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宇宙ライター林公代の視点 (15) : 宇宙のいちばん星

2016年10月19日 (ハワイ現地時間)

人は「星の子」

  私たちの身体は酸素、炭素、窒素などの元素からできています。それらの元素はすべて、宇宙で作られたものです。しかし、宇宙には最初から酸素や炭素などの元素があったわけではありません。ビッグバンの直後には水素とヘリウム、そして微量のリチウムしかありませんでした。では炭素や酸素などの元素 (重元素 (注1)) はどのように作られたのでしょう?それは恒星の中です。太陽のような恒星は水素が核融合を起こすことで輝いていますが、この核融合で水素からヘリウムを作り、ヘリウムから炭素を作り・・というように核融合の連鎖が起こります。こうして作られた元素が放出されて、次世代の恒星や惑星の材料となり、それが繰り返されていったのです。恒星で作られた元素から私たちの身体ができていることから、人は「星の子」と言えるのです (図1)。


図1

図1: 初代の巨大質量星爆発の想像図。大質量星の集団のなかで最も質量の大きいものが爆発を起こし、周囲に物質を放出すると考えられます。(クレジット:国立天文台)



  「水素とヘリウムの宇宙」から「多様な元素を含む物質宇宙」へ。劇的な転換の鍵を握るのが、宇宙で最初に生まれた「初代星」です。星形成のある理論 (注2) は、巨大質量 (太陽質量の数百倍以上) をもつ初代星もあったと予測していますが、それに対するはっきりした証拠はありません。もしそれほど巨大な初代星があったなら、周囲の環境を変えるような多大な影響を与えたと考えられます。このように宇宙の歴史上、重要な役割を果たした初代星のことを知りたいと天文学者は切望しています。しかし初代星は質量が巨大であったために数百万年の寿命しかなかったと考えられており、もはや直接観測することは困難です。

  そこで天文学者が狙うのは、初代星の次に作られた「第二世代の星」です。初代星が作り宇宙に放出した元素は、第二世代の星に取り込まれます。星はいったん生まれると、あまり周囲の物質とやりとりをしないので、星表面の組成をおおむね保ったまま生き続けます。そのため第二世代星には、初代星の痕跡が「化石」のように刻みこまれているはずです。第二世代星を詳しく調べることで、初代星の質量や元素組成についても、情報を得ることができるのです。


(注1) 重元素:主に水素とヘリウム以外の元素を天文学では重元素と呼びます。

(注2) 重元素を含まないガス雲からの星形成理論を指します。


もっとも鉄が少ない「第二世代星」を発見!

  では第二世代の星はこの宇宙のどこを、どのように探せばよいのでしょうか?太陽は現在約 46 億歳ですが、寿命は約 100 億年と言われています。そもそも宇宙初期から百数十億年も生き続けている恒星があるのでしょうか?答えは YES。太陽より小さい恒星は寿命が長く 150 億年以上、中には数百億年も生き続ける恒星もあると考えられています。それら長生きの恒星は、実際に太陽系の近くにも発見されています。多くは銀河を広くとりまく「ハロー」という構造や、古い恒星の集まりである球状星団の中に存在しています。

  宇宙の初期は水素とヘリウムしかなかったため、第二世代星でも、重い元素の割合はまだ少ないはずです。星に含まれる元素を調べるには、星の光を細かく分けて (分光して) 組成を調べていきます。すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS は、高い精度で分光することができるため、この分野の観測で突出した成果を挙げています。

  すばる望遠鏡による第二世代星の観測で、画期的な成果として挙げられるのが「観測史上、もっとも鉄が少ない」恒星の発見です。恒星進化の研究を長くリードしてきた国立天文台の青木和光さんが、観測データを見て「なんだ、この星は!」と驚いたのは2004年5月末のことでした。恒星「HE 1327-2326」には鉄が極端に少なかったのです。その量は太陽の 30 万分の1以下。実は2002年にヨーロッパの研究グループが鉄の量が太陽の 10 万分の1以下の星を発見し、「画期的」と言われていました。青木さんらが観測した恒星はさらに鉄の量が少なく、それまで観測された星の中で「最も鉄組成の低い星」となりました。また、鉄の少なさに比べて炭素が多いことも特徴でした (図2図3)。


