観測成果

マカリィ・スクール: 成蹊高校・天文気象部の成

2006年3月27日

成蹊高校・天文気象部
顧問:
宮下敦先生
生徒:
小山裕依子さん
  小野さなえさん
  川田賢君
  早水友洋君

学校・クラブ紹介

 成蹊中学高等学校は,東京都武蔵野市にある男女共学の私立中高一貫校です。JR吉祥寺駅から徒歩20分ほどのところに,小学校から大学までが1つのキャンパスに集まっています。成蹊高等学校は,戦前の旧制高等学校からの伝統を持っています。現在の生徒数は約1000人です。
 天文気象部は古い歴史を持つクラブで,世界初の人工衛星スプートニクの軌道決定を行ったMOONWATCHプロジェクトに「武蔵野班」として参加し,観測に成功したこともあります。近年では,1998年から数年間,しし座流星群高校生全国同時観測会の主要メンバーの1つとして活動しました。


観測で使うカメラのFOCAS (右)

日ごろのクラブ活動
  現在の部員は全部で約20名ですが,学校の委員会や音楽系のクラブと兼部している生徒も多く,常時活動しているのは10名ほどです。星はみんな好きですが,それだけではなく,カメラが好きな人,コンピュータが好きな人,イラストや文章を書くのが好きな人など,いろいろな才能を持った人が集まります。部室は,理科専用教室棟(理科棟)屋上にある5m天体望遠鏡ドームの隣にあり,10人集まると満員になるほどです。部室には作りつけの黒板があり,歴代部員の名前が,「天文部の活動を支えた人」と「天文部を破滅に導いた人」に分けて記録されています。
 クラブ活動の中心は学校に泊っての宿泊観測と年2回の合宿です。流星群などのイベントがあるときにはそれに合わせて,そうでないときは,定期テストの間の休前日に終夜観測を行います。学校のある吉祥寺は都心に近いため,夜空は大変明るく,カメラでシャッターを開放して1分間ほど露出すると,フィルム上で夜空が昼間のように写ってしまいます。そこで,7年ほど前に,コンピュータ制御の赤道儀と冷却CCDカメラが導入されました。これにより,学校での宿泊観測会でも,メシエ天体の撮像や月面の分光画像,超新星や変光星の光度観測などができるようになりました。昼間のクラブ活動では,観測会で得られた画像の処理や次の観測のための下調べなどをしています。また,夏休みと冬休みには,本物の星空を見るために,群馬県,福島県,あるいは山梨県などに出かけて,合宿をしています。遠征のときには,観望やフィルムを使った撮影などを行います。こうした活動の成果は,文化祭や文化部発表会で展示するほか,天文雑誌へ投稿したり,天文学会の一般講演やジュニアセッションなどで発表しています。
 これまで,超新星の光度変化や月面分光画像作成などに取り組んできましたが,1つのテーマをやりとげるのに,先輩から後輩に技術や知識をバトンタッチしながら3年くらいかけて取り組んできています。

いよいよ応募
 トランジット法による系外惑星探査は,変光星の光度観測方法を応用して3年ほど前から取り組んでいたテーマです。2005年春の天文学会ジュニアセッションの際に,国立天文台普及室から,すばる-マカリィ・スクールについて紹介されました。これを聞いた部員は,発表に行っていた高校2年の部員たちで,4月からは高校3年になって進学準備で忙しくなるのは分かっていましたが,それでも自分たちで観測計画書を作って準備を始めました。ときどき内容について相談は受けましたが,顧問に原稿が回ってきたのは締め切りの一週間前で,言葉使いを少し直しただけで提出しました。
 公開審査の準備は,書類審査の一次審査を通過してから始めました。手分けをしてパワーポイントと説明用の原稿を作り,出来上がったのは審査の前日のため、夕方に通しの練習をして,ぶっつけ本番に近い形でした。


ハレポハク中間宿泊施設での観測準備

事前の観測準備
 観測天体のTrES-1の明るさを間違えていたりしましたが,すばる観測所の唐牛宏所長や服部尭先生から観測条件などについて丁寧に教えて頂きながら観測計画を作りました。出発前には,だいたい観測方法についてのイメージができていました。

