観測成果

すばる望遠鏡が捉えたラヴジョイ彗星 (C/2013 R1) の尾の素早い変化

2015年3月4日

国立天文台、ニューヨーク州立大学、都留文科大学の研究者からなる研究チームは、ハワイ時間2013年12月4日にすばる望遠鏡でラヴジョイ彗星 (C/2013 R1 (Lovejoy), 注1) を詳しく観測した結果、イオンの尾の構造が、20 分ほどの間に大きく変化していたことを発見しました。地球に近づき、かつ十分明るく見える彗星は1年に1つあるかないかと数が少ないため、イオンの尾の短時間での急激な変化は観測データも少なく、未だにあまりよく理解されていません。すばる望遠鏡の広い視野と高い集光力がこの分野に新たな展開をもたらすことが期待されます。


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図1:彗星のイオンの尾の大局的な時間変化を、I バンドで得られた2分露出の3枚の画像から作成した GIF アニメーションとして示しました。特に尾の下流の方 (画像下側) で、尾の幅が時刻とともに細くなっていたことがわかります。右下の時刻表示は露出開始時点のハワイ時間で、2013年12月4日早朝です。図では明るい部分を黒く、暗い部分を白く表示しており、画像内で白く見える斜めの格子は、観測装置の検出器の間の隙間です。また、彗星の核が画像上側、尾が画像下側にくるように回転した上で彗星核が同じ位置にくるように合わせているため、背景の星が移動して見えています。(クレジット:国立天文台)

  研究チームは既に2013年に、この彗星の尾の構造を詳細に写し出した画像を公開しています (すばる望遠鏡 2013年12月5日 トピックス「【速報】すばる望遠鏡が写したラヴジョイ彗星の尾の微細構造」)。今回の研究では、すばる望遠鏡に搭載された主焦点カメラ Suprime-Cam を用いて、彗星の核から 80 万キロメートルほどの範囲のイオンの尾を繰り返し観測し、時間変化を追求しました。観測に使われた I バンド (波長 850 ナノメートル) では水イオン、また V バンド (波長 550 ナノメートル) では一酸化炭素イオンと水イオンの発する光を見ています。

  得られたデータを詳しく調べたところ、ラヴジョイ彗星の尾の大局的な構造が、10 分間ほどの短時間で変化していたことがわかりました (図1)。

  「好奇心も手伝って教育・アウトリーチのために画像を撮り始めました。初日の観測で美しく細かな構造が見えて感心したことから、二日目は短時間で連続写真を撮りました。データを解析してみると『どうも短時間で変化しているらしい』ということも分ってきて、もしかしたら重要な発見をしているのかとワクワクしました」と語るのは、当夜の観測責任者であった幸田仁さん (ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校) です。

  さらに、イオンの尾の中を詳しく見たところ、核から 30 万キロメートルほどの位置に塊が生まれ、秒速 20-25 キロメートルほどの速度で下流に流れていく様子も発見されました (図2)。

  イオンの尾は、太陽から流れてくる粒子 (太陽風) によって彗星の核付近のイオンが吹き流されて伸びていくもので、尾の中のイオンは、最終的には太陽風の速度 (秒速およそ 300-700 キロメートル) に達して流されていくと考えられています。今回の観測では、彗星の近くにいたイオンの塊が太陽風によって最初の加速を受けつつある、その動き始めの状態を観測したと言えます。観測当時、ラヴジョイ彗星のイオンの尾は、地球から見てほぼ視線と垂直 (83.5 度) な方向を向いていたと考えられるため、このような尾の中の移動を詳しく調べるのに好条件でした。


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図2:(左) I バンド、2秒露出のラヴジョイ彗星。水色の四角が、右で切り出されている部分を示しています。(右) 彗星のイオンの尾の中の塊の移動。それぞれ2分露出のデータを処理し、背景の星をマスクした後、細かい構造が見えるように更にアンシャープマスク処理されたもの。マスクされた星は右上から左下への斜めの白い線として見えています。黄色の字で示した時刻は露出開始時のハワイ時間。白い丸で囲った部分が今回発見された塊で、時間とともに彗星の核から遠ざかる方向に移動しているのがわかります。この図で切り出した範囲の大きさは、2500 キロメートル × 5600 キロメートルほどで、ここから移動速度がおよそ秒速 20-25 キロメートルと計算されました。(クレジット:国立天文台)


  不思議なことに、今回観測された塊の移動速度は、過去、ハレー彗星で観測された秒速 58 キロメートルという速度や、過去のいくつかの大きな彗星の観測から得られた統計値である秒速 44±11 キロメートルという値 (注2) と比べてかなり遅いものでした。このようなイオンの塊の初速度がどのような条件で決まっているのか、塊の生成のメカニズムも含めてまだはっきりとはわかっていません。様々な条件での彗星の観測データを今後も蓄積していくことで、イオンの尾の中で起きている物理的メカニズムを解明していくことが期待されます。

  論文の第一著者である八木雅文さん (国立天文台) は次のようにコメントしています。「彗星は太陽に近づくと夕暮れや明け方にしか観測できないことも多く、逆にそのような空が少し明るくなった時間帯は系外銀河などの暗い天体の観測には不向きです。今回のようにうまく時間を配分できると、すばる望遠鏡を最大限活用できます。今後も工夫して彗星のデータを蓄積していければ良いと思います。」


  この研究成果は、2015年3月発行の米国の天文学誌『アストロノミカル・ジャーナル』に掲載されました (Yagi et al. 2015, "Initial Speed of Knots in the Plasma Tail of C/2013 R1(Lovejoy)", The Astronomical Journal, 149, 97)。


研究チームの構成

  • 八木雅文 (国立天文台光赤外研究部)
  • 幸田仁 (ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校)
  • 古荘玲子 (都留文科大学/国立天文台)
  • 寺居剛 (国立天文台ハワイ観測所)
  • 藤原英明 (国立天文台ハワイ観測所)
  • 渡部潤一 (国立天文台天文情報センター・副台長)

(注1) 彗星は原則として発見順に符号が付けられますが、通称として、3名までの発見者の苗字で呼ぶことが国際天文学連合により決められています。オーストラリアのテリー・ラヴジョイ氏により単独発見され「ラヴジョイ彗星」と呼ばれる明るい彗星は複数ありますが、本発表の彗星 C/2013 R1 (Lovejoy) は、2015年3月現在も明るく見えている C/2014 Q2 (Lovejoy) や、2012 年に太陽に近づいた C/2011 W3 (Lovejoy) とは、それぞれ別の彗星です。C/2014 Q2 (Lovejoy) については石垣島天文台「愛に変化!?、ラブジョイ彗星の尾の収束を捉える」を、C/2011 W3 (Lovejoy) についてはアルマ望遠鏡「ラブジョイ彗星と南十字」などをご覧下さい。

(注2) 例えば Saito et al. 1987, "Structure and dynamics of the plasma tail of comet P/Halley. I - Knot event on December 31, 1985", Astronomy and Astrophysics, 187, 209Niedner 1981, "Interplanetary gas. XXVII - A catalog of disconnection events in cometary plasma tails", Astrophysical Journal Supplement Series, 46, 141 で報告されています。




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