観測成果

大量のガスを一気に呑みこむ小さな怪物天体

2015年6月2日

  ロシア特別天体物理観測所および京都大学の研究者からなる研究チームは、謎の天体「超高光度X線源」のうち4天体をすばる望遠鏡で観測し、その全てから、ブラックホールがガスを一気に呑みこむ時の反動で、大量のガスが放出されている証拠を捉えました。この事実は、これらの天体がいずれも「意外に小さな」ブラックホールであり、銀河系内の特異天体 SS 433 と同類であることを裏付けます。この成果は、長年の論争の的であった超高光度X線源の正体について重要な知見を与え、ブラックホールへのガスの「落ち方」の理解にもインパクトを与えるものです。


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図1:ハッブル宇宙望遠鏡で撮像した、矮小銀河ホルムベルク II にある超高光度X線源 X-1 (矢印) の周辺の多色合成画像。おおぐま座の方向、約 1100 万光年の距離にある。画像の大きさは約 1100 光年 × 900 光年。赤色は、水素原子からの輝線 (Hα) を表している。(クレジット:ロシア特別天体物理観測所/ハッブル宇宙望遠鏡)



  我々の近くの銀河をX線で観測すると、銀河の中心から離れた位置に、太陽の 100 万倍以上もの明るさで輝く天体が見つかることがあります。これらの天体は、例外的なX線の明るさから「超高光度X線源」(UltraLuminous compact X-ray source, ULX) と名付けられ、その正体は長きにわたって論争の的となっています。その大部分は、星とブラックホールが重力によりお互いの回りを回っている「連星」と考えられます。ブラックホールに星から流れてきたガスが落ち込むと、「降着円盤」が形成され、その強い重力によってガスが1千万度以上の高温に熱せられ、強いX線を放射します。

  最大の論点が、そのブラックホールの大きさです。銀河系内で見つかっている同種のブラックホールの質量は、せいぜい太陽の 20 倍程度ですが、超高光度X線源はこれらよりおよそ 100 倍以上も明るいのです。これらを説明するために、大きく分けて (1) 太陽のおよそ 1000 倍以上の質量をもつブラックホール (注1) とする説と、(2) 太陽のおよそ 100 倍以下の「小さな」ブラックホールが理論限界を越えて大量のガスを呑みこんでいる (超臨界流、注2) とする説の二つが提唱されてきました。


  研究グループは、4つの銀河にある超高光度X線源 (ホルムベルク II X-1、ホルムベルク IX X-1、NGC 4559 X-7、NGC 5204 X-1) を、すばる望遠鏡に搭載された微光天体分光撮像装置 FOCAS (Faint Object Camera And Spectrograph) を用いて合計4晩にわたって観測しました。これらはいずれも 22−24 等と暗いため、質の良いスペクトル (波長ごとの光の強度) を取得するために、集光力の優れたすばる望遠鏡が威力を発揮します。図1に、ホルムベルク II X-1 の周辺領域の、可視多色画像を示します。矢印の先にある明るい天体が「X-1」で、周囲を、この天体から放射されたX 線によって電離されたガス (赤色) がとりまいている様子がわかります。

  研究グループはまず、これらの4天体のスペクトルが全て、共通の特徴を示すことを発見しました (図2)。それは幅の広い、ヘリウムイオンから出る輝線で、この系に高温 (数万度) のガスが大量に存在することを示唆しています。輝線の幅はドップラー効果によって生じ、ガスの速度を反映します。さらに、より「低温」のガスから放射される水素原子からの輝線の幅が、ヘリウムイオンの幅よりも「大きい」ことがわかりました。これらの事実は、降着円盤または星から、外向きに加速された高温の「風」が吹き出していることを示しています。


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図2:すばる望遠鏡で測定した、超高光度X線源の可視光スペクトル。上からホルムベルク II X-1、ホルムベルク IX X-1、NGC 4559 X-7、NGC 5204 X-1。He II がヘリウムイオンからの輝線、Hαは水素原子からの輝線を示す。(クレジット:京都大学)


