観測成果

銀河古代都市の建設ラッシュ
− 現在の楕円銀河が爆発的に生まれ急成長する大集団を発見 −

2012年8月30日

  国立天文台の林将央 (はやし まさお) 研究員、児玉忠恭 (こだま ただゆき) 准教授を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線多天体撮像分光装置 (MOIRCS) を用いた撮像観測によって、110 億光年の彼方 (注1) に、成長期まっただ中の原始銀河団を発見しました。また、この原始銀河団を構成する個々の銀河は、その当時猛烈な勢いで新たな恒星を作っていたことがわかりました。私たちが住む現在の天の川銀河の 100 倍もの勢いで星形成が進む銀河も数多く見つかりました。現在の宇宙にある銀河団は主に星形成の活動性が弱い楕円銀河の集団ですが、この太古の原始銀河団において、それら現在の楕円銀河が過去に爆発的に生まれ、激しく成長していた現場を突き止めたと考えられます。さらにこの原始銀河団は大小三つの銀河集団から成っていますが、これらはお互いの重力で引き合い、いずれ一つの大きな銀河団へと合体・成長すると考えられます。今回見つかったような形成途上の個々の銀河をさらに詳しく調べることで、銀河団の成長過程だけでなく、銀河団という特有の環境が楕円銀河の形成や進化に及ぼす影響について解明されると期待されます。



遠方銀河団研究の目的:銀河の誕生および成長と環境との関わりをあばく

  宇宙では無数の銀河が大規模な構造を成して存在しています。銀河が非常に群れている銀河団や銀河群と呼ばれる領域がある一方で、孤立した銀河がぽつぽつと点在するだけのフィールド領域と呼ばれる場所もあります。まるで、地球上で人口が都市に集中し郊外ではまばらになっているのに似ています。また興味深いことに、現在の宇宙では、フィールド領域には恒星を活発に作っている渦巻銀河が多いのに対して、銀河団領域では、年齢が古くて、既に新しく恒星を作ることを止めた楕円銀河が群れています。このような美しいまでの明確な銀河の棲み分けは、どのようにして起こったのでしょうか?

  現在の宇宙の「大都市」である銀河団の祖先、つまり遠方に存在する「古代都市」である原始銀河団がその答えを教えてくれるはずです。宇宙では、遠くを見ればみるほど過去の姿が見えてきます。つまり、遠方にある成長期まっただ中のいわば「建設ラッシュ」にあたる銀河団を調べることによって、その現場で実際に何が起こっているのかを 直接 目撃することができるのです。しかし、宇宙は広しといえども「古代都市」が至るところにあるわけではありません。そして、銀河団に属する銀河の「性格」がどのように形成されたかを知るためには、遠くを見ればみるほどよいわけでもありません。なぜならば、生まれたばかりの「赤ちゃん」銀河を見るだけでは不十分で、むしろ多感で周りから様々な影響を受ける思春期にある「少年少女」銀河を詳しく調べる必要があるからです。従って、ちょうど成長期の銀河が群れている銀河団を見つけることが重要です。


110 億光年彼方の古代都市、USS1558-003 原始銀河団を探査

  研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された MOIRCS を用いて、110 億光年の彼方の USS1558-003 原始銀河団 (注2) の観測を行いました。この領域には赤い色をした銀河 (年老いた銀河もしくは「赤く燃ゆる銀河 (注3)」) が群れていることが、これまでの研究から知られていました。また、最近の研究から約 90 〜 110 億年前の時代は銀河が最も激しく成長していることが明らかになってきており、いま世界中の研究者が最も注目している時代の一つです。そこで研究チームは、一度に周辺部まで見渡せる広い視野をもつ MOIRCS に、星形成活動中の銀河が出す特徴的な光 (Hα 輝線 : 注4) を捕えることができる狭帯域フィルターを搭載して、原始銀河団の全体像を描き出すための観測に挑みました。この狭帯域フィルターを通して得られた画像だけで特に明るく見える銀河が星形成銀河であるとわかります (図1)。同時に、特に赤い色をした銀河を探すことによって、既に星形成活動を終えた (または塵によって青い色の光が強く吸収された星形成活動中の) 銀河も捕らえることができます。このようにして、原始銀河団に属していて活発に成長を続けている若い銀河と、既に成熟した銀河の両方を、広い領域全面に渡って隈なく一網打尽に拾い出し、その全体像を描き出すことに初めて成功したのです。


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図1: (左) 原始銀河団で最も銀河が群れている領域 (図2の領域2に相当) の近赤外線擬似カラー画像。上が北 (N)、左が東 (E) を表しています。緑の円で囲まれた天体が Hα 輝線を出す銀河。 (右) 連続光フィルター (Ks-band) と狭帯域フィルター (Narrow-band) で撮影した同じ領域の画像を交互に表示させたアニメーション。丸で囲まれた天体が狭帯域フィルターの画像で非常に明るく見えています。(クレジット: 国立天文台)


