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生まれ変わった近赤外線観測装置 MOIRCS がファーストライト

2016年1月19日 (ハワイ現地時間)

  すばる望遠鏡の近赤外線多天体撮像分光装置 MOIRCS は、2015年夏から大規模な改造が行われてきました。そして昨年12月のクリスマス明けの夜、最新の検出器と周辺ハードウェアおよび制御システムが搭載された「新生」MOIRCS が、装置に実際の天体の光を入れる「ファーストライト」を無事に迎え、赤外線で見た渦巻き銀河 NGC 3521 の姿を写し出しました (図1)。


図1

図1: 2015年12月26日の初試験観測で得られた、NGC 3521 の近赤外線カラー画像。視野約4分角x7分角 。J バンド (露出時間 5.3 分)、H バンド (4 分)、Ks バンド (7.1 分) の観測画像をそれぞれ青・緑・赤に割り当て、田中壱さんがカラー合成したものです。残念ながら当日はシーイングが 1.3 秒角程度と極めて悪く、全体にぼやけた感じの画像になってしまいました。本来の天候ならば、これよりずっとシャープな像を得る事ができます。(クレジット:国立天文台)


MOIRCS 改造計画

  MOIRCS は2004年9月にすばる望遠鏡に初めて登場しました。当時としては口径 8-10 メートル級望遠鏡で世界最大の視野の広さと唯一の近赤外多天体同時分光機能を持った装置として、これまで数多くのユニークな成果を挙げてきました (注1)。

  この 10 年の間に他の望遠鏡でも類似の装置が登場してきましたが、MOIRCS の競争力をさらに強化すべく、MOIRCS を大きくアップグレードする通称「nuMOIRCS プロジェクト」が、ハワイ観測所内外の研究者からなるチームによってスタートしました (注2)。このプロジェクトは観測所に引き継がれ、2015年夏より最初の大改造が行われてきたのです。


新しい赤外線検出器

  今回の改造の最大のセールスポイントは、装置の「眼」である検出器を新型のものに交換する事です。新しい検出器にはノイズ性能や感度が大幅に向上した Hawaii2 RG アレイ (米国・テレダイン社) を採用しました。また専用の検出器制御システムを搭載することで観測効率の向上も図りました (図2)。


図2

図2: MOIRCS の検出器をノイズ性能や感度が大幅に向上した新型のもの (Hawaii2 RG アレイ) に交換作業中の電気技師 Lucio Ramos さん。(クレジット:国立天文台)


一新された周辺ハードウェアと内製の制御システム

  MOIRCS の観測開始後、通信機器やコンピュータなどは大きく進歩しました。そこで今回、MOIRCS に搭載されている周辺ハードウェアの多くも最新のものに交換しました。さらに装置全体を制御するためのシステムの完全な内製化も、すばる望遠鏡の第二期観測装置では初めて行いました。最新のハードウェアを用い、また制御システムを観測所内で一から構築をする事で、装置の理解とメンテナンス・改良の自由度を大幅に向上させたのです (図3図4)。これは装置の寿命を長く維持する上でも大変重要な事です。


図3

図3: 新しい制御システムの概観です。ウェブベースで製作されたシステムコントロールウィンドウ (左の黒いウィンドウ) と、観測に必要な最低限の情報をシンプルにまとめたステータス表示ウィンドウ (右の緑のウィンドウ)、そして制御ターミナル (右下の白い窓) からなり、素早い情報収集と操作が実現しました。より一層の利便性を追求し、今後さらに観測者の声を反映しながら改良されます。(クレジット:国立天文台)


図4

図4: MOIRCS の外観比較。左が以前の外観で、右が現在です。周辺ハードウェアが更新・整理され、ケーブル類もすっきりとまとめられました。(クレジット:国立天文台)


試験観測

  「今回の大幅な更新作業をハワイ観測所の限られた人材で行う事は決して容易な事ではありませんでした。旧 MOIRCS 装置開発グループからの情報提供、東京大学天文学教育研究センターや台湾・中央研究院天文及天文物理研究所等の協力も得ながら、ユーザーの皆様への影響を最小限にするというプレッシャーの中で、取り組んできました」と語るのは、プロジェクトマネージャーの Josh Walawender さん (ハワイ観測所・装置研究開発スペシャリスト) です。

  そして2015年12月26日、ついに「新生」MOIRCS はファーストライトを迎えました。望遠鏡制御システムとのマッチング、統合観測環境における MOIRCS 制御システムの動作などのチェックの結果、ほぼ期待された通りの動作が確認されました。

  また、今回の目玉である新型の検出器も、期待通りの性能を発揮していることが確認されました。実測されたノイズはこれまでの半分以下に抑えられ、感度は特に短波長側で 40% 近くも向上しました。さらにデータの読み出しなどに必要な時間も削減されました。「ユーザーには大きな性能向上を楽しんで頂けると期待しています」と、試験観測を計画実行したプロジェクトメンバーの田中壱さん (ハワイ観測所・シニアレジデントアストロノマー) は語ります。

  試験観測では、しし座の方向 2600 万光年彼方にある渦巻き銀河 NGC 3521 の画像が取得されました (図1)。NGC 3521 は見かけの大きさが7分角ほどありますが、MOIRCS の誇る広い視野により、その全体像が写し出されています。


さらなる性能向上へ

  今回「新生」MORICS は無事にファーストライトを迎えましたが、最初のユーザーに供されるまでにやるべきことがまだまだあります。例えばユーザーに渡されるデータ情報の整備や新しい制御システムでの多天体同時分光機能の動作試験、旧式のレンズコートに起因するノイズの低減などです。さらにその先には、面分光機能の搭載も控えています。プロジェクトチームの努力はこれからも続くのです。


動画: 生まれ変わった MOIRCS の実験室における動作試験。(クレジット:国立天文台)



(注1) MOIRCS の最初の搭載時の様子は

で詳しく紹介されています。また過去5年間に MOIRCS で得られた観測成果の一部は、 で紹介されています。

(注2) MOIRCS のアップグレードは、科学研究費補助金・基盤研究 (S) (課題番号: 23224005) によるサポートを受けています。プロジェクトの詳細は

で紹介されています。





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