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宇宙ライター林公代の視点 (2) : 系外惑星誕生の現場

2016年7月8日 (ハワイ現地時間)

原始惑星系円盤 ― 惑星が生まれる現場を詳細に

  SEEDS プロジェクトにはもう一つターゲットがありました。それは「原始惑星系円盤」の観測です。この観測はすばる望遠鏡の独断場であり、新事実を次々に明らかにしました。

  原始惑星系円盤とは、若い星の周りをとりまく円盤状の構造のことです。恒星が生まれる時にできる副産物で、塵やガスでできています (図1)。円盤内の塵が徐々に成長して惑星の種である微惑星が作られ、微惑星が衝突・合体を繰り返して惑星が誕生すると考えられています。つまり、原始惑星系円盤は「惑星誕生の現場」なのです。


図1

図1: 惑星が生まれる現場である原始惑星系円盤の想像図。(クレジット:国立天文台)


  系外惑星の観測では、太陽系の惑星とは異なる多様な惑星たちが続々と発見されています。果たして太陽系の惑星たちは宇宙で一般的なのか否か。それを知るためにも惑星の出生過程である、原始惑星系円盤を詳しく知ることが重要です。しかし、それまでハッブル宇宙望遠鏡などの観測では、原始惑星系円盤の存在は見えるものの、内部の構造までは見えませんでした。2004年からすばる望遠鏡でコロナグラフ撮像装置 CIAO (チャオ) を使った原始惑星系円盤の観測がスタートしたところ、円盤内部の渦巻き構造が見えてきました。

  CIAO の開発責任者・田村元秀さんはその画像を見たときに「ハッブル宇宙望遠鏡を超えた!」と確信したそうです。CIAO の分解能は 0.1 秒角以下、一方、ハッブル宇宙望遠鏡の同じ波長の分解能は 0.2 秒角以上です。CIAO は円盤の中の巨大なすきまや渦巻きという複雑な構造を、初めて浮き彫りにして見せたのです。また、CIAO は双子の若い星、つまり連星をなす星 (SR 24) の周りの原始惑星系円盤を世界で初めて観測しました。宇宙にあるほとんどの恒星は、二つ以上の恒星からなる連星として生まれます。連星はそれぞれが円盤を持ち、さらにその外側を大きな円盤が取り囲んでいました。連星系でどのように惑星が生まれるかはまだよくわかっていませんが、惑星が生まれる現場は想像以上にバラエティ豊かだという事実が明らかになりました。

  しかし、CIAO による観測で は中心の恒星に近い、太陽系の内側に匹敵する範囲で何が起こっているかまではわかりませんでした。そこで新しく開発した惑星・円盤探査カメラ HiCIAO (ハイチャオ) では、太陽に相当する中心星の反射光の偏りを消すソフトウェアの工夫 (注1) を加えるとともに、補償光学装置も性能をアップしました。その効果は絶大でした。解像度は最高で 0.06 秒角。コントラストも CIAO の 10 倍以上向上し、太陽系サイズの内側まで詳細に構造が見えるようになったのです。CIAO と比べても、同じすばる望遠鏡での観測とは思えないほどの格段の差でした。


(注1) 原始惑星系円盤の観測では、中心の恒星からの光が円盤に反射する光をとらえます。その光は偏光するので、偏光した光だけを取り出す必要があります。例えば雪山でスキーをするとき太陽光が雪に反射して雪原がまぶしくて見えないけれど、偏光サングラスをかけると偏光の成分が消されて雪原が見えやすくなります。それと同じことを偏光差分撮像法で行います。


隙間で惑星が生まれる ― HiCIAO (ハイチャオ)

  この HiCIAO の特性を生かして、様々な恒星の原始惑星系円盤を観測していきました。たとえば、年齢約 100 万年の若い星である、ぎょしゃ座 AB 星の周りの円盤の構造を、世界で最も詳細に、もっとも中心星に近い領域まで解明しました。太陽系の大きさに対応する領域には二重のリング (輪) 構造があり、その間にはすきま (ギャップ) がくっきりと見えてきました (図2)。そしてリングは凹凸の構造をもっていることもわかりました。


図2

図2: HiCIAO で観測された、ぎょしゃ座 AB 星周りの円盤。上段右が2004年に発表された初期の観測装置 CIAO の観測画像。CIAO ではみえなかった円盤の中心部分の二重リング構造やリングの間のすきまが HiCIAO では見えるようになりました。(クレジット:国立天文台)


  さらに2012年には、太陽ぐらいの質量をもつ若い星 PDS 70 星の周りに、巨大なすきまを発見しました。太陽クラスの軽い質量の星がもつ円盤のすきまとしては過去最大級であり、複数の惑星が生まれていると考えられます。まさに、私たちの太陽系が生まれて 1000 万年ほど経ち、惑星が生まれようとしている現場を見ているのかもしれません。

  SEEDS プロジェクトで原始惑星系円盤を多数観測した結果、見えてきたのは、ほとんどの天体の円盤にはすきまがあるということです (図3)。本来なら内側に行くほど物質が多いはずなのにすきまがあるという事実は、惑星ができていることの証拠だと考えられています。なぜなら惑星がなければ、このように大きなすきまができにくいからです。

  もう一つ、特徴的な構造は渦巻き型の腕です。腕を作ることの理由についても、惑星と円盤との重力相互作用によって引きずられる部分が、腕として見えているのではないかという「惑星説」が最有力候補となっています。

  原始惑星系円盤から惑星が生まれることは理論上では以前から言われていましたが、円盤にこのような複雑な模様やすきまがあることを、実際の観測画像として提示したのは、SEEDS プロジェクト以前には存在しませんでした。

