観測成果

銀河の周りに広がる超巨大ガス雲の発見

2002年4月15日


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【観測条件】
天 体 名: 活動銀河 NGC 4388
使用望遠鏡:すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、主焦点
使用観測装置:Suprime-Cam (すばる主焦点カメラ)
フィルター:[OIII]輝線狭帯域 (500nm)、Vバンド (550nm)、Hαバンド (660nm)
カラー合成:青([OIII]輝線狭帯域)、緑(Vバンド)、赤(Hαバンド)
観測日時:世界時2001年3月24日、4月24日、26日
露出時間:60分 ([OIII]輝線狭帯域)、15分 (Vバンド)、160分 (Hαバンド)
視野:約11.6分角x約8.3分角
画像の向き:北が上、東が左
位 置:赤経(J2000.0)=12時30.8分、赤緯(J2000.0)=+12度23分 (おとめ座)

 すばる望遠鏡の主焦点カメラ (Suprime-Cam) による観測で、NGC 4388 と呼ばれる銀河の周りに大きさが約 11 万光年もある電離した水素のガス雲を発見しました。画像の中で、銀河の中心から左上の方向に広がる紫色や赤色に見えているのが今回発見したガス雲です。この銀河は、私たちの銀河系からおよそ6000万光年離れた、おとめ座銀河団に属しています。今回のガス雲の発見は、銀河団内で集まっている銀河の進化を解明する手がかりになると期待されています。

 50個から数千個の銀河が重力により集まっている銀河団は、宇宙の大局的な構造を形づくっています。今回すばる望遠鏡が観測した NGC 4388 (*) は、私たちの銀河系に最も近い おとめ座銀河団に存在する活動銀河と呼ばれる銀河の一つです。活動銀河の中心部には、太陽の百万倍もの重さの超大質量ブラックホールがあるとされています。銀河の中心にあるブラックホールへガスが落ち込む際に膨大なエネルギーを放出するため、活動銀河は、銀河内のすべての星の光を集めたよりも明るく輝いています。このエネルギーが水素原子から電子をはぎ取り、電離状態になった水素ガスが再び電子と結合する際に特定の波長の光を放出します。

 これまでにも、NGC4388 では大きさ約 1 万光年の電離した水素のガス雲の存在が知られていました。今回の観測で発見した巨大な水素ガス雲のうち、NGC 4388 の中心から約 5 万光年離れたところまでは、ブラックホールが放つエネルギーによって電離していることが明らかになりました。しかしそれよりも外側に広がるガスを電離させるメカニズムは、なぞのままです。NGC 4388 のガス雲は、2000年3月に公開した FOCAS による M82 (NGC 3034) から噴き出すガスに比べて、10倍以上の大きさがあります。

 NGC 4388 の水素ガス雲の起源としては、いくつかの可能性が考えられます。例えば、おとめ座銀河団の中に存在していた高温のガスと NGC 4388 が衝突することにより、NGC 4388 内にあったガスがはぎ取られたという衝突はぎとり説があります。また、NGC 4388 が周囲にある小さい銀河 (わい小銀河) を飲み込んだ際に、わい小銀河からガスが飛び出したという説もあります。

 今後、すばる望遠鏡のような大型望遠鏡により、NGC 4388 の電離ガス雲が放つ光の詳しいスペクトルを得ることができれば、ガス雲の運動や電離状態が明らかになるでしょう。ガス雲の起源や電離のメカニズムを解明することで、銀河団内における銀河の進化に対して、新たな視点が与えられると考えられます。

 すばる望遠鏡の観測データを解析した国立天文台の吉田道利さんは、今回の発見について「NGC4388の周りに電離ガスがこれほど広がっているとは予想もしなかった。このような電離ガスを手がかりとして、今までよく分からなかった銀河を取り巻くガスの起源や物理状態を明らかにしていくことができるかもしれない」と話しています。

 本成果は、2002年3月1日付の Astrophysical Journal 誌に発表されています。

注:明るい星から伸びるスパイク状の光はブルーミングと呼ばれ、天体画像を撮影する CCD (電荷結合素子) の一部にあたった強い光が他の素子へあふれ出したことにより生じた人工的なものです。また画像には、観測中に移動した太陽系内に存在する複数の小天体も写っています。

(*) NGC:New General Gatalogue of Nebula and Clusters of Stars (略して NGC) は、デンマークの天文学者ドライヤー (J.L.E. Dreyer) によって 1888 年に出版された天体の目録。7840個の銀河や星雲、星団などの広がりを持った天体について、天球上の位置・形状・見え方などが記載されている。

 

 

 

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