お知らせ

すばる望遠鏡、カセグレン焦点での観測を再開 (すばる望遠鏡障害発生報告 第四報)

2011年8月30日16時 (ハワイ)、31日11時 (日本) 発表

  すばる望遠鏡は7月2日 (ハワイ現地時間、以下同じ) の冷却液漏れのあと、7月22日よりナスミス焦点に限って共同利用観測を再開しておりました。これに続き、カセグレン焦点において、8月25日に試験観測を行い、8月26日より共同利用観測を再開しました。

  カセグレン焦点は主鏡の下にあり、冷却液漏れによる直接の影響を受けた部分ですが、障害を起こした主焦点部とは全く別の箇所です。第三報でもご報告いたしましたように、冷却液漏れの障害を起こした主焦点部ユニットを、現在は望遠鏡から完全に取り外しており、冷却液漏れは再発しない状態になっています。当面の共同利用観測では、冷却液を使わない副鏡を主焦点部にとりつけ、それにより観測可能なナスミス焦点およびカセグレン焦点の利用を進めていきます。

  一方、障害発生当時にカセグレン焦点に設置していたため、冷却液漏れによる影響を受けた観測装置の微光天体分光撮像装置 FOCAS および周辺光学系は、取り外して状況の調査・修理を進めています。今回は、障害発生時にカセグレン焦点に設置しておらず、また周辺光学系の機能がなくても観測を実施できる観測装置として、冷却中間赤外線分光撮像装置 COMICS と、多天体近赤外撮像分光装置 MOIRCS の撮像機能で、カセグレン焦点での観測を再開しました。

  主焦点部の冷却液漏れの原因については、調査委員会による報告を受けてお知らせいたします。


国立天文台


用語解説:カセグレン焦点の観測装置 (下図)

  現在、すばる望遠鏡のカセグレン焦点では3つの観測装置を利用しています。これらの装置での観測を遂行するために補助的に用いられる機器は周辺光学系とよばれます。

・冷却中間赤外線分光撮像装置 COMICS (Cooled Mid-Infrared Camera and Spectrometer)
  マウナケア山頂は空気が薄く非常に乾燥しているため、湿度の高いところではできない中間赤外線による観測が可能です。COMICS はこのようなマウナケアの優れた中間赤外線透過率を生かすための分光撮像装置です。惑星系の形成過程や系外銀河の大規模な星形成現象、また星間空間の固体成分である塵 (ダスト) の性質や形成過程を調べることができます。この装置は、周辺光学系を使わなくともほとんどの場合で観測が可能です。

・多天体近赤外撮像分光装置 MOIRCS (Multi-Object Infrared Camera and Spectrograph)
  近赤外線用としては巨大な 400 万画素の検出器を2つもち、広い視野の撮像が可能なカメラです。また、口径が 8~10 メートル級の大望遠鏡では世界で初めて、近赤外波長域で一度に多数の天体の分光観測を可能にした装置です。これらの機能により、観測の効率が劇的に向上し、遠方銀河の研究に威力を発揮しています。撮像観測の場合、周辺光学系を使わなくとも観測可能なものがあります。2011年8月から始まった 2011B 期では、9月中旬に最初の観測が予定されています。

・微光天体分光撮像装置 FOCAS (Faint Object Camera And Spectrograph)
  可視光で高い感度の観測を行う基本装置です。視野内の 100 個の天体のスペクトルを同時に撮影できる機能を使用することにより、宇宙の果て近くにある銀河までの距離を効率よく調べることができます。 今回の冷却液漏れが起きた夜にカセグレン焦点に付いていたため、影響を受けてしまいました。現在、部品を取り外して検査を進めているところです。

・周辺光学系
  観測装置そのものではありませんが、補助的に使用される機器。視野の中にある星をとらえて、観測目的天体の追尾を正確に行うためのオートガイダー、主鏡の形状を検査するためのシャックハルトマン・カメラ、観測中の視野回転を補正するための機構 (主焦点およびカセグレン焦点では装置そのものを回転させる、ナスミス焦点では3枚の鏡を用いてカメラに映る画像を回転させる)、および波長により大気の屈折率が異なることを補正するための大気分散補正光学系などがあります。今回の冷却液漏れが起きた夜にカセグレン焦点に付いていたため、影響を受けてしまいました。現在、該当する部品を取り外して検査を進めているところです。

  

すばる望遠鏡本体とカセグレン焦点の観測装置。

:すばる望遠鏡本体とカセグレン焦点の観測装置。共同利用観測を再開したカセグレン焦点では、冷却中間赤外線分光撮像装置 (COMICS)、多天体近赤外撮像分光装置 (MOIRCS) を用いた観測を行うことができます。従来は微光天体分光撮像装置 (FOCAS) での観測も可能でしたが、冷却液漏れの影響を受けたために現在は望遠鏡から取り外し、状況の調査・修理を進めています。

  

  


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