  しかも「太陽系の大きさ」の領域で実際に惑星が誕生している可能性が高いこと、その影響が円盤の形に反映されていることを、世界で初めて明らかにしました。すばる望遠鏡は一つの分野を切り開いたと言えます。


図3

図3: SEEDS プロジェクトで観測された原始惑星系円盤。多くの円盤で、すきまや腕状の構造が観測されています。(クレジット:国立天文台)


浮遊惑星の不思議

  系外惑星の探査では、恒星の周りを回る惑星を探してきました。ところが最近、その常識では考えにくい、不思議な天体が発見されています。それが「浮遊惑星」です。

  若い星団 NGC 1333 の星の生まれる現場をすばる望遠鏡で観測したところ、多数の恒星や褐色矮星 (注2)、そして木星の6倍ほどの質量の惑星が発見されました (図4)。その惑星は恒星の周りを回っていなかったのです。孤立して浮遊しているように見えることから「浮遊惑星」と呼ばれています。

  この天体はいったいどのようにできたのでしょうか?二つの考え方があります。一つは恒星と同じようにできた可能性です。塵やガスの塊が収縮しますが核融合を起こさず、次第に冷えていく天体だという考え方です。もう一つは恒星の周りの原始惑星系円盤から誕生した惑星が、なんらかの重力の相互作用によって惑星系から飛び出してしまい、漂う天体になったという考え方です。どちらが正しいかはまだわかっていません。

  重力の効果を利用した別の間接的な観測手法を使って、銀河系内空間を観測したチームは、「木星ぐらいの重さの天体は、恒星よりたくさん存在する」と発表しています。しかし NGC 1333 の観測では6木星質量の天体は恒星の数ほどは発見できませんでした。ただし6木星質量より軽い天体は観測できていないので、これからの課題と言えます。

  そもそも銀河系の中に、木星ぐらいの軽い天体が何個あるかについて、人類はまだ答えを持っていません。このような天体がどうやってできたかについては天文学の大きなテーマになっています。すばる望遠鏡の今後の観測に期待がかかる、面白い分野です。


図4

図4: 若い星団 NGC 1333 の褐色矮星と浮遊惑星。背景画像はすばる望遠鏡で得られた画像を合成したもの。今回の探査で発見された天体を黄色い丸で、以前から知られていた天体を白い丸で囲んであります。矢印はこの星団で最も軽い天体で、木星質量の6倍しかない「浮遊惑星」。(クレジット:SONYC チーム、国立天文台)


(注2) 褐色矮星:別名「恒星になれない星」。塵やガスの塊が収縮し、密度や温度が高くなり、核融合を起こして光輝くのが恒星です。持続的な核融合に至らないのが褐色矮星で、最初は明るく輝きますが次第に冷えていきます。木星質量の 80 倍以上が恒星、14 倍以上が褐色矮星に分類されています。


今後 ― 「第二の地球」を太陽系の近くに探す

  第二の地球を探すという目的で注目を集めるのは、生命が存在する領域 (ハビタブルゾーン) にある惑星です。既に数十個が発見されていますが、これらの惑星発見に多大な貢献したのは2009年に打ち上げられた NASA のケプラー探査機です。ハビタブルゾーンにある系外惑星に本当に生命が存在するのか、詳細に調べたいところですが、ケプラー探査機が発見した惑星は数百~数千光年先と遠すぎます。

  もっと近場であれば、惑星大気を直接観測することができます。そこで、すばる望遠鏡の出番です。日本はすばる望遠鏡を用いた系外惑星探査で世界トップレベルの直接観測を行いました。次に目指すのは「第二の地球の直接観測」です。計画は2段階で進められます。

  まずはすばる望遠鏡で、地球の近くに第二の地球候補を探します。そのための新しい観測装置 IRD (注3) が2016年に取り付けられる予定です。IRD で探すのは、太陽系の近くにある、太陽より軽い M 型星 (赤色矮星とも呼ぶ) の周りの惑星です。狙いは「ハビタブルゾーンにある地球型惑星候補を効率よく調べること」。直接撮像は行わず、ドップラー法で候補を洗い出します。

  なぜ M 型星かと言えば、太陽型に比べて数が 10 倍ぐらい多いからです。地球から 30 光年以内という我々の「近場」においても 270 個以上あると考えられています。また地球の場合、水が存在するハビタブルゾーンは1天文単位のあたりですが、M 型星のハビタブルゾーンは 0.1 天文単位ぐらいです。太陽系では水星より内側にあたり、公転周期も短く、数日から2週間ほどです。

  ドップラー法は恒星の周りを一周するまで観測することが必要ですが、これらの惑星なら短期間で軌道が決められます。そのため比較的短期にターゲットとなる系外惑星を多数見つけることが可能であるわけです。100 個の恒星を観測すれば、10~20 のハビタブルプラネットが観測できると期待されています。

  第一段階で候補天体を絞り込んだらいよいよ第二段階。次世代超大型望遠鏡 TMT (Thirty Meter Telescope, 30 メートル望遠鏡) で、すばる望遠鏡が行ったような直接撮像を狙います。研究をリードする田村元秀さんは、「第一段階では5年ぐらいで候補を探し、10 年後には第二の地球を直接撮像したい」と意気込みを語っています。

(注3) IRD:惑星探査用赤外線分光器。M 型星は表面温度が太陽より低いため、可視光より赤外線で明るく輝きます。新しい光学素子、大型赤外線検出器、レーザーを利用した超精密波長測定など最先端の赤外線技術を結集して開発した機器です。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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