観測成果

太陽系内

中間赤外線で見た土星リングの姿 〜明るく輝く「カッシーニのすき間」〜

2017年2月23日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

国立天文台とカリフォルニア大学の研究チームは、すばる望遠鏡が撮影した土星の赤外線画像を使って、リングの明るさや温度を細かく測定することに成功しました。その結果、可視光では常に暗い「カッシーニのすき間」や「C リング」が中間赤外線で明るく見えていたこと (図1)、そして見え方には季節変化があることがわかりました。土星リングの性質を知る上で重要な知見です。

中間赤外線で見た土星リングの姿 〜明るく輝く「カッシーニのすき間」〜 図

図1: 2008年1月23日に COMICS で観測された土星の中間赤外線における3色合成画像。「カッシーニのすき間」や「C リング」が明るく見えています。色は主に温度の違いを反映し、温度が高いほど青く、低いほど赤くなります。(クレジット:国立天文台)

美しいリング (環) を持つ土星は多くの人を魅了してきました。リングは無数の氷の粒子が土星の赤道上空を公転しているものですが、その起源や性質にはまだまだ多くの謎があります。謎を解明するため、地上の望遠鏡や探査機を使い、さまざまな波長・手段による観測が長年行われてきました。最近では、アメリカとヨーロッパが協力して送り出した土星探査機「カッシーニ」が、10 年以上土星を周回して詳細な観測を続け、美しい画像を公開しています。

すばる望遠鏡でも、土星を何度も観測してきました。国立天文台ハワイ観測所広報担当サイエンティストの藤原英明さんは、すばる望遠鏡の広報活動の一環として魅力的な土星の天体画像を作成しようと、中間赤外線カメラ COMICS で2008年1月に撮影されたデータを解析していました。その途中で藤原さんは、リングの輝き方が、私たちの見慣れた可視光での姿と中間赤外線とではまったく異なることに気がついたのです。

土星のリングの主要部は、内側から順に「C リング」「B リング」「A リング」と呼ばれる「濃さ」の異なる部分でできており、「B リング」と「A リング」との間には「カッシーニのすき間」があります。2008年に撮影された中間赤外線画像 (図1) では、「カッシーニのすき間」と「C リング」が明るく、一方で「B リング」と「A リング」は暗く見えています。しかしこれは、可視光での見え方と正反対です。可視光では常に「B リング」と「A リング」が明るく、逆に「C リング」と「カッシーニのすき間」はとても暗く見えるのです (図2)。

中間赤外線で見た土星リングの姿 〜明るく輝く「カッシーニのすき間」〜 図2

図2: 2008年における土星リングの見え方を、中間赤外線 (左) と可視光 (右) とで比較したようす。可視光画像は、国立天文台石垣島天文台のむりかぶし望遠鏡で2008年3月16日に撮影したもの。リングの明るい部分が、中間赤外線と可視光とで逆転しています。(クレジット:国立天文台)

中間赤外線では粒子が発する「熱放射」を観測しますが、高温の粒子ほど熱放射が強くなります。中間赤外線画像から各リングの温度を測定したところ、「C リング」と「カッシーニのすき間」が、「B リング」と「A リング」に比べて高温であることがわかりました。「C リング」と「カッシーニのすき間」は粒子の密集度が低い、つまりスカスカなので、太陽光が良く差し込みます。また、これらのリングを構成する粒子は黒っぽいことも知られています。これらの理由から、「C リング」と「カッシーニのすき間」は、「B リング」と「A リング」 に比べて温まりやすいために、粒子の密集度が低いにもかかわらず中間赤外線で明るく見えたと研究チームは考えています。

一方で可視光では、リング粒子で反射された太陽光を見ています。粒子が多い「B リング」と「A リング」は常に明るく、スカスカな「C リング」と「カッシーニのすき間」はいつも暗く見えます。中間赤外線と可視光とでは、光の出かたが違うため、リングの明るさが反転して見えるのです。

ただし中間赤外線でも「C リング」と「カッシーニのすき間」が常に明るいわけではないようです。研究チームは、2005年4月に撮影された中間赤外線データも確認しました (図3)。その結果、この時には、「C リング」と「カッシーニのすき間」が、「B リング」と「A リング」よりも暗く観測されていました。私たちが見慣れた、可視光での見え方と同じです。

中間赤外線で見た土星リングの姿 〜明るく輝く「カッシーニのすき間」〜 図3

図3: 土星リングの見え方を、2005年4月30日 (上) と2008年1月23日 (下) とで比較したもの。同じ中間赤外線で観測しているにもかかわらず、リングの場所による明るさが2005年から2008年の間に逆転しています。(クレジット:国立天文台)

この「逆転現象」は太陽や地球に対するリングの開き具合の変化によって引き起こされると、研究チームは考えています。地球と同様に、土星の自転軸は公転面と大きく傾いており、太陽に対するリングの開き具合は約 15 年周期で大きく変化します。地球での季節変化と同じく、太陽光の差し込み方が変わることで粒子の温度が変わるのです。また、地球からリングを見通した時の粒子の密集度も、リングの開き具合に応じて変わります。リング粒子の温度や見かけの密集度が変わることで、中間赤外線でのリングの輝き方が変化し、結果として明るさが逆転することもあるのです。

今回すばる望遠鏡は、可視光では常に暗い「カッシーニのすき間」や「C リング」が、中間赤外線では明るくなることがある、という現象を明らかにしました。藤原さんは、「私が取り組んでいるすばる望遠鏡の広報活動がそのまま科学成果につながり、嬉しく思います。今年5月には、また別の手段で土星の観測を行う予定です。探査機と地上望遠鏡のそれぞれの特長を活かしてデータを蓄積し、リングの性質をさらに詳しく調べていきます」と語っています。


 この研究成果は、国際的な天文学誌『アストロノミー・アンド・アストロフィジックス』のオンライン版に2017年2月23日付で掲載されました (Fujiwara et al. 2017, Astronomy & Astrophysics, 599, A29, "Seasonal variation of the radial brightness contrast of Saturn's rings viewed in mid-infrared by Subaru/COMICS")。また、この研究成果は、科学研究費補助金 JP23103002 および JP26800110 によるサポートを受けています。

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