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すばる望遠鏡、観測までの道 (前編)

2014年4月7日

  すばる望遠鏡が撮像した美しい天体写真や研究の成果はよく知られていますが、研究者たちが実際にどのようにすばる望遠鏡を用いて観測しているのか、という点に興味をお持ちの方も多いはずです。すばる望遠鏡の「使われ方」をご紹介します。

ご案内役:藤原英明 (広報担当サイエンティスト)


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写真1:すばる望遠鏡ドームのスリットが開き、今宵の観測が始まります。(クレジット:国立天文台、撮影:藤原英明)



戦いは「ザル」から

  「使用料はおいくらですか?」「観測予約はいつから出来ますか?」...。すばる望遠鏡について一般の方から時折寄せられる質問です。残念ながら趣味・娯楽のための観測には公開されていませんが、天文学研究の目的であれば、日本全国、いや世界中の研究者はみな使う事ができるチャンスが与えられています。しかも使用料はタダ...。ただし、すばる望遠鏡で観測を行うためには、観測時間を競争的に獲得する必要があります。そしてその「戦い」は、通常1年以上前から始まっています。

  すばる望遠鏡では年に二度、だいたい3月と9月頃に、すばる望遠鏡を使った観測提案書「プロポーザル」(「ザル」なんて呼ぶ人もいます) を受け付ける機会が設けられます。それまで頭の中で温めてきた野望 (?) を、10 ページ弱の書類として形にしていきます。締め切り直前の数日間などは、ドタバタの時間を過ごす人もいることでしょう (...私です)。

  プロポーザルには、観測計画の概要、チーム編成とその実績、観測天体や使用する観測装置・モードの情報、そして必要な観測時間の見積もりなどを簡潔にまとめる必要があります。特に大事なのが "Scientific Justification" というパートです。その観測計画の科学的裏打ち、とでもいいましょうか。2ページという限られたスペースに、この観測提案がいかに大事か、なぜこの観測が実行されるべきか、などについて、提案者が想いの丈をぶつけます。

  最近は1度 (半年分) の募集でだいたい 140~160 本前後のプロポーザルが提出されます。1本のプロポーザルには通常5人ほどのレビュアー (審査員) がつき、審査が行われます。レビュアーは日本人に限らず、各分野に明るいと思われる研究者にハワイ観測所長から依頼が行きます。レビュアーの仕事はボランティア。1人のレビュアーは、分野が近いプロポーザルを 10~20 本前後、数週間のうちに審査します。公平を期すために、自分が参加するチームのプロポーザルの審査はしません。審査のポイントは主に4つ。

  (1) 科学的重要性やオリジナリティ
  (2) "Scientific Justification" の明解さ
  (3) ゴールに向けての実現可能性
  (4) すばる望遠鏡の性能を上手に活かせるか

  これらの観点を中心に、レビュアーは審査対象のプロポーザルに点数と順位をつけていきます。同時に、期待できる点や懸念される点などを具体的に記したコメントも、各プロポーザルにつけられます。


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写真2:プロポーザルの見本。この書類を埋めることが、観測時間獲得への第一歩。(クレジット:国立天文台)



「ザル」の採択

  どのプロポーザルを採択するか、最終決定をするのは、Time Allocation Committee (TAC: 観測時間割り当て委員会) と呼ばれる組織です。10 名ほどの研究者で構成されたこの委員会が、レビュアーから寄せられた点数やコメントなどをもとに、採択プロポーザルとそれぞれに割り当てる夜数を決定するのです。最近は 40~50 前後の提案が採択されるようで、競争率は 3~4 倍と言ったところでしょう。つまり提出されたプロポーザルの大部分は不採択になる、なかなかシビアな競争です。一方で、一般のプロポーザル枠で採択された提案には、最大で数夜程度の観測時間が割り当てられることになります。

  採択プロポーザルが決まれば、ハワイ観測所が半年分の観測スケジュールを作ります。これがまた大変な作業。天体が観測できる時期や月との離角、月齢、使用する観測装置などを考慮して、科学運用担当がパズルを組み立てていきます。すばる望遠鏡に搭載する観測装置を交換する頻度にも制限があるので、いつどの観測装置を搭載するかも含めて、バランスよく慎重に考えていく必要があります。

  採択・不採択に関わらず、各プロポーザルの提案者には、レビュアーがつけた評価やコメント、そして TAC からのアドバイスなどが開示されます。残念ながら不採択となったプロポーザルは、この評価やコメントなどを参考にして、また次の機会にチャレンジ。めでたく採択されたプロポーザルのチームは、ハワイ観測所のサポートアストロノマー (最大限の成果が得られるように科学的観点からお手伝いをする天文学者) と密に連絡を取りながら準備をし、いよいよ観測に臨むのです。


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写真3:長い (?) 道のりを経て決まったすばる望遠鏡観測スケジュールの例 (2014年4月分)。(クレジット:国立天文台)



(後編に続く...。)





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