観測成果

すばる望遠鏡が見つけた宇宙最遠方の銀河団

2012年4月23日

  総合研究大学院大学の利川潤 (としかわ じゅん) さん、国立天文台の柏川伸成 (かしかわ のぶなり) 准教授、京都大学の太田一陽 (おおた かずあき) GCOE 特定研究員を中心とした研究チームは、すばる望遠鏡を用いた観測により、127 億 2000 万光年先にある「原始銀河団」を発見しました。これは現在知られている中で最も遠い原始銀河団であり、127 億 2000 万年前の宇宙、すなわち 137 億年の宇宙の歴史の中で宇宙年齢がまだ 10 億年にも達しない初期宇宙に、すでに銀河団が存在したことを示します。この発見は宇宙の構造形成や銀河進化の解明に重要な手がかりを与えるものと考えられます。(研究者による解説ムービー)


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図1:今回の観測で分かった 127 億年前の銀河の分布。白丸が銀河を表し、大きな丸ほど明るい銀河を表しています。背景は銀河の数密度を表し、銀河が集中している場所を赤く示しています。下・左側の軸は 127 億年前の宇宙での大きさ、上・右側の軸は天球面上での見かけの大きさを表します (1分角は1度の 60 分の1の角度)。画像下側に非常に赤い部分、すなわち銀河の数密度が周囲よりも顕著に高い領域 (原始銀河団) があることが分かります。右は原始銀河団付近を拡大したものです。図をクリックすると拡大図が表示されます (拡大領域を示す枠を省いた図)。(クレジット:国立天文台)



  宇宙には、100 個から 1000 個を超えるほどの明るい銀河の集まった「銀河団」と呼ばれる銀河の集団がいくつも見つかっています。しかも銀河団はお互いに結びつきあって、「宇宙の大規模構造」と呼ばれる巨大なネットワークを形成していることが分かっています。このような巨大な構造はいつどのようにできたのでしょうか?宇宙はほぼ均質な状態から始まりましたが、その物質の分布にはわずかながらムラがありました。そしてその非常に小さなムラが 137 億年もの時間をかけて重力によって大きくなり、現在の宇宙に見られるような銀河団へと成長し、大規模構造を作り出した、と考えられています。また銀河団は、単に銀河の数が多いだけではなく、年老いた重い銀河が多く存在していることがわかっています。このことからも銀河団は、銀河団を構成する個々の銀河の性質に大きな影響を与えつつ、銀河団自身も大きくなった、と推測されます。銀河団がどのように形成されたのかを知ることは、宇宙の大規模構造と銀河進化という大きな謎に迫るために非常に重要です (注1)。

  銀河団形成の解明のためには、もちろんその誕生から完成までを理解する必要がありますが、利川さんらの研究チームは特に銀河団の誕生に焦点を当てました。しかしその誕生に迫るためには 137 億年の宇宙の歴史を大きくさかのぼる必要があります。宇宙の観測では遠くを見ることで過去にさかのぼることができますが、遥かかなたの銀河からやってくる光はとても微弱です。また銀河団の誕生に迫るためにはもう一つの大きな困難がありました。それは、周辺に比べて格段に密度が高い特別な領域しか銀河団に成長できないので、原始銀河団は宇宙初期において非常に稀な天体である、ということです。研究チームはすばる望遠鏡の集光力と主焦点カメラ Suprime-Cam の特長である「広い視野」を最大限活用することで、これらの困難を克服することが出来ました。すばる望遠鏡はかすかな光まで捉えることができる口径8メートルという大型望遠鏡でありながら、非常に広い視野を持っています。

   研究チームは今回、かみのけ座の方向にある「すばる深宇宙探査領域」と呼ばれる天域を調べました。すばる深宇宙探査領域は、すばる望遠鏡が重点的に観測している天域であり、地上望遠鏡では限界に近いほどの弱い光まで捉えることができます。このように広視野でありながらも暗い天体まで見つけることができるすばる深宇宙探査領域は原始銀河団を見つけるために最適な天域の一つです。研究チームは、この広い天域において遠方銀河の探査を行い、観測された銀河の分布を調べた結果、遠方銀河の数密度が周辺よりも5倍も高い領域を発見しました (図1)。さらに、すばる望遠鏡の分光装置搭載 FOCAS を用いた追加観測から、この領域に存在する多くの銀河が 900 万光年以内の距離に存在しており、奥行き方向にも集中していることを確かめました。銀河は非常に強く密集しており、たまたまここに銀河が集まっているだけだとは到底考えられません。このことから、発見された銀河の集まりが 127 億 2000 万光年先にある原始銀河団であるということが明らかになりました (図2)。これは現在発見されている中で最も遠い原始銀河団です (注2)。宇宙年齢が 10 億年にも達していない宇宙のごく初期における原始銀河団の存在を明らかにしたことから、宇宙の構造形成・銀河進化の始まりを直接見ることができました。このように最遠方原始銀河団の発見は宇宙の大規模構造・銀河進化の解明の大事な一歩となります。