図2

図2: 恒星には様々な元素が含まれますが、単純化のために (軽い元素である) 炭素、マグネシウム、(重い元素である) 鉄という3つの元素に注目して組成を比べた図。典型的な初期世代星 (第二世代や第三世代の星) に比べて、2005年に見つかった恒星 HE 1327-2326 は鉄が極端に少なかったことがわかります。(クレジット:国立天文台)


図3

図3: 太陽と HE 1327-2326 のスペクトル (波長ごとに強度分布を調べたもの)。太陽のスペクトルがギザギザしているのは、様々な元素が含まれているから。一方、HE 1327-2326 はのっぺりしているのが特徴。わずかに鉄と CH 分子 (炭素と水素が結びついた分子) に相当する波長がへこんでいる (光が吸収されている) ことから、それらの物質の存在がわかります。(クレジット:国立天文台)


  こんなに鉄組成の低い恒星のもととなった「初代星」はどんな星だったのでしょうか?鍵となるのは恒星の「質量」と「最後の爆発の仕方」です。太陽の質量の 10 倍以上の重い恒星はその一生を終えるときに超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こし、元素を宇宙空間に放出しますが、恒星の質量によって超新星爆発のタイプが異なります (注3)。超新星爆発がどのように起こるかで、元素がどのくらい宇宙に放出されるかが決まるため、初代星の質量が鍵を握ることになります。

  この「HE 1327-2326」のもととなった初代星の場合はどうでしょう。恒星の中心部近くにできた鉄やマグネシウムの多くが、超新星爆発後にできたブラックホールに落ち込んでしまったために放出されず、星の外側に近い炭素などは爆発で吹き飛ばされたと考えられます (図4)。つまり「重力崩壊型の超新星爆発」であり、初代星は太陽の数十倍の質量があったと推定されます。この発見以後、似たような組成の星が次々発見され、第二世代星から元の超新星の性質を探るという研究手法が大きな流れとなっていきました。すばる望遠鏡の観測は、研究手法の確立に貢献しているわけです。


図4

図4: HE 1327-2326のように鉄が少ない恒星のもととなる初代星。4つの元素の分布を模式的に示しています。中心部がブラックホールになり、鉄などが落ち込んでしまい放出されず、外側の炭素や水素だけが爆発によって吹き飛ばされたと考えられます。(クレジット:国立天文台)



(注3) 星の重さと超新星爆発のタイプ (図5)


  恒星はその質量によって、一生の終わり方が異なり、太陽質量の 10 倍、100 倍のあたりで大きく分かれます (図5)。太陽質量の 10 倍より重い恒星は「重力崩壊型」超新星となります。中心部分でどんどん重い元素ができ鉄までできると、それ以上核融合が進行しなくなります。その結果、中心部が自身の重力でつぶれてブラックホールや中性子星となり、周りは吹き飛びます。実際の観測例としては、1987年にマゼラン星雲で起きた超新星 1987A があげられますが、この恒星は太陽質量の約 20 倍と推定されています。オリオン座の赤い星ベテルギウスもこのタイプであり、近い将来超新星爆発を起こすと考えられています。

  一方、太陽質量の 100 倍より重い恒星は「電子対生成型」超新星になると考えられています。中心部があまりにも高温になるため光が電子と陽電子 (反物質) に変わり、星を支えていた光のエネルギーがなくなるために崩壊します。この場合、核融合を起こすことのできる酸素などの元素が多量に存在するため核融合の暴走が起こって星全体が吹き飛び、すべての物質が宇宙に放出されると考えられています。太陽質量の 100 倍以上とみられる恒星はいくつか知られていますが、それらが起こす超新星爆発についてはまだはっきりとした観測例がありません。


図5-1図5-2

図5: 恒星は質量によって、超新星爆発の仕方が異なります (上) 。太陽質量の 10 倍以上は重力崩壊型の超新星、太陽質量 100 倍以上の星は電子対生成型超新星となり、爆発の仕方によって宇宙空間に放出する元素が異なると考えられます。下の棒グラフはシミュレーションによる初代星の質量分布です。(クレジット:国立天文台)



世界初、太陽の 100 倍以上の質量をもつ巨大初代星の痕跡を発見か!?

