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宇宙ライター林公代の視点 (9) : 太陽系小天体の魅力を語る 渡部潤一さん

2016年8月18日 (ハワイ現地時間)

独りで始めた彗星研究―舞台は日本でなく、世界だ!

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図1: 渡部潤一さん 近影

  天文現象が話題になると、必ずテレビやラジオで引っ張りだこ。そのわかりやすい解説で日本中に知られる天文学者が渡部潤一さんだ。講演で全国を奔走しつつ、国立天文台副台長として激務をこなす。その一方、太陽系科学の第一人者として今も研究を続け、アマチュア天文学者の育成に尽力してきたことは、あまり知られていない。

  そもそも渡部さんが天文に興味をもったのは、小学6年生の頃。「ジャコビニ流星群予測の大外れ」がきっかけだった。「1972年10月8日、名だたる天文学者が『雨あられのように流れ星が降る』と予測したのに、一つも流れなかった。日食や月食は秒単位で予測できるのに、なぜ流れ星が予測できないのか。『わかっていないことがわかった』のです。それなら、自分でもフロンティアに立てるのでは、と考えました。」

  予想と外れてがっかりするどころか、やる気を出すところが常人と異なる点だろう。翌日から渡部少年は流星観測をスタート。やがて大人に交じって「日本流星研究会」で観測結果を報告。『会津にすごい少年がいる』と流星観測界で話題になっていった。

  目標の東京大学理学部天文学科に進学し順風満帆、と思いきやそうでもない。大学院に入った頃、ある教授に「専門分野を変えたほうがいい」と忠告された。理由は日本に流星や彗星分野の研究者がほとんどいないから。悩んだ挙句、そのまま研究を続けた。

  ということは独学で?「僕はほとんど指導されたことがありません。修士の時に彗星の写真解析で悩んで、4~5人の先生に聞いて回ったが、適切な答えが得られなかった。ところが NASA・JPL (ジェット推進研究所) の研究者の論文を読んだら謎が解け、その手法で解析し論文を書くことができた。『舞台は日本でなく世界だ』と知ったんです。」

  天文学のうち、彗星や流星は日本の得意分野でなかっただけ。そこで渡部さんは大学院時代からアルバイトでお金を貯め、海外の学会に頻繁に出かけた。論文を読んだことのある先生を見つけては議論する。「世界にはいっぱい教えを乞う先生がいましたね。」


広報を引き受けた理由は、妻の言葉

  1991年には準備段階だったすばる望遠鏡の連絡要員としてハワイ大学に 10 か月赴任。ハワイ大学は太陽系研究で知られる。渡部さんはハワイ大学の 2.2 メートル望遠鏡で太陽系外縁天体を捜索していたデイブ・ジューイット氏の観測につきあった。ジューイット氏が1992年に初めて冥王星の外側の天体 1992 QB1 を発見した時は渡部さんが不在の夜であり、共同発見者に名を連ねることはできなかったが、「すばる望遠鏡ができれば、(ハワイ大学の望遠鏡より) 格段に探査能力は上。ぜひ外縁天体の捜索をしたい」と思った。

  一方、ハワイ滞在中に国立天文台も広報室を立ち上げてほしいと小平桂一台長 (当時) に頼まれる。しかし「もう少し研究がしたい」と断り続けていた。その想いが変わったのは、帰国後に聞いた妻の一言。「天文台を訪れた高校生が守衛所で追い返されるのを彼女が見て、『せっかく興味をもって来てくれたのに何とかしないと駄目だ』と言われて」。当時の天文台は門が閉ざされ、部外者が気軽に入れなかった。これでは天文ファンが増えないと危機感を持ち、「覚悟を決めた」という。実は、渡部さんが将来なりたかった職業は天文学者の他にもあった。それは漫才師と作家。話すのも書くのも好きで人を楽しませたい。広報室長に適任の天文学者であることは自他ともに認めていた。


仲間の助けで研究を継続

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図2: 広報室長を引き受けた頃 (クレジット:国立天文台)

  広報室を立ち上げ初代室長になると、研究に割ける時間は激減した。「でも幸いなことに、それまでの交友関係や研究者仲間が助けてくれました」と微笑む。

  その仲間がユニークだ。渡部さんは彗星、流れ星など太陽系小天体における日本のアマチュア天文家のレベルの高さを評価していた。彼らが研究者として論文を書けるように、週に1回「三鷹塾」と称して、英語の論文を読んだり書いたりできるように指導した。約2年続けて、彼らを国際学会で発表できるレベルにまで引っ張り上げた。

  現在も週に1回太陽系小天体のゼミを開いている。ゼミには研究者だけでなく社会人や OB、アマチュア天文家、科学館の学芸員などバラエティ豊かな人たちが参加。アイデアを出し合い、面白がって研究を進める。「それぞれ多少得意、不得意があっても、チームで補い合えば、一つの仕事ができる。」(渡部さん)

  研究には様々な段階がある。望遠鏡の観測時間をとるためのプロポーザル (提案書) 作成、観測、観測データの解析、論文執筆。「僕が得意なのは書くこと。プロポーザルを通したり、最後に論文にまとめたりするのは得意です (笑)。観測やデータ解析をする時間は取れないから若い人にお願いしています。」

  こうした仲間に支えられ、ユニークな研究を続ける。最近は流星研究家の佐藤幹哉さんと1956年に大出現し幻の流星群と呼ばれた「ほうおう座流星群」について共同研究。佐藤さんの計算から流星の出現時間や場所を予測。「2014年12月にスペイン領ラ・パルマ島まで追っかけて観測に成功したんです。論文にまとめないと」と、嬉々として語る。


彗星と小惑星は連続的につながっている?

  今、最も関心を持っているのは流星の研究だ。流星群の大元は彗星だと考えられているが、「流星群の軌道を見ると、小惑星が多数見つかっています。つまり、彗星が太陽に接近しても全部溶けきらず、亡骸を残すものがあってそれが小惑星として見えているのではないか」と。先のほうおう座流星群の母天体もその一例だと考えている。

  彗星と小惑星はまったく別の天体ではなく、連続的につながっているのではないか。「流星群の母天体のほとんどは、すでに枯渇して小惑星のようになっていると考えられ、その発見や観測には、すばる望遠鏡のような大型望遠鏡が威力を発揮します。将来的に観測したいですね。」天文学者・渡部潤一さんの今後の研究に大いに期待したい。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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