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宇宙ライター林公代の視点 (1) : 系外惑星、直接観測への挑戦

2016年6月20日 (ハワイ現地時間)


  1999年のファーストライト以降、すばる望遠鏡は数々の成果を上げてきました。高い集光力と解像度を持つ望遠鏡と、多種多様な観測装置 (カメラ) との組み合わせによって、太陽系から遠方宇宙まで幅広い分野で成果を上げているのが、すばる望遠鏡の特徴の一つです。各分野におけるすばる望遠鏡の目覚ましい活躍と、その背景にある技術や人について、宇宙ライターの林公代さんにレポートしていただきました。



「第二の地球」はどこにある

  この宇宙に、生命を育む惑星は存在するのでしょうか?私達の銀河系だけでも約2千億個の恒星があります。恒星の何割かはその周りを惑星たちが回り、さらに惑星の中には水をたたえた地球と似た環境をもつものがあると考えられます。環境が地球と似ていれば地球型の生命が息づいているかもしれません。太陽系以外の惑星 (「系外惑星」と呼びます) が数千個発見されている現状を考えると、このような「第二の地球」を発見することは、時間の問題と言える時代になっています。

  系外惑星が最初に発見されたのは1995年。人類最古の学問と言われる長い天文学の歴史から考えれば、つい最近のことです。なかなか発見されなかった理由は、観測の難しさにあります。輝く恒星のすぐ近くを回る惑星は、恒星の光に埋もれてしまいます (例えば木星の明るさは太陽の約 10 億分の1です)。明るい灯台の近くを飛ぶ蛍を遠方から探すようなものです。

  初めて系外惑星を発見したのはスイスのチームでした。出遅れた日本ですが、すばる望遠鏡に「ある観測装置」を取り付け観測方法を工夫することで、第一線に躍り出たのです。


図1

図1: 1999年にスイスのチームによって発見が報告された、初めての系外惑星である「ペガスス座 51 番星 b」の想像図。ESO/M. Kornmesser/Nick Risinger 提供の図をトリミング。(クレジット:ESO/M. Kornmesser/Nick Risinger, CC-BY 4.0)


出遅れた日本が選んだのは正面突破 - 「直接観測への挑戦」

  初の系外惑星である「ペガスス座 51 番星 b」が発見された1995年当時、日本はようやくすばる望遠鏡の建設が始まった頃で、まだ系外惑星の観測を始めてはいませんでした。しかしすばる望遠鏡は、系外惑星の直接観測を視野に入れた観測装置の開発を始めようとしていました。

  当時、欧米の天文学者たちは、系外惑星そのものを直接とらえるのではなく、間接的な方法で観測していました (注1)。間接的な観測ではわかることは限られます。惑星の明るさ、温度、軌道、大気などを知るには直接、その姿を捉える必要があります。「百聞は一見に如かず」です。

  日本の天文学者らは技術的にもっとも難しく、最もインパクトの大きい「直接観測」に挑戦することにしました。欧米と同じような手法で観測しても、追いつくのは難しいという事情もありましたが、何よりも私たちの起源にも関わる系外惑星の姿を直接見ようという正面突破のアプローチをとることにしたのです。


(注1) 系外惑星を調べる主な方法はいくつかあります。最初に用いられたのはドップラー法で、恒星の周りを惑星が公転することで恒星がふらつく速度を測定する方法。次に用いられたのがトランジット法で、惑星が恒星の前面を通過する際の明るさの変化を検出する方法です。ドップラー法もトランジット法も恒星を観測することで間接的に惑星の存在を検出する、いわゆる「間接」方法です。すばる望遠鏡が挑戦したのは直接惑星を撮影する、直接撮像法です。なお、日本でも岡山天体物理観測所の 188 センチメートル望遠鏡を用いて東京工業大学の佐藤文衛准教授らがドップラー法で年老いた恒星 (巨星) のまわりの系外惑星を観測しており、2003年に日本初の系外惑星発見に成功しています。佐藤さんは「ヨードセル」と呼ばれる特殊なガスを封入したフィルターを取り付けることで、超高精度で星の速度変化を検出する手法を応用しました。この手法はすばる望遠鏡でも使われています。