ハワイ滞在と観測本番
 8日のハワイ時間の午前中,私たちはヒロ空港に到着しました。唐牛所長から蘭のレイを首にかけてもらって歓迎して頂いた後,ヒロ山麓施設の見学と事前レクチャーを受けました。天文台で研究を進めている学生の方たちの話は,一口に天文学といっても装置の開発から観測まで広い活動を含んでいて,いろいろなアプローチの仕方があることがわかる面白いものでした。
 9日にはハレポハク中間宿泊施設に移りました。すばるオフィスには,コンピュータが置かれ,当日の観測条件などの入力作業などを行う場となっていて,私たちも入力値の意味などを説明して頂いて,観測の準備をしました。
 夕方,いよいよすばるドームに上がります。観測に先立って,ガイド担当の長谷川久美子さんと Andrew Hasegawa さんにドーム内部を案内して頂いきました。図面や写真などで見るすばる望遠鏡は,一応,反射望遠鏡の形をしていますが,ドーム内に設置されていると,大きすぎて部分的にしか見えないため,全体像がわかりません。コントロール・ルームも,多数のモニターで囲まれた宇宙船の管制室のようでした。
 マカリィ・スクールの本番はハワイ時間10日夜ですが,TrES-1のトランジットは9日夜に起きるため,成蹊高校天文気象部の観測の本番はこの日です。画像校正用のドームフラット画像の取得から,撮像条件の微調整まで3人のオペレーターの方たちがテキパキと動いて作業が進んでゆきます。


すばるでの観測風景

 長野高専の予備観測が終了し,20時25分頃から成蹊高校の観測時間となりました。高校生の小野さんが操作して,端末の画面から撮像されたばかりのファイルを選んで表示すると,間違いなくTrES-1と光度測定のための比較星をとらえられています。当然とはいえ,学校の15cm屈折望遠鏡で撮像したTrES-1の画像よりはるかに解像度がよいのに目を見張りました。観測は順調に進みましたが,長野高専の観測時間が多少延長されたことにより,連続撮像の開始がトランジット開始予報時刻ぎりぎりにずれこんでしまったため,私たちは,次に待機している広島大学の川端弘治さんに観測時間を5分間だけ譲って頂くようにお願いしました。次の目標天体に向けて観測を開始するのにはギリギリのタイミングになってしまいますが,快くOKして頂きました。実際の研究者の間に挟まれての観測や,分単位の観測時間を争う研究のシビアな面も垣間見ることができました。ハレポハク中間宿泊施設に戻ったのは夜10時を過ぎていました。
 8月10日は,午前中を前日のデータ処理で過ごしました。簡単な解析の結果,無事にTrES-1の減光が捉えられていることが分かったときには,とてもホッとしました。夕方からはマカリィ・スクールの本番でした。


8月10日午前中のデータ処理

帰国後のデータ解析
 観測データについては,布施哲治先生から詳細な観測ログと画像データセットを頂きました。ハワイで速報のために解析したときは,1つ1つの画像の測光条件を手作業で設定しました。この方法では,明るさを測定する範囲(アパチャー)が一定になりません。 こうしたことも測定誤差を生むので,測る範囲を指定して自動的に測定ができるソフトウェアを導入して測光を行いました。また,明るさを比較する恒星も数を多くして平均をとるなど,より精密な測定を試みました。その結果,TrES-1の観測データとしては,これまでのものと比べて高い精度を達成することができました。

得られた成果
 系外惑星が,太陽系の木星のように惑星を持っていたり,土星のように環を持っていたりすると,トランジットの際に光度曲線に影響が現れるはずです。TrES-1については,小口径望遠鏡による多数の観測データの重ね合わせから,その可能性が指摘されていました。今回の観測で,トランジット開始前後に環や衛星の影響が検出される可能性がありました。


図1:成蹊高校の15cm屈折望遠鏡で撮影したTrES-1。内側の長方形がほぼ図2と同じ。60秒露出をかけている。


図2:FOCASの1つのCCDによる画像。

図3:FOCASがとらえたTrES-1の減光曲線

 しかし,現在までのデータ解析の結果,測定は±0.01等級の精度で成功していますが,トランジット時の光度曲線はなめらかで,環や衛星の存在はこの精度の範囲で検出されていません。ただし,TrES-1bと衛星や環との位置関係によっては,光度曲線に影響が出ない可能性があるため,同じ方法による観測を重ねる必要があると考えています。

参加した生徒のこれから
 今回,すばる-マカリィ・スクールに参加した部員は,2006年4月に高校卒業を迎えます。4人とも大学への進学が決まっています。

生徒たちの感想
 正直な所,天文気象部に入部してハワイに行く事になるとは夢にも思いませんでした。私達が使用させていただいたすばる望遠鏡はハワイ島マウナケア山の山頂に設置された世界有数の性能を持つものです。選考を突破してハワイ行きが決定した時は,みんな有頂天にならざるをえませんでした。と同時に,出発日が近づくと語学のことや高山病で不安になりました。専門家の方のご指導にそって観測計画を練り上げた後,ワクワクしながら遂にすばる天文台に到着。望遠鏡は予想以上に巨大で迫力がありました。自分達のクラブで使用する望遠鏡がまるでオモチャの様に感じたのを覚えています。

※本リリースは、成蹊高校・天文気象部の顧問の宮下敦先生の原稿を元にしています。

 

 

 

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