観測成果

すばる、最も遠い銀河を発見

2003年3月19日

SDF False Color Image 天体名:すばる深宇宙探査領域
使用望遠鏡: すばる望遠鏡 (有効口径8.2m)
使用観測装置:Suprime-Cam(主焦点カメラ)、FOCAS(微光天体撮像分光装置)、IRCS(近赤外線撮像分光装置)
フィルター:i'バンド(683-854nm)、z'バンド(834-993nm)、狭帯域フィルター(908-932nm)
観測日時:2002年4月~6月
露出時間:4.7時間 (i'バンド)、5.8時間 (z'バンド)、5.0時間 (狭帯域フィルター)
画像の向き:北が上、東が左
視野:27分角(東西) x 34分角(南北)
位置:赤経(J2000)=13時24.4分、赤緯(J2000)=+27度29分(かみのけ座)

低解像度画像 (160KB)
中解像度画像 (640KB)
高解像度画像 (3.6MB)
低解像度画像 (矢印なし) (160KB)
中解像度画像 (矢印なし) (640KB)
高解像度画像 (矢印なし) (3.6MB)


  すばる望遠鏡は、およそ128億光年かなたにある最も遠い銀河を発見しました (赤方偏移が約6.6;注1)。 今回の観測は、望遠鏡を 運用するハワイ観測所のプロジェクト「すばる深宇宙探査計画」によるものです。プロジェクトチームは、特殊なフィルターを取り付けた広視野カメラで天体を検出、続く分光観測により地球から約 128億光年離れていることを確認しました。宇宙が生まれて間もないころの銀河の発見により、宇宙の誕生直後の様子についてさらに理解が深まるものと期待されています。

 2002年4月から、すばる望遠鏡を運営するハワイ観測所自らが企画し、 実行にあたっている「すばる深宇宙探査計画」が開始されました。 通常のすばる共同利用観測では、一つの課題に割り当てられる観測 時間が、半年間に最大三晩に限られていますが、この観測は、これまですばる望遠鏡の建設に携わった人々が協力し、観測時間を充分に使って成果を出そうとする三つの「すばる観測所計画」の一つと して行われました。「すばる深宇宙探査計画」は、主に銀河形成・ 進化に絡む多くの未解決の問題を解明しようとするものです。なかでも最大の目的は、非常に遠くにある銀河の探査と理解にあります。 銀河から放たれる光の速さは有限であるため(注2)、宇宙の観測において、「遠くを見る」ということは「昔の宇宙の姿を見る」ということに相当します。従って、最も遠くにある銀河を探すということは、宇宙の最初の時期の、生まれて間もない銀河を探すことでもあるのです。

 生まれたての若い銀河は、盛んに星が作り出されるため、星に照らされたガスが、水素の強い輝線(波長122ナノメートル)を放射します。この水素輝線は、赤方偏移によって、長い波長側(赤い側)に大きく移動し、ある特定の狭い範囲の波長で非常に明るく輝きます。 また、遠方の銀河の場合、地球との間の宇宙空間に漂っている中性 水素によって、この水素輝線の短い波長側(青い側)の光が大きく吸収されるため、水素輝線の左右で段差ができ、かつ、水素輝線が左右非対称になります。これらの特徴がきちんと確認されて初めて、 遠くの生まれたばかりの銀河であると断定することができます。

 「すばる深宇宙探査計画」チームでは、赤方偏移が約6.6(宇宙誕生 から約9億年後)という、人類観測史上、最も遠くにある、強い水素輝線を放射する銀河を見つけるために、波長908-932ナノメートルの光のみを透過させる、特別な「狭帯域フィルター」を製作しまし た。そして、このフィルター、及び、より波長の短い側、長い側の光を透過させるフィルターを、すばる主焦点カメラSuprime-Camに取り付け、2002年4-5月に大規模な撮像観測を行いました。すばる 主焦点カメラは、満月の大きさ相当の領域を一度に観測できるという、他の大型望遠鏡にはない優れた特徴を持っています。この大きさに渡って、約6時間の露出を行うことにより、非常に暗い銀河まで、約5万個もの天体を検出しました(カバーの図)。これらの天体の中から「狭帯域フィルターのみで非常に明るく輝いている」、かつ、段差のサインである「短波長側に比べて、長波長側の方が明る い」という特徴を示す(図1)、赤方偏移が約6.6の生まれたての銀河の候補を約70個見つけました。

