観測成果

130 億光年彼方での一般相対性理論の検証
~アインシュタインは間違っていなかった?~

2016年5月10日 (ハワイ現地時間)

  東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の奧村哲平特任研究員と日影千秋特任助教、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の戸谷友則教授を中心に、東北大学大学院理学研究科天文学専攻の秋山正幸准教授及び京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻の岩室史英准教授、太田耕司教授らから成る国際研究グループは、すばる望遠鏡を用いた FastSound (ファストサウンド) という銀河サーベイにより、平均して 130 億光年もの遠距離にある約 3000 個もの銀河までの距離に基づく宇宙3次元地図を完成させました (図1)。

  さらに地図中での銀河の運動を詳しく調べ、重力によって大規模構造が成長していく速度の測定に初めて成功しました。そして、そのような遠方宇宙でも構造形成速度がアインシュタインの一般相対性理論の予想と一致することを確かめました。今回の結果は、一般相対性理論は正しく、アインシュタインが導入した宇宙定数により宇宙の加速膨張が起きているという説をさらに支持するものです。


図1

図1: FastSound サーベイによって明らかになった3次元銀河地図 (2013年8月7日 すばる望遠鏡プレスリリース「史上最遠方の宇宙立体地図が完成、ダークエネルギーの謎に迫る研究が進行中」より)。(クレジット:国立天文台、一部データ提供:CFHT, SDSS)


  宇宙はビッグバンで誕生して以来、膨張を続けています。単純な理論予想では、その膨張は減速していくはずですが、近年の詳細な宇宙の観測から、逆に加速膨張していることがわかっています。その原因は謎に包まれており、ダークエネルギーと呼ばれる謎のエネルギーが宇宙を満たしているか、あるいは、宇宙論が基礎に仮定している一般相対性理論が破綻しているのか、という二つの可能性が考えられ、精力的に研究が続けられています。一般相対性理論は約 100 年前にアインシュタインによって確立した重力の理論です。太陽系以下のスケールでは高い精度で実験的に検証されていますが、100 億光年を超えるような宇宙論的なスケールでも成り立つかどうかはわかりません。

  そこで、宇宙論的なスケールで重力が一般相対性理論に従っているかどうかの検証が必要となります。そのために最も有力な観測の一つは、銀河のサーベイ観測によって多数の銀河までの距離を測定し、宇宙における銀河の3次元分布、いわゆる宇宙大規模構造を調べることです。宇宙の大規模構造に沿って個々の銀河がどのくらいの速度で運動しているかを調べると、大規模構造の成長速度がわかります。この速度が、一般相対性理論の予想とあっているかどうかを調べることで、一般相対性理論の検証ができます。

  しかし、これまでの大規模構造成長速度の測定は、赤方偏移 (注1) の値が1、共動距離 (注2) にして 約 100 億光年までの比較的近傍の宇宙に限られてきました。今回研究グループは、FastSound (FMOS Ankoku Sekai Tansa (暗黒世界探査) Subaru Observation Understanding Nature of Dark energy) という銀河サーベイを遂行し、赤方偏移の値が1を超える宇宙での重力理論の検証を行いました。

  FastSound は、すばる望遠鏡のファイバー多天体分光器 FMOS (Fiber Multi-Object Spectrograph、注3) を用い、赤方偏移の値が 1.2 から 1.5、すなわち共動距離で約 124 億光年から 147 億光年の宇宙における銀河までの距離を測定する銀河サーベイです。すばる望遠鏡『戦略枠プログラム』として計 40 夜が割り当てられた、比較的大規模な観測です。2012年から2014年にかけて観測が行われ、2015年、約 3000 個もの銀河からなる宇宙の3次元大規模構造マップが完成しました (図1)。

  今回、奥村研究員らは、その中での個々の銀河の運動を調べ、大規模構造の成長速度の測定に成功しました。測定の統計的有意度は 99.997% で、100 億光年を超える遠方宇宙でこれだけの有意度で成長速度を測定できたのは世界で初めてのことです。その測定値を一般相対性理論の予想値と比較したところ、測定誤差の範囲で一致していることがわかりました (図2)。


図2

図2: 宇宙の大規模構造の成長速度とその進化。横軸が赤方偏移あるいは共動距離。縦軸は宇宙の構造が成長するスピードを表すパラメータで、値が大きいほど成長が速い。緑の帯は一般相対性理論と宇宙定数から予想される宇宙の成長速度の値の範囲。赤い丸が FastSound から得られた制限で、その他の点は先行研究で得られたもの。本研究により、より遠方 (過去) の宇宙における構造の成長スピードを求められたことが分かる。(クレジット:Okumura et al.)


