観測成果

126 億光年彼方の宇宙で成長中の小さな銀河を多数発見
~そしてすばるやハッブルで見えない世界へ~

2016年3月7日 (ハワイ現地時間)

  愛媛大学などの研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡で発見した 126 億光年彼方 (注1) の宇宙にある若い銀河およそ 80 個を、ハッブル宇宙望遠鏡でさらに詳しく撮影しました。その結果、54 個の銀河で詳細な形が写し出されましたが、うち8個は二つの小さな銀河の集まりであることが判明しました (図1)。また残り 46 個は一つの銀河のように見えていますが、少し伸びた構造をしていました (図2)。コンピュータ・シミュレーションを駆使して調べたところ、この少し伸びた構造も、二つ以上の小さな銀河が非常に近い距離にあることで説明できることがわかりました。これらの結果から、126 億光年彼方の宇宙では、小さな銀河の塊が衝突することで星が活発に作られ、大きな銀河へと育っていく途上にいると考えられます。

  研究チームはハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム"宇宙進化サーベイ"「コスモス・プロジェクト」の一環として、すばる望遠鏡を使った観測を進めてきました。すばる望遠鏡は、初期宇宙における銀河成長を解き明かす上で重要な天体の発見に貢献し、銀河進化の解明への道をまた一つ開いたのです。


図1

図1: 54 個の銀河のうち、二つの小さな銀河が衝突しているように見える例。左から、ハッブル宇宙望遠鏡の ACS カメラで撮影された I バンド (重心波長 = 814 ナノメートル)、すばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam で撮影された NB711、i'、および z' バンドのイメージ。NB711 は水素原子の放射するライマンα線を捉えており、たくさんある大質量星の紫外線によって電離されたガスを見ていると考えられます。それ以外のバンドでは、大質量星が放射する紫外線そのものを見ています。各パネルは天球面上の 4" × 4" の領域で、126 億光年の距離では 8.5 万光年 × 8.5 万光年に相当します。(クレジット:愛媛大学)


図2

図2: 1個の細長い銀河のように見える例。4枚の画像の並び、およびスケールは、図1と同じです。(クレジット:愛媛大学)



  現在の宇宙 (宇宙年齢=138 億歳) には、天の川銀河のような巨大銀河がたくさんあります (星の数は約 1000 億個で大きさは約 10 万光年)。しかし、宇宙誕生直後からこのような巨大銀河があったわけではありません。

  銀河の種ができたのは宇宙年齢が2億歳から3億歳の頃です。銀河の種は冷たいガス雲ですが、大きさは現在の銀河の 100 分の1程度で質量は 100 万分の1程度です。その中で、宇宙の「一番星」が生まれた時が銀河の誕生です。その後、小さな銀河の種は周囲にあった同様の種とどんどん合体し、成長してきたと考えられています。人類が行ってきた深宇宙探査のおかげで、130 億光年彼方 (宇宙年齢=8億歳) まで銀河が見つけられるようになってきました。ところが、まだ銀河の成長の様子をつぶさに見ることはできていませんでした。

  若い銀河の発見はすばる望遠鏡が得意とするところですが、それらの形を詳細に調べるにはハッブル宇宙望遠鏡の高い解像力が必要です。研究チームまさに、すばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam で 126 億光年彼方の銀河をたくさん見つけ、ハッブル宇宙望遠鏡でその形を詳細に調べてたのです。すると、54 個中8個は、図1に示すように二つの小さな銀河が衝突しているように見えることがわかりました (注2)。

  では、ひとつの銀河のように見える残り 46 個の若い銀河は、本当にひとつの銀河なのでしょうか?研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡の画像をよく見てみると、少し細長い形をしているものが多いことに気がつきました。その例が図2です。

  研究チームは、「ひょっとしたらハッブル宇宙望遠鏡でも分解できないくらい、二つの小さな銀河が近づいているのではないか?」という疑問を持ち、コンピュータを使ってチェックしてみることにしました。まず、1個に見える銀河の形を楕円で合わせ、その楕円率を求めます。それを銀河の大きさに対してプロットします。次にコンピュータの中で、二つの小さな銀河をさまざまな角距離において、実際の銀河と同じ測定方法で楕円率と大きさを測定し、観測データと比較してみます。その結果が図3です。


