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宇宙ライター林公代の視点 (13) : 銀河をめぐるミステリー

2016年9月28日 (ハワイ現地時間)

近くの矮小銀河から見えてくる初期宇宙の謎

  「M81 銀河考古学プロジェクト」では、渦状銀河 M81 の周りに古い恒星だけが存在する小さな銀河、矮小銀河が見えてきました。実は矮小銀河をめぐっては大きな謎があります。銀河の周りに生き残っている矮小銀河を数えていくと、理論から考えられる数よりもかなり少ないのです。「見えない矮小銀河問題」と呼ばれ、銀河進化上の謎になっています。

  矮小銀河は星の数も少なく暗いために、実際は存在するけれども観測できないのか、それとも理論が間違っているのか。二つの可能性が考えられます。決着させるためには、「矮小銀河の国勢調査を行う必要がある」と有本信雄さん (国立天文台ハワイ観測所長) は言います。調査には広い範囲から暗い天体を見つけることが必要ですが、これはすばる望遠鏡の得意分野です。

  もし、矮小銀河の数が十分にあれば問題ありませんが、もしその数が少なければ、どう考えればいいのでしょうか。

  銀河の誕生には、見えない物質ダークマターの存在が大きく関わっています。ダークマターが集まりその重力でガスや塵を引き寄せ、恒星が生まれ銀河ができると考えられますが、ダークマターの塊があっても、(恒星を生む元となる) ガスがなかった可能性もあります。または宇宙初期に、小さな銀河のガスが周囲の天体からの紫外線によって蒸発したのかもしれません。このように近くの銀河から初期宇宙を探る「近傍宇宙論」という研究も、注目を集めています。


図1

図1: 主焦点カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) で撮像したうしかい座 I 矮小銀河の疑似カラー画像。この画像全体にうしかい座 I 矮小銀河は広がっていますが、星がとてもまばらなので、手前の銀河系の星や背景の遠くの銀河に紛れてしまい、銀河としての構造は見えません。(クレジット:国立天文台)


銀河周辺の注目天体―浮遊する星、球状星団

  M81 の周辺を詳細に見ていくと、さらに面白い天体が見つかってきます。たとえば有本さんが注目天体としてあげるのが「浮遊星」。銀河と銀河の間をふわっと飛んでいる恒星です。「銀河からはじき出されたり、隣の銀河から引っ張られたりすることで浮遊する恒星が、銀河の相互作用を教えてくれます。特に太陽のような軽い質量の恒星の最後の段階である『惑星状星雲』は、通常の恒星よりも1万倍ぐらい明るいため、観測しやすいのです。」

  前編で紹介したように、銀河同士は重力の相互作用によりガスを引っ張り合い、そのガスから若い星が生まれるところが既に観測されています。重力はガスだけでなく星にも及ぶため、銀河は星も直接引っ張ります。その重力相互作用が、惑星状星雲を観測することで見えてくるのではないかと有本さんは期待しています。

  もう一つの注目天体は「球状星団」です。球状星団は約 100 万個の星が丸く集まっている天体で、年齢は 10 億~ 100 億年ぐらい (図2)。かなり古い年齢のものもあります。銀河に比べて暗いため、球状星団が生まれる現場は観測されたことがなく、謎の多い不思議な天体です。

  球状星団には青い球状星団と赤い球状星団の2種類があります。青い球状星団は金属量が少なく広い範囲で見られます。一方、赤い球状星団は金属量が多く、星の世代交代が進んだ後にできたと考えられ、銀河のハロー部分で見られます。赤と青の球状星団の分布をみることで、銀河と関係なく球状星団ができたのか、銀河から飛ばされたのかが見えてきます。たとえば青い球状星団の分布と惑星状星雲の分布がもし同じなら、「銀河に飛ばされた」ことがわかってきます。

  「このように、M81 を広域でとらえた HSC の画像を使うと何種類もの料理 (= 研究) ができます」と有本さん。「大きな箱があってその引出一つ一つに様々なサイエンスがある。箱全体から銀河がどうできたかが明らかになります。」

  実は M81 の観測は、すばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) で有本さん達によって2005年にも行われています。当時は M81 銀河の半分を捉えることができただけでしたが、それでも他の望遠鏡の 10 倍ほどの視野があり、多数の論文が書かれました。そして2013年に主焦点カメラの7倍の視野を持つ HSC が本格稼働してからは、7台の望遠鏡があるようなもの。観測効率が大幅に上がるとともに、銀河だけでなくその周りの矮小銀河も含めた一つのシステムとして、銀河形成史をたどることができるようになったのです。研究チームは今後、M81 を含め周囲の広域を観測する計画で、浮遊する星や球状星団も含め、たくさんの引き出しによって銀河のサイエンスを大きく前進させることでしょう。


図2-1図2-2

図2: (左) 渦巻き銀河 M33 の主焦点カメラ Suprime-Cam による観測画像。主焦点カメラの8視野分 (満月8個分程度) の広さで、9万光年×6万光年の大きさに相当します。円盤部の外側をハローと呼ばれる構造が囲んでおり、星や球状星団がまばらに存在しています。(右) すばる望遠鏡に取り付けた FOCAS が撮影した球状星団 NGC2419。(クレジット:国立天文台)


