観測成果

854 個もの「超暗黒銀河」をすばる望遠鏡アーカイブから発見

2015年6月22日 (ハワイ現地時間)

  ニューヨーク州立大学および国立天文台の研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡アーカイブデータを解析し、かみのけ座銀河団の中に 854 個もの「超暗黒銀河」が存在することを発見しました (図1)。かみのけ座銀河団は昔から研究が盛んに行われている有名な銀河団にもかかわらず、昨年のおわりに 47 個の超暗黒銀河が初めて見つかり話題となっています。今回の研究で 854 個もの存在が確認されたことで、かみのけ座銀河団内での分布や超暗黒銀河の中にある星の種族が明らかになりました。


図1

図1: すばる望遠鏡による B, R, i バンド画像を合成した疑似カラー画像。かみのけ座銀河団の中心に近い6分角×6分角の領域を切り出したものです。黄色の丸が昨年おわりに見つかった 47 個の超暗黒銀河のうちの2つです。すばる望遠鏡アーカイブデータから、さらに緑色の丸で囲まれた超暗黒銀河が見つかりました。文字を抜いた画像はこちら。また、文字も印もない画像はこちら。(クレジット:国立天文台)



  超暗黒銀河は星の光だけみると我々の銀河系のわずか 1000 分の1の明るさにもかかわらず、大きさは銀河系と同程度にまで広がっているという、非常に淡い光の銀河です (図1)。これだけ「淡く広がった」天体は通常なら銀河団内部の潮汐力 (補足1) で簡単に破壊されてしまいます。それにもかかわらずこれだけ多くの超暗黒銀河が銀河団に発見されたことから、光では見る事が出来ない大量の暗黒物質が存在し、その重力が星を銀河内部にしばり付けているのではないかと考えられます。力学計算から、星などの光で見える物質はたった 1% 以下で、残りの 99% 以上は暗黒物質が占める「超暗黒銀河」であると考えられます。

  すばる望遠鏡の集光力と広い視野、シャープな星像により、今回の研究では超暗黒銀河内部での星の分布や色を測定することができました。これにより、超暗黒銀河が古い星の種族で構成された古い天体であることが判明しました。さらに、かみのけ座銀河団の中での分布は他の銀河と同じように中心集中していることから、銀河団の外から最近落ちてきたものではなく、銀河団内に古くから存在していたようであることも分かりました (図2)。


図2

図2: かみのけ座銀河団方向の約 2.9 度角 × 2.9 度角の領域。緑色の十字が銀河団の中心。
(左) デジタイズド・スカイサーベイより得られた画像上に、すばる望遠鏡の観測領域を描いたものです。白い四角で囲まれた 18 領域が今回解析された全領域 (R バンドで観測された) です。赤と黄色で囲まれた領域が、さらに複数のバンドで観測された領域。水色の領域が図1で切り出した部分です。
(右) 今回発見された超暗黒銀河の分布。青と黒の丸がこの研究で見つかった超暗黒銀河で、青い丸は特別に大きいサイズの超暗黒銀河を示します。赤い×印が昨年初めて発見されて話題となった 47 個の超暗黒銀河です。47 個では銀河団の中での分布が判然としませんでしたが、今回の発見で銀河団中心近くに集中し銀河団の外側に向かって数が減って行くという、超暗黒銀河の分布が明らかになりました。(クレジット:国立天文台/ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校)


  光で見える物質がたった 1% 以下という超暗黒銀河の質量比は、宇宙の平均と比較しても極端に低いものです。銀河が形成された後に何らかの形で星の材料となるガスが失われ、星を作るのをやめてしまった結果だと考えられます。今回の研究で超暗黒銀河が銀河団に特に多く存在することも判明したことから、ガスが失われた原因は銀河団という環境に特有のものであると研究チームは指摘します (補足2)。

  「超暗黒銀河」の大量発見は世界中の研究者の注目を集めており、銀河形成の研究に重要な天体となると期待されています。研究チームの幸田仁さん (ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校) は「今後の分光観測によって星形成の歴史を研究し、超暗黒銀河の形成過程を探りたい」と語ります。

  「星」の性質に注目した研究と同時に、超暗黒銀河中で 99% 以上を占める暗黒物質の研究も重要です。暗黒物質を直接見ることはできませんが、超暗黒銀河内の星の運動の測定から暗黒物質の分布を探ることができます。しかし淡く広がっている超暗黒銀河では、すばる望遠鏡をもってしても、星の運動の観測はとても困難です。日本を含む5カ国の協力で建設が始まっている次世代超大型望遠鏡 TMT (Thirty Meter Telescope, 30 メートル望遠鏡) の完成が待たれます。

  国立天文台ハワイ観測所では1999年の観測開始以降、すばる望遠鏡で得られたすべての観測データを大切に保管し、観測後1年半以上経ったデータはすべて全世界に公開しています。今回の「お宝発掘」は、このような公開されたアーカイブデータの中から行われました。今回の研究以外にもアーカイブを使った研究成果が発表されることも多く、すばる望遠鏡アーカイブのさらなる活躍も期待されています。


  この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』のオンライン版に、2015年6月24日付で掲載される予定です (Koda et al. 2015, "Approximately A Thousand Ultra Diffuse Galaxies in the Coma cluster")。論文のプレプリントはこちらから入手可能です。


研究チームの構成

  • 幸田仁 (米国・ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校)
  • 八木雅文 (国立天文台/法政大学)
  • 山野井瞳 (国立天文台)
  • 小宮山裕 (国立天文台/総合研究大学院大学)

(補足1) 銀河団内部には強い重力が働いており、重力が銀河を引き延ばす (場合によっては引きちぎる) 方向に働いています。具体的に言うと、銀河団の重力は銀河団中心に近づくと強くなります。大きく広がった銀河の場合、銀河団中心に近い側の端にかかる重力が最も強く、遠い側には比較的弱い重力が働きます。この銀河団からかかる重力の強さの「差」のため、銀河は全体として引き延ばされる (引きちぎられる) 方向に力を受けます。これが潮汐力です。超暗黒銀河が潮汐力で引きちぎられて破壊されないためには、大量の暗黒物質が銀河の中にあって、その重力が銀河団の潮汐力よりも強い力で星を銀河内部にしばり付けている必要があります。

(補足2) ガスが失われた原因として、銀河団ガスの風圧による押し出し、銀河団内の別の銀河との重力相互作用によるはぎ取り、銀河団環境に誘発された銀河内部での同時多発的な超新星爆発によるガスの押し出し、の3つの可能性が挙げられています。




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