観測成果

スーパーコンピュータで銀河の進化を解明 -楕円銀河の生い立ち-

2006年4月10日

この記事は筑波大学計算科学研究センターのプレスリリースを転載したものです。
(転載元: http://www.ccs.tsukuba.ac.jp/Astro/Members/mmori/press_release/)


  専修大学の森正夫助教授 (現カリフォルニア大学ロサンゼルス校客員教授) と筑波大学の梅村雅之教授は、スーパーコンピュータを用いた世界最大級の大規模シミュレーションにより、すばる望遠鏡等で続々と発見された 100 億年以上の昔に存在した太古の天体の正体の謎を解明しました。この結果は 2006年3月30日出版の英国科学誌Natureの表紙を飾りました。

  飛躍的な観測装置と観測技術の進歩により、水素原子から出る、ある種の紫外線 (ライマンアルファ輝線) で明るく輝く太古の天体ライマンアルファエミッターが、はるか彼方の宇宙の深遠部で大量に発見されています。しかしながら、このような天体がどのように進化し、現在の宇宙のどういった天体に対応するのかは今まで謎でした。我々は、ライマンアルファエミッターで見られるような、非常に複雑な構造の発生メカニズムには、銀河進化の初期に大量に発生すると予測される超新星爆発の影響が、重要な鍵になっているのではないかと考えました。そして、この仮説を立証するため、銀河進化の流体力学シミュレーション解析に挑戦しました。


  スーパーコンピュータ "地球シミュレータ" を用いた大規模シミュレーションにより、ライマンアルファエミッターが原始の銀河であり、短時間の間に大量の星が誕生し、生命の源となる様々な元素が大量に生成されている現場であることを突き止めました。そこでは多数の超新星爆発が発生し、その爆風により熱せられた衝撃波を伴う大量の水素原子ガスが複雑な分布をしながら、強いライマンアルファ輝線を出して光っているのです。


figure1

図1: (a) すばる望遠鏡によって観測されたライマンアルファエミッター (松田有一氏及び共同研究者提供) と (b) 本シミュレーションによるライマンアルファ輝線放射の輝度分布の比較です。観測されたライマンアルファエミッションの泡状構造やフィラメント状構造をよく再現できていることがわかります。このようにして、我々は世界で始めて、ライマンアルファエミッターの内部構造の特徴を再現する理論モデルを構築することに成功しました。 (クレジット: 森正夫 (専修大学))


  我々の計算結果は、この天体は生まれて間もない原始の銀河のため、宇宙の物質循環がそれほど進んでおらず、重元素が空間的に非一様な分布をしていることを予言しています。また、ライマンアルファエミッターがライマンブレーク銀河 (深宇宙で大量に発見されている銀河で、活発な星生成による強い紫外線が観測されている) の時期を経て、最終的に現在の宇宙にあまねく存在する楕円銀河に進化していくことが示されました。


関連リンク
スーパーコンピュータで銀河の進化を解明 -楕円銀河の生い立ち-
The evolution of galaxies from primeval irregulars to present-day ellipticals
原始の不規則銀河から現在の楕円銀河への進化



 

 

 

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