  アインシュタインはかつて、自らが信じる「静止した宇宙」を可能とするため、一般相対性理論の基礎方程式である「アインシュタイン方程式」に「宇宙定数」と呼ばれるものを追加しました。のちにハッブルによって宇宙の膨張が発見され、宇宙定数の導入を「生涯最大の過ち」として撤回したことは有名です。しかし、現在の加速する膨張宇宙は、一般相対性理論にこの宇宙定数を加えることで説明できることが知られています。今回の観測結果は、この宇宙モデルにさらなる支持を与えるものです。

  しかし、宇宙定数の物理的な起源は依然として謎に包まれています。また、今回の測定誤差の範囲内で、わずかに重力が一般相対性理論からずれている可能性もまだ否定できません。Kavli IPMU が主導して開発が進むすばる望遠鏡の新観測装置、PFS (Prime Focus Spectrograph、注4) は FastSound よりもさらに大規模な銀河サーベイを可能にします。FastSound によって得られた今回の結果は PFS による観測へと発展し、宇宙論研究で世界的な結果を出していく重要なステップと位置付けることができます。

  本研究の中心となった奧村特任研究員は成果について「宇宙の三次元マップを作るための本格的な銀河サーベイを日本が主導して行ったのは初めてのことで、それによって一般相対性理論誕生から 100 年という節目に、史上最遠方の一般相対論の検証結果を発表できて、感慨無量です」と述べています。


  本研究は、日本天文学会の発行する『欧文研究報告』のオンライン版に2016年4月26日付で掲載されました (Okumura et al. 2016, "The Subaru FMOS galaxy redshift survey (FastSound). IV. New constraint on gravity theory from redshift space distortions at z ~1.4")。また本研究は、科学研究費補助金 (19740099, 19035005, 20040005, 22012005, 23684007, 26887012, 24740160, 24540286, 15H05890) のサポートを受けています。


動画: 図1を動画にして解説したもの (2013年8月7日 すばる望遠鏡プレスリリース「史上最遠方の宇宙立体地図が完成、ダークエネルギーの謎に迫る研究が進行中」より)。 (クレジット:国立天文台、一部データ提供:CFHT、SDSS)



(注1) 赤方偏移
天体が観測者から離れる運動をしている際、観測される光の波長が実際より引き伸ばされる現象。宇宙は膨張しており、遠方の天体ほど赤方偏移は大きくなるため、距離の指標として用いられます。

(注2) 共動距離
宇宙論で用いられる距離の定義の一つ。観測する天体からの光が我々に届くまでの時間に、これまでの宇宙の膨張を考慮し算出される距離。本プレスリリースでは共動距離を用いています。

(注3) FMOS (Fiber Multi-Object Spectrograph)
すばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器。京都大学とオックスフォード大学が主導し開発された主焦点観測装置で、400 本の光ファイバーを用い多数の天体を同時に近赤外線で分光観測できます。

(注4) PFS (Prime Focus Spectrograph)
すばる望遠鏡に搭載予定の広視野分光器で2019年の観測開始が計画されている。2400 本もの光ファイバーを用い多数の天体を可視光から近赤外線の領域で同時に分光観測できます。Kavli IPMU のほか、国立天文台や台湾中央研究院天文及天文物理研究所、カリフォルニア工科大学など各国研究機関が参加している。PFS は、広天域深宇宙銀河サーベイである「すばる望遠鏡 SuMIRe プロジェクト」の柱の一つとして分光観測を担う予定です。もう一方の柱であり、撮像観測を担う広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) は、2014年3月に観測を開始しています。



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