観測成果

「老けた銀河」の探査で 135 億年前の星形成の痕跡を発見

2019年9月9日 (ハワイ現地時間)

  東京大学、早稲田大学などの研究チームは、ろくぶんぎ座近くの「COSMOS」と呼ばれる天域において、スピッツァー宇宙望遠鏡による近赤外線の観測だけで見えて、すばる望遠鏡 (可視光線) やアルマ望遠鏡 (電波) では見えない銀河を3天体発見しました (図1)。さらにこれらの銀河は、ビッグバン後 10 億年の比較的初期の宇宙に存在したにもかかわらず、年老いた恒星からなる「老けた銀河」の特徴を持っていることがわかりました。この「老けた銀河」を形作る星たちは宇宙年齢がわずか3億年の時代に生まれたと推測され、間接的な方法ながらも、宇宙最初期の星形成の様子を初めて捉えた成果となります。


図1

図1: 今回見つかった「老けた銀河」のうち1天体について、すばる望遠鏡・スピッツァー宇宙望遠鏡・アルマ望遠鏡などで観測された画像 (上段) と、スペクトルエネルギー分布 (波長に対する明るさの分布、下段)。灰色四角が観測値で、赤線は観測を最もよく再現する赤方偏移6のモデル銀河スペクトル。緑線は赤方偏移2の星間塵の熱放射が多いモデル銀河スペクトルですが、アルマ観測により、このモデルは棄却されます。(クレジット:Mawatari et al./NASA/国立天文台)



  宇宙で最初の星や銀河の誕生について、世界中の天文学者の大きな関心が今まさに集まっています。近年の観測技術の目覚ましい発展により、これまでに人類は 133 億年前の銀河まで観測できるようになりました (注1)。しかし、初代銀河の誕生はさらに宇宙史をさかのぼる宇宙年齢1億年から5億年の間 (赤方偏移 30 から 10; 注3)であると推定されています。この時代の銀河を直接観測するには、将来の観測装置を待つ必要があるかもしれません。しかし、ほかに何か今できるアイデアは無いのでしょうか。

  今回、東京大学宇宙線研究所特任研究員の馬渡健さん、早稲田大学教授の井上昭雄さんらの研究チームは、年老いた恒星からなる銀河―「老けた銀河」―に注目しました。銀河形成の多様なメカニズムの一つに、大量の星が一気に作られ、その後は星が単に年老いていくだけというシナリオがあります。このような「老けた銀河」は過去の星形成の痕跡を残す化石のような天体であるため、発見された時代よりも過去の様子を探ることが出来ると本研究をリードした馬渡さんは考えました。

  「老けた銀河」は、遠方宇宙ほど数が少なく、スペクトルの特徴も少ないことから見つけるのは難しいと思われてきましたが、研究グループは「COSMOS」と呼ばれる天域 (注2) に着目し、これまでに撮られた高感度・広視野・多波長の観測データをフル活用すれば「老けた銀河」を発見できる、と考えました。

  「老けた銀河」の数少ない特徴として、「バルマーブレーク」というスペクトル中の段差があります (図2)。バルマーブレークの強さは銀河をつくる星の年齢に比例し、赤方偏移6でだいたい波長3マイクロメートルの近赤外線波長域に現れます。研究チームはまず、スピッツァー宇宙望遠鏡の近赤外線画像に写る3万7千の天体の中から、波長 3.6 マイクロメートルバンドで明るく、それより短波長側で見えない6天体を候補として選びました。「その際、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam で撮影された高感度の可視光データ (注4) が、数多くある若い星形成銀河を取り除くのに大きく役立ちました」と、馬渡さんはすばる望遠鏡の貢献を語ります。


図2

図2: 年齢毎の赤方偏移6のモデル銀河スペクトル。年老いた銀河ほどスペクトルが赤く、波長3マイクロメートル付近のバルマーブレークが発達することがわかります。(クレジット:Mawatari et al./東京大学宇宙線研究所)


  また、「老けた銀河」は星間塵の熱放射が少なく、遠赤外線〜電波で暗いはずです。そこで6天体に対してアルマ望遠鏡を使った超高感度観測を行い、星間塵の熱放射が見えない3天体が「老けた銀河」の候補として残りました。アルマ観測データの解析を担当した早稲田大学研究員の橋本拓也さんは「最高感度を誇るアルマでも未検出ということが『老けた』銀河である可能性を劇的に高め、他の研究と一線を画す本研究のオリジナリティになっています」と、アルマ望遠鏡を使った観測の意義を強調します。

  可視光線から電波に渡る合計 15 波長の画像を用いた詳細なスペクトル解析 (図1) から、これら3天体は宇宙年齢 10 億年程度の時代 (赤方偏移6) にあり、その星の大部分は年齢7億歳という「老けた銀河」であると結論付けられました。つまり、宇宙年齢わずか3億年 (赤方偏移 14、135 億光年の距離) の時代に誕生した銀河ということになります (図3)。


