観測成果

環状星雲を包む微かなハロー

1999年9月16日


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【観測条件】
天 体 名: 惑星状星雲 M57
使用望遠鏡: すばる望遠鏡 (有効口径 8.2 m)、カセグレン焦点
使用観測装置: Suprime-Cam (可視光広視野カメラ)
フィルター: Hα (0.65 ミクロン), B (0.45 ミクロン), V(0.55ミクロン)
カラー合成: 青 (B), 緑 (V), 赤 (H alpha)
観 測 日 時: 世界時1999年5月14・23日、6月15日
露 出 時 間: 25 分(Hα), 6分 (V), 40 分 (B)
視   野: 3x4分角
画像の向き: 北が上、東が左
位   置: 赤経 (J2000.0) = 18 時 53 分 36 秒 赤緯 (J2000.0) = +33 度 02 分 (こと座)

【説 明】
  こと座にある惑星状星雲 M57 (NGC 6720) は、地球から約 1600 光年の距離にあり、その形から環状星雲 (リングネビュラ) と呼ばれている。惑星状星雲とは、望遠鏡で見るとコンパクトながら大きさや模様を持ち、一見惑星のように見えることからそのように呼ばれている星雲である。しかし実際は、星が死ぬ間際の姿である。

  この環状星雲は、中心星の周りにドーナツのようなリング (環) を持つ惑星状星 雲である。今までの観測から、くっきりとしたリングの周りには微かな光を放射するハローと呼ばれる構造があることがわかっていた。しかしハローは極めて淡く観測が困難であるため、その詳しい構造はわかっていなかった。

 すばる望遠鏡に取り付けた可視光広視野カメラ Suprime-Cam による観測では、 高い分解能と大きな集光力により、環状星雲のリングや、特にハローの微細構造をこれまでになくはっきりと写し出すことに成功した。このようなデータから環 状星雲の構造だけでなく、赤色巨星からの周期的なガス放出の様子が解明されると期待されている。

  <惑星状星雲> 星はその質量により、進化の最終段階における振る舞いが決まる。太陽の質量の 約 0.8 倍から8倍くらいの星は、中心の水素を燃やしつくすと外層が膨張し、巨大な赤色巨星へと進化する。そして膨らんだ外層のガスの大部分は、周囲に流出し広がってゆく。外層がごくわずかになると星本体は収縮を始め、高密度の白色わい星へと進化して行く。さらに収縮により表面温度が数万度以上になると、星はエネルギーの高い紫外線を放射し始める。惑星状星雲は、この中心星の紫外線により、赤色巨星の時代に放出され周りへ広がってゆくガスの雲が熱せられ、電離して光っている状態である。その形は、いろいろな段階で中心星から放出されたガスの分布、中心の白色わい星からの紫外線強度、星雲を見る方向など様々な要因により決まる。惑星状星雲の一つ一つが極めて多様で美しい形を示すのは、そのためである。

【左図】
  この図は Hα (水素原子が放出する赤い光、中心波長は 6563 オングストローム) の輝線を観測した画像に、疑似カラー処理を行ったものである。この図から中央に明るく輝くリングは一様ではなく、複雑かつ微細な構造を持つことがわかる。リングの大きさ (長径) は約 0.7 光年であり、中に見える2つの星のうち、中心に位置する星が環状星雲を光らせている白色わい星 (中心星) である。

  リングの外側にあるハローは、今回初めて明瞭にとらえられた。バラの花びらのような多数のループ構造を持つ内側ハローと、その外側に広がる淡い外側ハローからなることがわかる。リングと内側ハローはやや細長い楕円だが、外側のハローはほぼ円形である。ハローの大きさは内側ハローの長径が約 1.2 光年、外側ハローの直径が約 1.8 光年である。内側ハローの中には、さらに小さいループや太く濃いフィラメントと呼ばれる構造がはっきりと見える。またガスが冷えて凝縮して行く過程と考えられている多数の小さな固まり (ノット) が、内側・外側ハローの中に存在しているのがわかる。このような2つのハローを構成するガスが放出された時期は、まだはっきりとわかっていない。

  従来、環状星雲は球殻からなると考えられていた。しかしこのような多重のハローの存在から、より複雑な構造を持つことが示された。

【右図】
  この図では、3つのフィルターで観測した画像を実際に見える色に近い配色に合 成した。ハローは淡くなっているが、リングの微細な構造がよりはっきりと見えるように処理をしてある (最大エントロピー法)。左図では見えなかった細かい フィラメントやシミのような構造があることがわかる。

補足説明 (JPG, 72 KB) / 補足説明 (PDF, 602 KB)

参考星図 (PDF, 143 KB)

 

 

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