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図2:今回発見された原始銀河団の中心領域 (1.7 分角 ✕ 1.2 分角) を拡大した画像 (すばる望遠鏡で撮影)。◯で囲んだ赤い天体が 127 億光年先にある銀河。図をクリックすると拡大図が表示されます (スケールを示す記号を省いた図)。(クレジット:国立天文台)


  発見された最遠方原始銀河団に属する銀河の性質 (注3) を調べたところ、原始銀河団に属さない同時代の銀河との間に大きな違いは見つかりませんでした。このことから現在の宇宙で銀河団に属する銀河に見られる特有の性質は、銀河団が成長していく過程で後天的に獲得したものではないかと推測されます (注4)。また発見された原始銀河団の内部構造を詳しく調べてみると、いくつかの銀河のグループを形成しているような傾向が見られました。さらに巨大な銀河団を作るために小さな銀河集団が集まる、その始まりの瞬間を私たちは目撃しているのかもしれません (注5)。

  すばる望遠鏡では現在、Suprime-Cam の7倍もの視野を一度に観測できる新しい主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) の搭載準備が進んでいます。今後、HSC を用いた観測を行うことで、この時代に原始銀河団がどのくらい存在するのかを解明し、原始銀河団のより一般的な性質も明らかにすることができる、と期待されています。利川さんは「今回のような遠方原始銀河団の発見を積み重ねることによって、近い将来、銀河団形成の謎が解けるでしょう」と、将来の展望を語っています。

  この研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』の2012年5月1日号に掲載が予定されています。また本研究は、科学研究費補助金・基盤研究 (B) (課題番号: 23340050) の助成を受けています。


動画: 論文の筆頭著者である利川潤さん (総合研究大学院大学) による解説。(2012年4月23日撮影)



(注1) さらに、127 億光年を超える超遠方の銀河団・大規模構造が存在するのか、またどの程度発達しているのか、という問題は、この時代に起きた「宇宙の再電離」という現象とも深く関連しています。

(注2) これまで知られていた最も遠い原始銀河団は2005年にすばる望遠鏡を用いて大内正己などの研究チームが見つけたもので、地球からの距離は 126 億 5000 万光年でした。本研究ではさらに 7000 万光年先にある原始銀河団を発見したことになります。また、131 億光年先にも原始銀河団候補があることがハッブル宇宙望遠鏡の観測から指摘されていますが、距離決定に不可欠な分光観測がされていないために正確な距離は確定していません。

(注3) ここでは銀河の明るさ、星形成率 (星が1年間に何個生まれるか) という性質について調べました。

(注4) ただし、質量や年齢、色などの性質について違いがあるかどうかはまだ分かりません。今後の詳細な研究で明らかにする必要があります。

(注5) 興味深いことに、図1の拡大図をよく見ると原始銀河団から画像左上に向けて伸びた構造に気づきます。この時代から既に大規模構造の形成は始まっているのかもしれません。このような大きな構造はすばる望遠鏡だからこそ見つけられたものです。


研究論文の出典: Toshikawa et al. 2012, Astrophysical Journal 750 号 (in press), "Discovery of a Protocluster at z~6"


  研究チームの構成:

  • 利川潤 (総合研究大学院大学・大学院生)
  • 柏川伸成 (国立天文台・准教授)
  • 太田一陽 (京都大学・GCOE 特定研究員)
  • 諸隈智貴 (東京大学・助教)
  • 澁谷隆俊 (総合研究大学院大学・大学院生)
  • 林将央 (国立天文台・研究員)
  • 長尾透 (京都大学白眉プロジェクト・准教授)
  • Linhua Jiang (アリゾナ大学・研究員)
  • Matthew A. Malkan (カリフォルニア大学・教授)
  • 江上英一 (アリゾナ大学・准教授)
  • 嶋作一大 (東京大学・准教授)
  • 本原顕太郎 (東京大学・准教授)
  • 石崎剛史 (総合研究大学院大学・大学院生)



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