「第二の木星」を世界で初めて直接撮影

  すばる望遠鏡で世界第一級の系外惑星の直接観測体制が整ったのは、2009年のことでした。系外惑星を重点的に観測する SEEDS プロジェクト (注2) が5年計画で始まりました。

  SEEDSプロジェクトの最大の成果のひとつが、「GJ 504 b」の発見です。おとめ座の方向に地球から約60光年離れた太陽型の G 型星 GJ 504 を回る惑星です。太陽に似た星のまわりで「確実に惑星と呼べる天体」が世界で初めて直接撮影できたという点で画期的でした。

  どういう点で「確実に惑星と呼べる」のでしょうか。実は系外惑星の直接撮影は、ハッブル宇宙望遠鏡や地上の大型望遠鏡によって2008年に3例が報告され、世界で激しい競争が行われていました。ただしそれらは太陽の約2倍の質量の恒星を回る若い惑星で、惑星の質量は木星の約 10 倍。「非常に重い惑星」だったのです。本当に惑星なのか、恒星の仲間なのかが争点になっていました。その境界は「木星質量の 14 倍」を超えるか否かです。

  惑星の質量は、その明るさと年齢に基づいて計算されますが、若い恒星の場合は質量の推定に幅があります。最新の惑星モデルを使うと、これらの惑星候補はすべて 14 木星質量より重くなります。木星質量の 14 倍を超えると惑星でなく「褐色矮星」という天体に分類されます。その意味で観測されていた惑星は「確実な惑星」とは言い難かったのです。

  重い恒星の周りだから、重い惑星が発見されたのかもしれません。そこで SEEDS プロジェクトでは、主に太陽型の恒星に絞って観測をスタートさせました。太陽型の恒星なら、発見された惑星を太陽系の惑星たちと比較できるというメリットもあります。

  SEEDS で発見された GJ 504 b は年齢1~5億年という比較的年老いた惑星で、太陽型恒星を回っています。比較的年老いているので、惑星モデルによる不定性も小さくなります。ただし、年老いた天体ほど暗いので、検出も難しくなります。GJ 504 b の質量は最低で木星の3倍であり、2016年1月末までに直接観測された系外惑星の中でもっとも軽い惑星です。つまり確実に惑星と言える天体であり、「第二の木星」と呼ぶのにふさわしい天体です。


図2

図2: おとめ座から約 60 光年の距離にある太陽型恒星 GJ 504 の周りに発見された「第二の木星」GJ 504 b (中心の星から右上にある天体)。左の図では恒星の光の影響をコロナグラフで抑制していますが、それでもとりきれない成分が中心から放射状に広がっています。世界で初めて直接撮影された「確実に惑星と言える天体」です。(クレジット:国立天文台)


  しかも恒星からの距離は 44 AU (天文単位)。これは太陽系でいえば海王星の外側、冥王星とほぼ同じ位置です。つまり「太陽系で惑星が存在する範囲」で見つかった惑星です。

  現在までに発見された系外惑星数千個のほとんどは、間接的な観測で発見された天体であり、直接撮像された惑星は約 50 個ほどです。その 50 個の惑星は恒星からかなり離れた距離にあるものが多く、明らかに太陽系とは違うでき方でできた惑星と考えられます。

  太陽系の惑星は次回詳しく説明するように、恒星を取り囲む円盤からできたと考えられますが、その円盤の大きさは恒星から約 100 天文単位です。その範囲で直接撮像された惑星はわずか 10 個ほどしかありません。SEEDS プロジェクトではそのうち、GJ 504 b を含めて3個をすばる望遠鏡で発見し、1個を南半球の望遠鏡で確認しています。

  世界の口径8ートル級の望遠鏡でこれほど大規模な系外惑星の探査はこれまでありませんでした。欧米に遅れて始まった日本の系外惑星探査が世界でもっとも野心的な直接観測を行い、世界トップレベルの成果をあげることに成功したのです。