図3

図3: 観測された赤方偏移6の老けた銀河 (左) とその銀河が星形成をしていた赤方偏移 14 の時代における先祖 (右) の想像図。(クレジット:国立天文台)


  赤方偏移 14 における星形成率密度 (注5) を求めたところ、直接的な観測が到達している赤方偏移 10 までの測定値に比べて小さいものの、減少率はゆるやかであることが分かりました (図4)。銀河の合体・集積だけを考えると、赤方偏移8以上で星形成率密度がもっと急激に減少するので、今回の結果は、宇宙最初期の銀河の星形成活動は予想外に効率的であったことを示唆しています。

  宇宙の初期の研究では、活発な「若い」銀河が注目を集めていましたが、「老けた銀河」も、若い銀河にはない貴重な情報をもたらしてくれます。今回見つけた3つの天体が「老けた銀河」であると断定するには、バルマーブレークの詳細な分光確認が必須です。研究チームは、2021年にアメリカ航空宇宙局 NASA が打ち上げを予定している James Webb Space Telescope を使えば確認できるとの見通しを立てており、その観測データから、宇宙最初期にどうやって効率的に大量の星が作られたのかという物理過程の解明も期待しています。


図4

図4: 赤方偏移6の老けた銀河から推定される、それらの先祖による星形成率密度 (赤色塗りつぶし)。赤方偏移1から 10 の星形成銀河の直接観測に基づく測定値もプロットしてあります。緑線は赤方偏移1から8までの測定値に対するフィット線で、赤方偏移8以上では緩やかな減少が予想されます。灰色塗りつぶしは銀河の合体・集積だけを考えた理論予想であり、この場合だと赤方偏移8以降で急激な減少を示します。(クレジット:Mawatari et al.)



  この研究成果は2019年9月11日から熊本大学で開催される日本天文学会秋季年会にて発表されます。またこの研究成果をまとめた論文は米国の天体物理学学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に投稿中です (Ken Mawatari, Akio K. Inoue, Takuya Hashimoto, John Silverman, Masaru Kajisawa, Satoshi Yamanaka, Toru Yamada, Iary Davidzon, Peter Capak, Lihwai Lin, Bau-Ching Hsieh, Yoshiaki Taniguchi, Masayuki Tanaka, Yoshiaki Ono, Yuichi Harikane, Seiji Fujimoto, and Tohru Nagao, "Balmer Break Galaxy Candidates at z ~ 6: a Potential View on Star-Formation Activity at z > 14")。また、この研究成果は、科学研究費補助金 JP26287034, JP17H01114, JP16H02166 および国立天文台アルマ共同科学研究事業 2016-01 のサポートを受けています。


(注1) これまでに観測されて距離が正確に求まった天体のうち、最遠方のものは2018年にアルマ望遠鏡などの観測によって報告された MACS1149-JD1 であり、その赤方偏移は 9.11 (132.8 億光年の距離) です。この最遠方銀河を見つけた研究グループの主要メンバーは、早稲田大学研究員の橋本拓也さん、東京大学特任研究員の馬渡健さん、早稲田大学教授の井上昭雄さんであり、本研究と同じです。

(注2) 宇宙進化サーベイ COSMOS プロジェクトという戦略的観測プロジェクトが2000年代前半から始まり、約2平方度 (満月9個分) の COSMOS 天域に対してこれまでに様々な望遠鏡による多様な観測が実施されてきています。カリフォルニア工科大学教授のニック・スコビルさんが代表を務め、日本からは放送大学教授の谷口義明さんなどが参加しています。

(注3) 赤方偏移とは宇宙論的距離を表す際に使われる指標です。宇宙の膨張に伴って遠方天体からの光は引き伸ばされ、赤方偏移 z の場合に観測される光の波長は元の (1+z) 倍となります。赤方偏移は時間指標としても有用で、例えば赤方偏移6は現在から 130 億年前、赤方偏移 14 は 135 億年前に相当します。本記事では、Planck 観測機チームが2018年に公表した宇宙論パラメータ (Planck Collaboration 2018, "Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters", "Combined" in Table 1) を用いて計算しています。

(注4) すばる望遠鏡では、超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) を用いて、2014年から5年間にわたる戦略的観測プログラム HSC-SSP が行われています。全体で合計 300 平方度という広い視野を観測していますが、COSMOS 天域に対しては特に長時間を割いて高感度の観測を実施しています。本研究のメンバーである東京大学特任研究員の馬渡健さんと東京大学宇宙線研究所助教の小野宜昭さんは、この観測プログラムの遠方銀河ワーキンググループの議長を務めています。

(注5) 銀河が一年あたりに太陽何個分の星を作っているかの指標を星形成率といいます。さらに、ある体積に含まれる全銀河の星形成率を足し上げて、単位体積あたりどれだけの星が生まれたかを表す物理量を星形成率密度といいます。


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