図3

図3: 銀河の楕円率 (注3)と大きさの関係を示した図 (左)。赤のデータ点が今回の観測結果を示していますが、多くの銀河が少し細長い形をしており、さらに細長さを示す楕円率は大きな銀河ほど大きくなるという関係になっているのが分かります。灰色で示した領域は、コンピュータの中で二つの小さな銀河をさまざまな角距離において、楕円率と大きさを測定したシミュレーション結果の確率分布を表しています。コンピュータによるシミュレーションの結果は、観測結果と非常に良く一致していることが分かります。シミュレーションでは、右のイラストに示したように、二つの銀河の距離が近すぎる場合には一つの細長い銀河として観測され、さらに銀河の距離が離れると楕円率がより大きな銀河として観測されることで、観測結果の楕円率と大きさの関係の起源が説明できました。(クレジット:愛媛大学)


  すると、コンピュータによるシミュレーションの結果と観測結果は見事に一致しました。つまり、ハッブル宇宙望遠鏡でも分解できないくらい、二つの小さな銀河が近づいていたために、1個の銀河に見えていたと考えられるのです。

  もし、このアイディアが正しければ、一つ予測できることがあります。活発な星形成が二つの小さな銀河の塊の衝突で起こっていると考えると、1個に見えるものは距離が近いため、衝突の影響で星が活発に形成されている可能性が高いはずです。中には距離は離れているが、たまたま視線上に並んでいるケースもありますし、単に孤立したひとつの銀河である可能性もあります。それらは二つに見えている銀河と同程度の星形成を起こしているでしょう。そして、実際にそうなっていることが分かったのです (図4)。


図4

図4: 星生成の活発度と銀河の大きさの関係。赤のデータ点は図2のようにハッブル宇宙望遠鏡で1個に見える銀河、青のデータ点は図1のように2個に見える銀河を表しています。2個に見えた銀河は、1個に見えた銀河に比べて系統的に銀河が大きく測定されていますが、これは2個の塊を一つの銀河として測定したからです。1個に見える銀河は、ハッブル宇宙望遠鏡でも分解できないくらい二つの小さな銀河が近づいているものがあるという研究チームのアイディアからの予測は、観測結果と一致していることが分かりました。(クレジット:愛媛大学)


  今までにも、若い銀河の形はハッブル宇宙望遠鏡で調べられてきましたが、1個のものは1個であると断定して解析が進められてきました。しかし今回の研究によって、ハッブル宇宙望遠鏡でも分解できないくらい二つの小さな銀河が衝突しつつある姿がようやく見えてきました。今回は二つと仮定しましたが、ひょっとしたらもっと多くの小さな銀河たちが衝突をしながら進化している可能性もあります。

  銀河は理論が予想するように"小から大へ"の進化をしている様子が初めて見えてきました。では、今後どのように研究を進めたら良いでしょうか?今回の研究は、既存の世界最高レベルの望遠鏡では、もう到達できない観測分野があることを教えてくれました。この状況を打破していくためには、次世代の「スーパー望遠鏡」が必要だということです。日本が参加している口径 30 メートル望遠鏡 (TMT) やジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) による新たな深宇宙探査が待たれます。


  この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2016年2月24日付で掲載されました (Kobayashi et al. 2016, "Morphological Properties of Lyman Alpha Emitters at Redshift 4.86 in the COSMOS Field: Clumpy Star Formation or Merger?")。またこの研究成果は、科学研究費補助金 15340059 および 17253001 のサポートを受けています。


(注1) 赤方偏移 z = 4.86 に相当する距離はプランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射の最新の観測に基づく宇宙モデルに従って評価してあります。 採用された宇宙論パラメータは以下のとおりです。ハッブル定数 H0 = 67 km s-1 Mpc-1、物質 (原子物質と暗黒物質) の質量密度 ΩM = 0.32、および暗黒エネルギーの質量密度 ΩΛ = 0.68。

(注2) それぞれの小さな銀河の平均的な大きさ (全光度の半分の光が入る直径) は 5500 光年です。また、二つの小さな銀河の間の平均距離は 13000 光年ですが、これは天球に投影した距離であることに注意してください。

(注3) 楕円率は、楕円の長軸、短軸の長さをそれぞれ a、b とすると、1 - b/a で定義されます。円の場合は a = b となりますので、楕円率は0になります。細長い楕円ほど、a > b で a と b の違いが大きくなり、楕円率は1に近づきます。





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