  GJ 504 b は太陽系でいえば冥王星の位置にありますが、そんなに遠くにこれほど重い惑星が存在することは、標準的な惑星形成のモデルでは説明が不可能です。すばる望遠鏡の発見によって、太陽系と比較して惑星のでき方を議論できる時代が始まったと言えます。


(注2) SEEDS:すばる望遠鏡初の大規模系外惑星探査プロジェクト。2009年に完成した惑星・円盤探査カメラ HiCIAO (ハイチャオ) と最新の補償光学装置を使い、約 500 個の恒星の周りの惑星や、次回に紹介する惑星系円盤を直接撮影することを目指した5年計画のプロジェクト。メンバーは 120 名のうち約3分の1を海外の研究者が参加した国際プロジェクト。


なぜ、すばる望遠鏡は直接撮像に成功できたのか?

  では、なぜすばる望遠鏡は、系外惑星の直接撮像で世界トップに立つことができたのでしょうか? そもそも系外惑星を観測するためには3つの能力が必要です。

1. 暗い惑星を見る能力 (高感度)
2. 中心の恒星と惑星を見分ける能力 (高解像度)
3. 明るい恒星の光の影響を受けずに、暗い惑星を観測する能力 (高コントラスト)

  1についてはすばる望遠鏡の口径8メートルの鏡が威力を発揮します。口径が大きいほどたくさんの光を集め、暗い天体まで観測できます。2については、大気のゆらぎをリアルタイムで補正する装置 (補償光学装置、注3) の開発が鍵となりました。この二つは、天文学で少しでも暗い天体を詳細に見たいときに要求される能力です。

  一方、3は系外惑星観測に求められる特有な能力です。明るい天体があったときに、その天体自身ではなく、近くの別の天体を見たいという例はあまりありません。「しかし、それが系外惑星の観測の肝であり、徹底的に追及しようと決めた」と SEEDS プロジェクト責任者の田村元秀さん (東京大学/国立天文台/アストロバイオロジーセンター) は言います。

  具体的には、恒星を遮蔽マスクで隠し、その影響で漏れる光を別のマスクで隠すコロナグラフという技術を使います (注4)。いわば「人工の皆既日食装置」です。すばる望遠鏡は8メートル級望遠鏡で世界に先駆けて専用のコロナグラフ撮像装置 CIAO (チャオ) を2001年に搭載しました。その後、明るい光の影響を取り除くソフトウェアの先端技術 (差分撮像、注5) を駆使し、5年の年月をかけて開発されたのが、世界最高性能の惑星・円盤探査カメラ HiCIAO (ハイチャオ) です。観測装置 (コロナグラフ) と観測方法 (差分撮像) の両方を開発することで、明るい星の「すぐ近く」の暗い星を「詳細に」観測することが可能になったのです。


図3

図3: すばる望遠鏡に搭載された HiCIAO。系外惑星そのものや、星の周囲にある円盤 (星周円盤) を直接撮像するため、非常に明るい中心星のすぐそばにある暗い天体を検出する能力 (高コントラスト) に特化した装置です。(クレジット:国立天文台)


(注3) 補償光学装置:マウナケア山頂は地上より空気が薄いのですが、それでも大気の影響から逃れることはできません。大気が揺らぐと天体の像がゆらぎ、解像度が下がります。そこで大気で乱された星像の状態をセンサーで測定し、リアルタイムで補正することで星像の乱れを補正する装置です。これにより解像度を上げることができます。

(注4) コロナグラフ:元々のアイデアは、1930年代にフランス人リオが、太陽大気であるコロナを観測しようと、中心の太陽を遮蔽して作りました。国立天文台乗鞍コロナ観測所でも口径 10 センチメートルのコロナグラフが1950年に設置されています。

(注5) 差分撮像:明るい恒星からの光の影響を低減するソフトウェア上の先端技術。観測対象により、系外惑星の観測には角度差分撮像法が、次回に紹介する惑星系円盤の観測には偏光差分撮像法が用いられています。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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