ついに捕らえた!銀河古代都市の建設ラッシュ現場

  まずこの原始銀河団は、大小三つの銀河集団から成ることが明らかになりました (図2)。この発見は本研究の広視野観測の賜物です。これらの集団における銀河の密集度合いは、同じ時代の一般フィールド領域と比べて約 15 倍にもなっています。特に、南西方向に存在する "領域2" は、天の川銀河やアンドロメダ銀河などが構成する局所銀河群に、大マゼラン雲クラス以上の銀河がなんと約 100 個も存在する高密度に相当します。110 億光年の彼方にこれほど銀河が密集している領域は例がありません。しかも、その密集地帯に存在する銀河の多くは、爆発的に恒星を作っている銀河です。その勢いは猛烈で、私たちが住む天の川銀河の約 50 〜 数 100 倍にもなります。さらに、この密集地帯に存在する銀河を全て集めると、毎年およそ太陽1万個分の質量に相当する量の恒星を生み出しています。まさに、爆発的星形成銀河の宝庫と言えるでしょう。また、これらの三つの銀河集団 (町) はお互いの重力で引き合ってやがて合体 (合併) し、一つの大きな銀河団 (都市) へと成長していくことが予想されます。現在の宇宙では銀河団はひっそりと余生を送る楕円銀河で占められていますが、これらの銀河がまだ非常に若く、急速に成長している最中である太古の原始銀河団をついに捕らえたのです。いわば銀河古代都市の建設ラッシュ現場を見ているということができるでしょう。


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図2: 銀河古代都市 (原始銀河団) の俯瞰図。横軸は赤経、縦軸は赤緯を表し、原点は USS1558-003 電波銀河の位置。また、上が北、左が東を表しています。黒の点はこの視野に写っている全ての銀河。マゼンタ色の丸は年老いた銀河です。四角は Hα 輝線を出す星形成銀河であり、特に赤い四角は「赤く燃ゆる銀河」を表しています。灰色の円は三つの銀河大集団の領域を示しています。(クレジット: 国立天文台)


  もう一つの興味深い発見は、「赤く燃ゆる銀河」が密集地帯の中心付近に存在する傾向があることです。この赤く燃ゆる銀河はいわば「人生の過渡期」にあたる銀河です。このような銀河が高密度領域に存在していることは、この原始銀河団が今まさに成長段階にあり、銀河が周囲の銀河団という特殊環境から何らかの影響を受けていることを改めて想像させます。今後はさらに、個々の銀河の性質を明らかにし、この現場で何が起こっているのかを解明することを目指したいと研究チームは考えています。


今後の展望: マハロすばるプロジェクト

  研究チームでは、児玉准教授が中心となり "マハロすばる" (注5) というプロジェクトを進めています。今回発表した結果は、このプロジェクトの初期成果の一部です。このプロジェクトは、銀河が激しく成長している時代を網羅して多くの銀河団や原始銀河団を本研究と同様の手法で系統的に観測することによって、銀河の性質を決定づける要因の解明を目指しています。そして今、非常に興味深い結果が続々と明らかになりつつあります。楕円銀河で占められている現在の宇宙の銀河団とは異なり、約 90 億年より昔の銀河団には多くの若くて活動的な銀河が普遍的に存在することがわかってきました。銀河はまず原始銀河団の中心部分のような密集地帯で急成長し、性質を劇的に変化させます。そして時間の経過とともに、銀河が著しく成長する場所は周辺の領域へと移っていくようです。ちょうど建設ラッシュや街の流行が大都市から郊外へと伝わっていくのに似ています。銀河団内の銀河が時間とともにどのように変化していくのか、それが環境とどのように関わっているのかが、今ようやく解り始めてきました。

  研究チームは、「今後はさらに様々な最新の観測装置を駆使して、これら形成途上にある銀河の内部構造などを詳細に調べることによって、銀河の急成長を支配する物理過程の核心に迫りたい」と意気込んでいます。


  この研究成果は、2012年9月20日に発行される米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載される予定です (Hayashi, M. et al. 2012, The Astrophysical Journal, Volume 757)。また、この研究成果は、科学研究費補助金・若手 A (18684004) および基盤 B (21340045) によるサポートを受けています。



動画: 論文の筆頭著者である林将央さん (国立天文台) による解説。(2012年8月29日撮影)



(注1) ビッグバンから約 26 億年後。赤方偏移で表すと 2.53 に相当します。

(注2) へび座の方向にある原始銀河団 (赤経 16:01:17.3、赤緯 -00:28:48.00)。電波銀河 USS1558-003 に付随し、それを取り囲むように存在しています。

(注3) 現在は爆発的に星形成をしているが、まもなく星形成をやめて若さを失いつつある銀河。すばる望遠鏡 2011年8月5日プレスリリース 『すばるパノラマ画像がうつしだす、「赤く燃ゆる銀河」の棲みか』に詳細な説明があります。

(注4) 静止系 6563 オングストロームのバルマー系列輝線。水素原子の中の電子がエネルギー準位 n=3 から n=2 へ遷移するのに伴い放射されます。

(注5) MAHALO-Subaru: MApping H-Alpha and Lines of Oxygen with Subaru「マハロ」はハワイ語で「ありがとう」の意味です。


研究グループの構成

  • 林将央 (国立天文台・研究員)
  • 児玉忠恭 (国立天文台・准教授)
  • 但木謙一 (東京大学・大学院生/日本学術振興会 特別研究員)
  • 小山佑世 (英ダラム大学/国立天文台・日本学術振興会 特別研究員)
  • 田中壱 (ハワイ観測所・サポートアストロノマー)


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