 2002年6月、この中の9天体をすばる微光天体撮像分光装置FOCASによって分光観測し、2天体において「段差がある」ということと、「非対称性な水素輝線」が確認され(図2)、赤方偏移が6.58、6.54 であることがわかりました。これらは、約137億年前の宇宙誕生から約9億年しか経過していない時代の銀河です。これまでは、銀河 の集団が、背後の天体の光を明るくさせる「重力レンズ効果」を用 いて、赤方偏移が6.56の銀河が1個発見されていました。今回の観測は、重力レンズ効果の助けを借りることなく、2個も発見するこ とに成功し、その内の1個は、人類観測史上、最も遠方の銀河であることがわかりました。

 今後もこの観測プロジェクトは引き続き行われ、さらに多くの、遠くの銀河を発見することが期待されます。この研究の中心メンバーである、総合研究大学院大学の小平桂一さん、国立天文台の柏川伸 成さん、東北大学の谷口義明さんらは、数多くのサンプルを用いることにより、生まれたばかりの銀河の一般的な特徴、及び、宇宙の 暗黒時代の終焉時期(注3)について重要な示唆が与えられる可能性があると期待しています。

この研究成果は、日本天文学会欧文報告誌2003年4月号に掲載されます

注1:宇宙は膨張しているため、ほとんどの銀河は、我々から遠 ざかっています。それにより、光がより波長の長い側(赤い 光) に移動する赤方偏移と呼ばれる現象を起こします。我々 からより遠くにある銀河ほど、より大きな赤方偏移を示し ます。ここでは、最新の研究成果に基付き、宇宙が137億年 前に始まったとするモデルを採用します。

注2:光の進む速さは、1秒間に30万キロメートル(地球7周半相当)、 1年間に約10兆キロメートル(これを1光年と呼ぶ) です。

注3:ビッグバンで始まった我々の宇宙は、最初は陽子と電子が ばらばらに存在するプラズマ状態にありました。宇宙の膨 張と共に冷え、宇宙開始から約100万年後には陽子と電子が 物理的に結び付いた中性の状態になり、その後、生まれてきた天体からの光によって再びプラズマ状になったと考え られています。宇宙が再びプラズマ状になる前を暗黒時代 と呼びます。しかし、その終焉時期はまだはっきりとはわ かっておらず、宇宙で一番最初の天体がいつ生まれたか、 という問題に関連して、解明すべき最も重要な天文学の問 題の一つです。

Newly discovered galaxies in three filters 図1: 今回発見された2個(上段a, 下段b)の遠くの生まれたての銀 河。左から波長の短い(青い)順にi'バンド、狭帯域フィルター、 z'バンドでの見え方の違いを示しています。中央の狭帯域フィ ルター(波長908-932ナノメートル)のみで非常に明るく輝いて います。青い側(左図)では天体は見えませんが、赤い側を含 む右端の図では見えています。この画像の視野は10秒角 x 10 秒角です。
Spectra of newly discovered galaxies 図2: FOCASにより取得された2個の銀河のスペクトル。水素の強い   輝線(波長122ナノメートル;上目盛り)が大きく赤方偏移して、 波長915-920ナノメートル(下目盛り)で観測されているのがわ かります。水素輝線の赤い側に比べて、青い側で信号が少な く、段差が確認できます。かつ、水素輝線が左右非対称で、 青い側がより急激に落ちているのがわかります。

資料:

これまでに見付かっている遠方銀河ランキング:ベスト12これまでに見付かっている遠方銀河ランキング:ベスト12

星図:2003年3月20日 午後8時の星空 [東京]星図:2003年3月20日 午後8時の星空 [東京]



 

本研究に参加した研究者のリスト

 

 

 

画像等のご利用について

ドキュメント内遷移