  同じ輝線スペクトルの特徴は、銀河系内の特異天体 SS 433 でも見られます。SS 433 は、星と、太陽の 10 倍以下の質量をもつブラックホールからなるX線連星と考えられており、光速の 0.26 倍の宇宙ジェットを常に放出していることで有名です。SS 433 は、そのジェットの詳しい観測から、理論限界を越えた「超臨界流」がおきていることが確実な唯一の天体です。一方、「超臨界流」がおきていない普通の銀河系内ブラックホール連星から、このような特徴のスペクトルが観測されたことはありません。

  研究グループは、さまざまな可能性を考慮した結果、これらが「小さなブラックホールに大量のガスが一気に流れ込んでおり、その反動で、一部のガスが降着円盤風として放出されている」証拠であると結論づけました。さらに、太陽の 100 万倍程度の明るさをもつ超高光度X 線源はすべて「同種族」の天体であり、銀河系内の特異天体 SS 433 と同類である、と推論しています。すなわち、ブラックホールが小さくとも、ガスを呑みこむ勢いがひじょうに大きいため、これほど極めて明るいX線を放出していると解釈できます。

  図3に、これらの天体の概念図を示します。超高光度X線源は、降着円盤をほぼ真上の方向から見ているため、X線で明るい「中心部」が見えています。SS 433 も、超高光度X線源と同じかそれ以上に明るいX線を出していると考えられますが、我々が真横の方向から見ているために中心部が円盤そのものに遮られ、直接、見ることができません。SS 433 では、超高光度X線源と比べてより大量のガスを呑みこんでいるため、円盤風の密度はより大きく、かつ定常的なジェットが生じると解釈できます。


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図3:超高光度X線源 (上) と SS 433 (下) の構造および視線方向。ブラックホール近くの降着円盤は、超臨界流となっており、その内部から強いX線が放射されている。途中から、大量のガスが降着円盤風として吹き出しており、そこからヘリウムイオンや水素原子の輝線が観測される。(クレジット:京都大学)



  このようなブラックホールへの「超臨界流」は、宇宙初期において、銀河の中心にある超巨大質量ブラックホールを短時間で形成するための有力なメカニズムの一つと考えられています。近くの宇宙で、実際にこのような現象が見つかったことは、宇宙の形成史を理解をする上においてもたいへん意義が大きいと考えられ、今後の理論研究のさらなる進展を促すものです。


  しかし、超高光度X線源の中のブラックホールが、SS 433 と同じような太陽質量の数倍程度の「本当に小さい」ブラックホールなのか、それとも太陽質量の数十倍程度の「そこそこ小さい」ブラックホールなのか、SS 433 で見られるような定常ジェットはどのような条件で生まれるのか、といった問題は、まだ解明されていません。研究チーム中核の一人である上田佳宏さん (京都大学) は、「本年度打ち上げ予定の ASTRO-H や将来のより高感度なX線天文衛星を用いたX線観測、および多波長観測を進めることで、最終的にこれらの謎を解決していきたい」と、さらなる展開への意気込みを語っています。


  この研究成果は、発行された英国の物理学誌『ネイチャー・フィジックス』のオンライン版に2015年6月1日付けで掲載されました (Fabrika et al. 2015, "Supercritical accretion discs in ultraluminous X-ray sources and SS 433", Nature Physics, 10.1038/nphys3348)。またこの研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金・基盤研究 C (26400228) のサポートを受けて行われました。


(注1) 一般に、太陽のおよそ 100 倍より重くおよそ 10 万倍より軽い質量をもつブラックホールを「中間質量ブラックホール」と呼びますが、厳密な質量の範囲は決まっていません。

(注2) 球対称の場合、天体の光度がある値を越えると、光の圧力が重力を上回り、ガスが落ちることができなくなります。これをエディントン限界光度といい、その値は天体の質量に比例します。エディントン限界光度に相当する以上の量のガスが、天体に流れ込んでいるものを「超臨界流」といいます。球対称でなく、円盤状にガスが落ちる場合は、このような状態になり得ます。


研究チームの構成

  • セルゲイ・ファブリカ (ロシア特別天体物理観測所・教授)
  • 上田佳宏 (京都大学大学院理学研究科・准教授)
  • アレクサンダー・ヴィノクロフ (ロシア特別天体物理観測所・大学院生)
  • オルガ・ショルホヴァ (ロシア特別天体物理観測所・研究員)
  • 志達めぐみ (京都大学大学院理学研究科・大学院生 (論文執筆当時)、理化学研究所・研究員 (現在))


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