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すばる望遠鏡国際研究集会「銀河考古学~近傍宇宙論と銀河系形成」を開催

2011年12月8日

  銀河の形成と進化の歴史を探ることは、天文学でもたいへん大きなテーマです。宇宙にある全ての銀河を詳しく見通すことは不可能ですが、私たちの銀河系 (天の川銀河) とその周辺の銀河たちは、距離が近いためにそのなかの個々の星や星形成領域などを詳しく調べることができます。例えば NGC 2403 という銀河 (図1) は約 980 万光年先にある渦巻銀河で、大望遠鏡を使えば銀河中の個々の星を分離して見るとが可能です。銀河中における星々の色や明るさ、分布や組成には銀河の形成と進化の歴史が刻まれており、その研究は「銀河考古学」 (Galactic Archaeology) とよばれ、最近、活発な研究分野となっています。この分野には、星の進化や超新星爆発、そこでの元素合成、次世代の星にいたる物質の循環が含まれます。また、銀河の形成は膨張宇宙のなかで暗黒物質の影響をうけながら進むので、それを近くの銀河に対して詳しく調べることは宇宙論の観点からも重要であり、「近傍宇宙論」 (Near-Field Cosmology) という言葉も使われるようになってきています。


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図1: すばる望遠鏡主焦点カメラで撮影された渦巻銀河 NGC2403 です。この銀河は私たちから約 980 万光年の距離にあり、解像度の高いすばる望遠鏡で観測すると、中心付近の星の混んだ領域を除けば、個々の星の明るさや色を測定することができます。


  この銀河考古学にも、すばる望遠鏡による観測研究が貢献しています。最近活発になっているこの分野の研究を交流するとともに、すばる望遠鏡による研究成果を世界に発信し、今後の研究の発展をはかることを期して、第3回すばる望遠鏡国際研究集会が開催されました。この研究会は、今年度からスタートした国立天文台シンポジウムにも採択され、記念すべき第1回のシンポジウムと位置づけられました (図2)。

  研究会は2011年11月1日から4日にかけて、静岡県伊豆市にあるラフォーレ修善寺において開催されました。23 の国と地域から 141 人の参加があり、60 の口頭講演と 84 のポスター発表がありました。特に海外から 90 人の参加を得ることができ、活発な議論によって研究会の目的を十分に果たすことができました (図3)。

  研究会全体では、銀河考古学を広くカバーする研究成果が発表されましたが、特に銀河系のさまざまな構造や周辺の銀河に関して、多くの報告が集まりました。なかでも、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡 (CFHT) によるアンドロメダ銀河ハロー構造の広域撮像や、スローン・ディジタルスカイサーベイ (SDSS) やヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡 (ESO/VLT) などによる大量の星の分光データの蓄積により、個々の星の組成や年齢の解析にもとづいた、銀河の星生成史や銀河どうしの相互作用の解明が進んでいるのが印象的でした。そのなかにあって、すばる望遠鏡の主焦点カメラによる近傍銀河の撮像観測や、高分散分光器による銀河系ハロー構造や矮小銀河の星の詳細な化学組成の測定は重要な位置をしめています (図4)。

  研究会では将来計画も紹介・議論されました。この分野では、大量の星の位置や運動を超高精度で測定する計画 (ヨーロッパのガイア計画や日本のジャスミン計画) によって、銀河系の各構造の星の起源に迫ることができると期待されます。また広域の撮像・分光観測 (すばる望遠鏡の新主焦点カメラや主焦点分光器など)、さらには次世代の超大型望遠鏡 (30 メートル望遠鏡 = TMT 計画など) により、私たちの銀河系と周辺の矮小銀河がどのように相互作用しながら形成されてきたのか、明らかにされるものと期待されます。

  今回は、研究会会場と宿泊をすべて同じ施設内で行うことができたため、セッション終了後も参加者どうしが寝食をともにしながら十分交流することができたのが大きな特色でした。天候にも恵まれ、富士山を望める会場も参加者に大好評でした。

  この研究会は当初、今年5月に予定されましたが、3月の震災の影響を受けて11月に延期されました。それだけに、このような研究会を開催できるのはたいへんありがたいせことであると実感しながら準備を進めてきました。組織委員会メンバーは、会議の延期を含めて開催にあたっては苦労もしましたが、会議を通じて多くの研究者と知り合うことができ、これを機に研究をおおいに進めていきたいと意気込んでいます。

  なお、本研究会に先立つ10月31日には、修善寺総合会館において、研究会の組織委員の一人でもあるハワイ観測所・有本信雄教授による市民向け講演会が開催されました。この講演会にも、150 人余りの参加があり、地元の市民と交流する貴重な機会となりました。


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図2: 研究会のポスター。天体は銀河系の近くにある不規則銀河 IC10 のすばる望遠鏡主焦点カメラによる画像。


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図3: 研究会の集合写真と、研究会のまとめの講演を行う A. Renzini 教授。


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図4: 研究会で報告された研究の一例 (A. Ferguson 博士の講演より)。すばる望遠鏡で撮影された渦巻銀河 NGC 2403 の画像 (図1) をもとに、星のタイプごとに分布を示した図です (左上から赤色巨星、進化の特に進んだ赤色巨星、大質量星が進化した段階にあたる赤色超巨星、主系列星と水平分枝星)。寿命の短い赤色超巨星や若い主系列星などは銀河の中心付近に集中しているのに対し、寿命の長い赤色巨星は銀河全体に広く分布していることがわかります。これは銀河のなかでの星生成の歴史を如実に物語っています。このように、「銀河考古学」は銀河を構成する個々の星を調べることにより、銀河の形成史をひも解きます。




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