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すばる観測研究体験企画

2006年6月22日

観測実習中の様子

 「すばる観測研究体験企画」は、すばる望遠鏡を用いた研究に興味を持つ大学の学部学生を対象に、実際の観測の一連の流れを体験することで観測研究の手法について学んでもらおうというものです。参加学生が今後の進路を決めるよりどころになれば何よりですし、同時にハワイ観測所としても、将来、すばるを用いた観測研究/開発研究を行う優れた若手研究者を育てていきたいという狙いがあります。

 この企画は2003年春から始まり、今年で4回目になりました。最初の2回は、「観測見学」の要素が強く、参加学生から「観測を実際にしてみたい」との要望が多かったことから、昨年より、観測計画の立案から観測の遂行まで参加学生に実際に行ってもらうことになりました。今回は、「近傍銀河の赤方偏移と回転曲線の測定」というテーマでHDSを用いた観測を行うことになりました。

 今回は、6大学から8名の学部学生(7名の3年生と1名の2年生)が参加しました。在籍学科は、天文、物理、応用物理、コンピュータシミュレーション、地球惑星など様々ですが、「宇宙に興味がある」、「すばる望遠鏡で観測してみたい」という強い意思を持って参加した人たちばかりです。

 とはいえ、まだ観測の実経験がない人が殆どですので、事前の準備はしっかりと行ってもらいました。まず、ハワイに来る一ヶ月ほど前の2月13日に、東京の国立天文台三鷹キャンパスにて観測準備セミナーを行い、望遠鏡、観測装置、観測対象について各自が勉強した結果を発表してもらいました。同時に、天文台の若手研究者が最先端の観測研究を紹介する機会も設けました。そして、3月7日から5日間にわたるハワイ島(ヒロ、マウナケア)での体験企画が以下の日程で行われました。

 全部は紹介しきれませんので、以下ではいくつかのイベントについてかいつまんで紹介します。

1日目
・ハワイ島 ヒロ到着
・セミナー
・歓迎会
2日目 ・山麓施設見学
・山頂施設見学(望遠鏡、ドーム、観測装置、制御室など)
・マウナケア中腹の宿泊施設にて高地順応
・観測前のミーティング
・データ解析講習会(その1)
3日目 ・データ解析講習会(その2)
・マウナケアでの観測実習と通常の共同利用観測の見学
4日目 ・データ解析講習会(その3)
・懇親会
5日目 ・帰国

1日目:ヒロセミナーと歓迎会
 セミナーでは、ハワイ観測所のスタッフ、研究員、大学院生たちが行っている開発研究や、自分の興味のあるサイエンスについて発表しました。初日の時差ボケ状態で、開始直後は眠そうだった学生達も、セミナーが進むとともに興味津々で話を聞いていた様子でした。装置開発の苦労話や研究者を志す上で大切な事柄などの話もでました。その後の歓迎会とも合わせて、研究者の生の声が聞けるよい機会になったのではないでしょうか。

2日目:観測前打ち合わせ、データ解析講習会
 山麓・山頂施設の見学をしたあと、翌日の山頂観測に備えるために、マウナケア中腹にあるハレポハクに泊まって高地順応をしました。夕食後には1時間程度の観測打ち合わせを行い、明日の観測がどのような時間割で行われるのか、観測手順や各自の役割分担(観測指示、データチェック、ログ書き) を確かめ、またどうすれば効率よく観測できるのか学生同士でディスカッションしました。この後のデータ解析講習会では、観測中に取ったデータをコンピュータでえつ覧するやり方や観測後のデータ処理方法について実習してもらいました。UNIXというオペレーティングシステムのコンピュータを使うのもはじめてという学生もおり、この日は解析のごく初歩のところまでで終わったため、臨時で3日目の昼間にも引き続き実習を行いました。

3日目:マウナケアでの観測実習
 いよいよ企画のメインとなるマウナケアでの観測体験です。昼間の山頂の天気は霧でした。夕方 5時半くらいに山頂に到着しましたが、湿度が非常に高くドームを開けることすらできません。それでも、6時半ころには、バイアス、フラット、波長較正フレームといったキャリブレーション用のデータを取りはじめました。悪天候のため予定の観測は全くできなかったのですが、Support Astronomerの田実晃人さん、観測者の青木和光さん、オペレータの原沢寿美子さんやMichael Letawskyさんに、望遠鏡、観測装置、観測方法などについて、学部生達は熱心に質問していました。

懇親会での一コマ

4日目:データ解析講習、懇親会
  データ解析講習会では、前日に山頂で取った観測データを用いて解析を行ってもらう予定だったのですが、観測が全くできなかったため、過去の観測データを使用して実習しました。データ解析がハワイ滞在中に終わらなかったという前年の反省点から、今年は十分な時間をとって、バイアス引きから始まり、スペクトル抜き出し、波長較正までの基本的なデータ処理についての講習を終えることができました。夕方からは、唐牛宏前ハワイ観測所所長の自宅で懇談会を行い、体験企画最終日を締めくくりました。

 今回の企画では、悪天候のため、実際の観測を行うことができなかったのが、残念でした。それでも参加した学生達は、限られた機会を逃さずに、観測について、研究について、あるいは研究者について知識を得ようとしていました。今回の体験が、「自分がどんなことに興味を持っているのか、将来どんな研究がしたいのか」知る手助けになればと何よりだと思います。

 参加学生たちの臨場感あふれる感想を右のリンク先にてご覧ください。 感想のページ



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