星の重力によって小惑星の軌道が激しく乱され、高速衝突が頻発した時代には、大きな小惑星は現在よりも破壊を免れて生き残りやすい環境だったと推測されます。


【まとめと展望】

  今回の観測から、小惑星の強度特性が衝突速度によって変化することが分かりました。今後、観測・実験・シミュレーションなど様々な研究の積み重ねによって衝突速度と強度特性の関係が明らかになれば、太陽系初期における小惑星の衝突進化をより正確に再現することができます。また、太陽以外の恒星の周囲に発見されている塵円盤の形成モデルにもより現実的な制約を与えられます。研究チームの寺居さんは「すばる望遠鏡に新しく搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム) を使用すれば、小惑星帯以外の小天体グループの衝突進化も明らかにすることができます。これらの観測を通して惑星や小天体の形成・進化の解明に迫りたい」と意気込んでいます。


  この研究成果は、2013年11月5日に発行される天文学誌『アストロノミカル・ジャーナル』 に掲載されます (Terai et al. 2013, "High Ecliptic Latitude Survey for Small Main-belt Asteroids", Astronomical Journal, Volume 146, Issue 5, article id. 111)。また本研究は、日本学術振興会特別研究員奨励費 (20-4879) による助成を受けています。





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