  太陽の数十倍の質量をもつ初代星の痕跡は見つかってきました。ですが、初代星は質量が大きく、数百倍から 1000 倍以上のものもあることが理論から予想されています。こうした巨大質量の初代星の超新星爆発では、鉄などの重元素が大量に放出されるはずだと考えられています。しかしそのような痕跡を示す第二世代星は私たちの銀河系内に見つからず、「初代星のなかにも巨大質量星はなかったのか」という点が、初代星をめぐる大きな謎でした。

  国立天文台や米国ノートルダム大学などからなる研究チームは、2006年から銀河系内の大掃索をスタートさせました。観測は二段階で進められました。まず第一段階では米国のスローン・デジタル・スカイサーベイ (SDSS) によって広い範囲を掃索。数十万天体を分光観測し、宇宙初期に生まれたと思われる小質量星を数千天体選び出しました。SDSS は恒星の個々の元素の組成を決められるほど分光能力が高くないため、第二段階はすばる望遠鏡の高分散分光器 HDS にバトンを渡します。数十万天体から約 150 天体に絞り込まれた候補天体について、すばる望遠鏡は2008年から一つ一つ詳しく調べていきました。2014年、ついに巨大質量初代星の痕跡を残したと推測される恒星を発見したのです。

  それが恒星「SDSS J0018 -0939」です。くじら座の方向、約 1000 光年の距離にあり、太陽質量の約半分という小質量の恒星です。高分散分光器 HDS を用いた詳細観測の結果、鉄は太陽の約 300 分の1の量、炭素やマグネシウムは太陽の 1000 分の1以下の量でした。つまり、鉄の割合が非常に多かったのです。これほど鉄の割合が多い第二世代星の発見は世界で初めてです (図6)。


図6

図6: 恒星 SDSS J0018 -0939 (右) は、典型的な初期世代星 (左) の元素組成と比べると、鉄の割合が非常に多い恒星であることがわかります。(クレジット:国立天文台)


  「こんなへんてこな組成の星は初めて」と研究チームの青木和光さんが言うほど、この恒星の全元素の組成は、過去に見たことのないものでした。その解釈をめぐり理論家との間で議論が始まりました。よく知られた重力崩壊型超新星で鉄の割合が多い物質をつくるには、中心部でつくられる鉄を多量に放出し、まわりの軽い元素の放出を抑える必要がありますが、これは簡単なことではありません。一方、太陽の数百倍以上の星が最後に起こす超新星爆発 (電子対生成型) は鉄を大量に放出すると考えられています。つまり、「太陽の数百倍の巨大質量の初代星」が存在した可能性を示す、最初の観測例となったと言えます (図7)。


図7

図7: 鉄が多い第二世代星 SDSS J0018 -0939 ができるためには、初代星の中心部がブラックホールにならず、元素すべてが吹き飛ばされる必要があります。(クレジット:国立天文台)


  このタイプの第二世代星は、これ以後、観測例がまだありません。さらなる観測が期待されます。青木和光さんたち研究チームは2013年から、中国の研究者たちと共同観測を開始しています。前回の米国 SDSS より掃索の範囲を広げた、大規模な調査となります。まず中国の LAMOST 望遠鏡で広い範囲でたくさんの天体を調べます。約 500 の候補天体に絞り込み、すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS で2年間にわたり詳細観測を行うという野心的な計画です。

  「これまでの観測で鉄が極端に少ない恒星、逆に多い恒星があることはわかりましたが、宇宙全体の中でその割合を知ることが重要です。とにかく偏りなく、数多く調べることで、初期世代星の性質を明らかにしたい」と青木和光さんはその狙いを語り、大学の研究者や大学院生、海外の共同研究者とチームを組んで、観測計画を進めています。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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