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宇宙ライター林公代の視点 (5) : 原始銀河団を探す

2016年7月26日 (ハワイ現地時間)

宇宙でもっとも遠い「銀河団」の発見―銀河の性質はいつ決まる?

  星は集まって銀河を作ります。そして銀河は 100 個から 1000 個集まって銀河団というグループを作ります。さらに銀河団はお互いに結びついて「宇宙の大規模構造」と呼ばれる巨大なクモの巣のようなネットワークを作っています。銀河団という銀河グループが連なり大きな構造へ。つまり、銀河団こそが宇宙の大きな構造の鍵を握ると言えるでしょう。

  銀河団は私たちの銀河系周辺にもたくさんあります。不思議なのは、銀河団に属する銀河の性質が、私たちの銀河系の性質とはかなり異なることです。私たちの銀河系は棒渦巻き銀河と考えられていますが、銀河団の銀河には楕円銀河が多いこと、また年老いて赤く重い銀河が多いことも特徴です。なぜ銀河団に属する銀河が、私たちの銀河系と違うのかはよくわかっていません。

  では、宇宙の初期の銀河団ではどうだったのでしょうか。元々銀河団に生まれた銀河は楕円銀河だったのでしょうか?それとも銀河団の中で銀河が育つうちに、楕円銀河になっていったのでしょうか?「育ちより氏」か、「氏より育ち」か。銀河天文学では大きな問題なのです。

  この問題を解明するには宇宙初期の銀河団を観測し、調べる必要があります。ところが遠方の銀河団は稀にしか存在せず、遠方銀河以上に観測するのは困難です。広い視野を持つすばる望遠鏡でしか発見することが出来ないと言えます。

  柏川伸成さんや利川潤さんら研究チームは、かみのけ座の方向にある「すばる深宇宙探査領域」で赤方偏移6の遠方銀河の分布を調べたところ、銀河の密度が周辺より5倍高い領域を発見しました。

  さらに追加観測をすると、この領域にある少なくとも 10 個の銀河が 900 万光年以内の距離にあり、奥行き方向にも集中していることを確認しました。これは生まれたての銀河団に違いありません。2012年、赤方偏移 6.01 (約 128.7 億光年彼方) にある原始銀河団の発見に成功したことを発表しました。

  これより古い銀河団は2016年1月末現在、発見されていません。人類が発見したもっとも遠い原始銀河団です。宇宙の年齢としてはまだ幼い、10 億歳にも達しない頃の初期宇宙に、既に銀河団が存在することを示したのです。


図1

図1: 128.7 億年前の原始銀河団の分布。大きな丸ほど明るい銀河を表します。背景の色は銀河の数の密度を表し、銀河が集中している場所を赤く示しています。画像下側に赤く見えるのが、すばる望遠鏡で見つけた原始銀河団です。 (クレジット:国立天文台)


  観測した原始銀河団の性質 (明るさや星形成率) は、銀河団に属さないその時代の銀河と大きな違いは見つかりませんでした。このことから、現在の宇宙で銀河団に属する銀河の性質は、銀河団が成長していく過程で何かが起きて、後天的に獲得したものだと考えられます。つまり「氏より育ち」ということがわかってきました。それが「いつ」、「どうやって」獲得されたかについてはこれからの観測で明らかになるでしょう。

  赤方偏移 3 (約 116 億光年彼方) を超える銀河団は、世界でもこれまでに約 20 個しか観測されていません。主焦点カメラの視野を約7倍に広げ満月9個分も見渡す新型の超広視野主焦点カメラ HSC (Hyper Suprime-cam, ハイパー・シュプリーム・カム) では 1000 個ほどの銀河団が観測されると期待されています。そうなれば劇的にこの分野の理解が進むでしょう。


図2

図2: すばる望遠鏡で発見された原始銀河団の中心領域を拡大した画像 (すばる望遠鏡で撮影)。丸で囲んだ赤い天体が 128.7 億光年先にある銀河。 (クレジット:国立天文台)



巨大なガスの塊を多数発見―見えてきた原始銀河

  すばる望遠鏡は遠方銀河を探すことによって、「銀河がいつ生まれたのか?」について大きな成果をあげました。では銀河は「どのように」生まれたのでしょうか?