銀河はなぜ星を作るのをやめたのか

  恒星を糸口に銀河の形成史を探る「M81 銀河考古学」の例を紹介しましたが、恒星から銀河の大問題に迫る、別の研究を紹介しましょう。

  銀河の中で星が作られます。しかし、銀河がいつも活発に星を作っているかというと、実はそうでもないのです。銀河がもっとも星を作っていた時期は赤方偏移 1.5 ~ 2.5、現在の理論で換算すると宇宙誕生後約 26 億年~ 43 億年ぐらいの時期です。その頃が銀河が一番恒星を作っている時期で、その後は銀河が恒星を作る効率 (星形成率) が下がっています。

  近くの宇宙にある大きな質量をもつ銀河を調べると、ほとんどは星形成をやめてしまった楕円銀河です。現在の銀河はもっとも活発に星を作っていた頃の銀河に比べて星形成率が 50 分の1から 100 分の1と低いのです。星形成が活発な時期を「ベビーブーム時代」とすれば、現在の宇宙は「少子高齢化時代」と言い換えてもいいでしょう。

  ではなぜ銀河は恒星を作るのをやめてしまったのでしょうか?それが銀河形成論の最大の謎です。銀河研究の第一人者である有本さんは、この謎の解明について「攻め方は二通りあります。一つは恒星を作るのをやめた銀河を調べること。もう一つは恒星を作っている銀河を調べること。つまり『ビフォー&アフター』の観測です」と言います。有本さんの教え子で当時チューリッヒ工科大学にいた小野寺仁人さんを中心とする国際研究チームによって、まず星を作るのをやめた直後の銀河の観測が行われました。

  ターゲットはビッグバンから約 40 億年後の宇宙で、星形成を終えた直後と推定される銀河です。ただし、これらの銀河は非常に遠く、M81 のように恒星一つ一つに分けて調べることは困難です。それならば銀河の恒星全体をまとめて調べればいい。そこで研究チームは一度に多数の天体のスペクトルを調べることができる赤外線多天体撮像分光装置 MOIRCS (モアクス) の強みをいかし、24 の銀河について観測データを取ることに成功しました。一つ一つの銀河の観測時間は6~9時間、全部足すとすばる望遠鏡を約 200 時間使ったことに相当する観測を、効率的に行うことができたのです。

  恒星のスペクトルには、恒星の年齢や金属量、元素組成に応じた特徴が化石のように刻みこまれています。たとえば、現在の宇宙にある楕円銀河のスペクトルを調べると、年齢が 100 億年程度で、太陽よりも重元素を多く含んでいることや、短い期間に一気に星を作ったことなどがわかります。

  すばる望遠鏡で観測した 24 の銀河のデータを足し合わせて詳細に解析した結果、観測した銀河の年齢が約 10 億年であること、金属量が太陽の 1.7 倍あること、またアルファ元素 (注1) が鉄より多く存在していることがわかりました。アルファ元素は星形成がどのくらい継続したかの指標となる元素であり、これらの銀河が 10 億年より短い期間で一気に星を作ったことが導き出されました。


図3

図3: ビッグバンの 40 億年後の宇宙で観測された、既に星形成を停止した銀河 24 天体の個々のスペクトル (左) と、それらをすべて足しあわせた合成スペクトル (右)。すばる望遠鏡の MOIRCS で約 200 時間の観測に相当します。スペクトル上に置かれた枠は、銀河の星の年齢、金属量、アルファ元素の鉄に対する量を求めるのに使用した、各元素に特徴的な吸収線の位置を示しています。(クレジット:チューリッヒ工科大学/国立天文台)


  太陽よりも金属量が多い点は、太陽系の近傍にある楕円銀河の特徴と一致します。つまり、観測した 24 の銀河たちはビッグバン後約 30 億年~ 40 億年の間に一気に恒星を作り、その後は星を形成することなく、現在まで至った「楕円銀河の祖先」であることがこの解析結果から推定されます。約 100 億年前の宇宙に、近くの楕円銀河と同じように、既に星形成を終えた銀河が観測されたのは、世界で初めてのことです。

  最近の理論では、古い星の集団である楕円銀河は渦状銀河などが衝突合体して、約 50 億年前にできただろうと考えられています。そうした楕円銀河もあると考えられますが、その一方で約 100 億年前の宇宙に、星形成を終えた楕円銀河が存在したのです。「宇宙初期にすでに (星形成を止めた) 楕円銀河が大量にあった」点が新しい発見です。

  次の関心事は、星形成をまさに行っている銀河の観測です。約 100 億年より前の銀河、つまり「ビフォー」にあたる銀河の観測です。楕円銀河研究や銀河考古学を長くリードしてきた有本信雄さんは「次は楕円銀河の祖先が星を作る瞬間を見たい」と熱く語っています。


(注1) アルファ元素とは、ある種の超新星爆発に伴って放出される酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素、硫黄、カルシウム、チタンといった元素。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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