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FOCAS の面分光機能が共同利用観測を開始

2019年7月3日 (ハワイ現地時間)

  すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置 FOCAS に「面分光」という機能が新たに加えられ、2019年6月から共同利用観測を開始しました。面分光とは星雲や銀河など広がった天体の各場所のスペクトルを一度の露出で得ることができる観測手法のことです。この機能を用いれば、場所ごとの物理状態の違いを詳細に、しかもくまなく調べることができるようになるので、銀河進化などの研究で活躍することが期待されます。


図1

図1: FOCAS の面分光機能を使った共同利用観測の様子。データが読みだされて、表示されるのを今か今かと待っている観測者たち。(クレジット:国立天文台)



  FOCAS は可視光で高感度の観測を行う基本装置で、すばる望遠鏡が運用を開始した2000年から活躍しています。天体画像を取得する「撮像観測」とスペクトルを調べる「分光観測」を行うことができます。撮像観測ではスターバースト銀河 M82 から吹き出す水素ガスの分布を高解像度で捉えたり、分光観測では史上最も遠方 (当時) にある銀河の確認で活躍したりと、数々の成果を上げてきました。特に分光観測モードでは、視野内の 50 天体程度のスペクトルを同時に撮影できる機能も備えており、多くの天体に対する統計的研究も効率的に行うことが可能です。

  しかし基本的に、撮像観測ではスペクトル情報を得ることができず、分光観測では天体の広がりを捉えることできませんでした。そこで銀河などの広がった天体の詳細研究のために、天体の各場所のスペクトルを得られる面分光が考案され、最近では撮像観測と分光観測とともに重要な天体観測手法と認識されるようになってきました。

  今回の共同利用観測で FOCAS の面分光機能を使って最初に観測された天体は、重力レンズ効果を受けた遠方銀河でした。筆頭研究者の Russell Smith さん (英国・ダーラム大学) は、「北天をカバーする大口径望遠鏡で、広い視野と広い観測波長を高い効率で面分光できる装置は FOCAS の面分光機能だけです」と期待を語っています。


図2

図2: FOCAS の面分光機能で初めて得られた科学的データ。右は中央付近の拡大図。縦方向が波長方向。銀河の各場所のスペクトルが画像全面にわたって写し出されています。縦に伸びているのが銀河のスペクトルで、横に伸びているのは全て地球大気起源の輝線。(クレジット:Smith et al.)


図3

図3: (左) 簡易的解析して得られた楕円銀河のイメージ。(中央) 楕円銀河の重力レンズ効果を受けている遠方銀河。楕円銀河の光を引くことで初めて見えてきました。重力レンズを受けた天体特有の円弧状の構造がはっきりとみられます。(右) 青丸のところのスペクトル。得られたスペクトル (青線) から天体の写っていない場所のスペクトル (オレンジ線) を引くと、天体だけのスペクトル (緑線) が得られます。大気起源の明るい輝線の間にある遠方銀河起源の輝線が明らかに見られます。このような天体は、撮像観測では手前の銀河が明るすぎて検出できません。一方で従来の分光では構造を捉えることができません。まさに面分光という手法を使わないと実現できない研究テーマです。(クレジット:Smith et al.)


  「面分光機能を可能にする面分光ユニットには、形状が複雑であるにもかかわらず高い加工精度を必要とする部品が必要でした。これを製造できるかどうかが大きな技術課題でしたが、国立天文台先端技術センターの技術者の方々の多大な努力のおかげで、満足のいく部品を完成させることができました (注1)」と語るのは、FOCAS に組み込まれた面分光ユニットの開発プロジェクトを推進した尾崎忍夫さん (国立天文台 TMT 推進室) です。尾崎さんは「TMT にも面分光機能を持つ装置が搭載される予定です。これを機に国内での面分光研究が盛んになって、TMT でのサイエンスにつながってくれれば嬉しいです」と期待を寄せています。

  また FOCAS の運用に長年携わってきた国立天文台ハワイ観測所 観測装置研究シニアスペシャリストの服部尭さんは、「FOCAS は既に 20 年近く使われている観測装置ですが、新しい機能を追加したり性能を向上させたりすることで競争力を維持する努力を続けてきました。今回面分光機能が追加されたことで、FOCAS を使って観測したいという人がさらに増えた事を嬉しく思います」と、すばる望遠鏡と FOCAS の魅力がさらに上がったことに喜びを表しています。


  FOCAS 面分光ユニットの開発は科学研究費補助金・基盤研究 (C) (課題番号:JP26400236) と国立天文台 TMT 戦略基礎開発研究経費の助成を受けています。


  (注1) 面分光の説明と先端技術センターでの開発の様子はこちらに詳しい説明があります。





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