  この問いのヒントになると思われる不思議な天体をすばる望遠鏡が発見しています。

  赤方偏移 3.1 に、私たちの銀河系の数倍の大きさをもつ、巨大なガスの塊のような天体が多数観測されました。水素原子が出すライマン α 輝線という光で明るく見えることから「ライマン α プローブ」とも呼ばれます。

  すばる望遠鏡によって、その内部構造が明らかになりました。泡のような構造が見られ、超新星爆発の痕跡とも考えられます。どうして、このようにガスの雲が広がっているかはまだわかっていませんが、ガスの中で非常に若い銀河が生まれ、周りを照らしているのではないかとも考えられています。

  ビッグバンから約 8.2 億年後の宇宙にすばる望遠鏡で発見された巨大天体ヒミコ (赤方偏移 6.6) も、この天体の仲間だと考えられています。宇宙初期の天体であるにもかかわらず、現在の平均的な銀河と同じほどの5万5千光年もの広がりがあり、その時代の天体としては記録的な大きさです。

  ヒミコの正体が何なのか、なぜこんなに大きいのかは謎に包まれています。その後、ハッブル宇宙望遠鏡でヒミコを追観測すると、3つの銀河が横に並んでいることがわかりました。銀河の周りに巨大な雲をまとっていたのです。

  もしかしたらヒミコは銀河同士が合体・衝突するときにガスを作ったのかもしれないと考えられています。銀河の誕生や成長に、巨大ガス群が関係している可能性があります。

  生まれたての銀河と言える期間は非常に短く、稀な天体と言えますが、数少ない貴重な現場をすばる望遠鏡は観測しているのです。


図3

図3: 巨大ガス天体とアンドロメダ銀河の大きさの比較。緑色が巨大ガス天体を表す。図の右上にアンドロメダ銀河 (東京大学理学部木曽観測所撮影) を 120 億光年遠方に持って行った場合の大きさを示す。赤丸は、すばる望遠鏡での観測ではじめて見つかった泡状構造。 (クレジット:国立天文台)


図4

図4: ヒミコの擬似カラー合成写真。青と緑は、ヒミコから出された水素輝線と紫外線です。それぞれ、すばる望遠鏡により得られた狭帯域および z' バンドのデータに対応しています。赤は、ヒミコが放つ可視光線を表しています。これはスピッツァー宇宙望遠鏡の 3.6 マイクロメートルのデータに対応しています。 (クレジット:国立天文台) 



今後への期待―宇宙の夜明けを引き起こしたのは何か

  遠方宇宙の分野において、すばる望遠鏡は建設や装置開発に携わった天文学者たちの予想を超えて、次々に遠くの銀河や銀河団の観測に成功し、初期宇宙の解明について大きな成果をあげました。

  今後への期待について国立天文台の柏川伸成さんは「『宇宙の夜明け (再電離) 』を何が引き起こしたかについて、まずはクェーサーを調べていくこと。そして原始銀河団を多数発見して、銀河の性質の違いについて詳細に調べること」と話します。

  クェーサーも原始銀河団も遠方宇宙では稀にしか存在しない天体ですので、広い視野を持つ主焦点カメラでも苦戦していました。2014年からは新型の超広視野主焦点カメラ HSC を使い、1400 平方度 (全天の約 30 分の1) というかつてない広さを調べる戦略枠観測が5年計画で始まりました。既に遠方クェーサーも原始銀河団も見つかり始めています。クェーサーが再電離に果たした役割や原始銀河団がどのようにできて銀河形成とどう関わっていったかについて、今後ますます面白い成果が出てくるでしょう。

  宇宙で最初に生まれた星や銀河については、すばる望遠鏡よりも大きな、30 メートルの口径を持つ望遠鏡 TMT (Thirty Meter Telescope) に引き継がれていきます。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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