観測成果

銀河が奏でる行進曲
〜 すばる望遠鏡 FMOS が明らかにする宇宙初期の大質量銀河の成長 〜

2013年12月5日

  東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構・名古屋大学・国立天文台などの国際研究チームは、すばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器 FMOS を用いて深宇宙を観測し、100 億年前の銀河で新しい星々が非常に活発に形成されている様子を捉えました。また、大質量銀河を取り巻くガスは重元素やダスト (星間固体微粒子) を豊富に含んでいることが確かめられました。これは大質量銀河がこの時代にすでに十分に成熟していることを示唆しています。今回の研究成果は、宇宙の若い頃の姿がどのようなものだったか、という重要な問いに迫るものです。


  宇宙の誕生と進化の歴史を探ることは、天文学・宇宙物理学でも究極のテーマの一つです。研究チームが参加する COSMOS (Cosmological Evolution Survey) プロジェクト () は特に、宇宙の進化の歴史において大規模構造の環境が銀河の形成や進化にどのような影響を与えるのかを調べています。質量や成長率などの銀河そのものの性質と、その銀河が存在する場所の環境との関係を明らかにすることで、初期の宇宙から我々が住む現在の宇宙に、どのようにして変化してきたのかという謎に迫ることができます。チームはこの研究の一部として、すばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器 FMOS を用いて 1000 個以上の遠方銀河を観測し、100 億年前の宇宙の地図を作るプロジェクトを進めています。

  図1は FMOS により得られた複数の遠方銀河のスペクトルイメージで、水素原子から放射される Hα, Hβ 輝線、窒素原子の [NII]、 酸素原子が出す [OIII] といった輝線が検出されている様子が示されています。これらの輝線の波長から、赤方偏移、すなわちその銀河までの距離が求まります。また、Hβ 輝線と Hα 輝線の強度の比からは光を吸収するダスト成分の量を推定することができます。さらにその銀河までの距離と Hα 輝線の強度、ダスト量の推定を合わせることで、その銀河の星形成率 (1年間にその銀河で新しく作られる星の総質量) を決定できます。


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図1: FMOS で得られたスペクトルイメージの一部 (左図が波長 1.1-1.35 マイクロメートルの範囲、右図が波長 1.6-1.8 マイクロメートルの範囲。横は波長方向で、各々のファイバーで見た個々の天体のスペクトルが縦方向に並んでいます (図では 68 本のスペクトルが示されています)。輝線が検出されている場所が青丸で示されています。挿入図はデータから数値化されたスペクトル。垂直の帯は地球大気が出す特定波長の夜光をカットするフィルターによって光が遮断された部分です。(クレジット:国立天文台)


  一連の FMOS-COSMOS サーベイは高い波長分解能での近赤外分光による遠方銀河のサーベイとしては最大のものであり、現在も進行中です。名古屋大学の柏野大地さんらは今回、その初期成果として 2012年3月以降の12夜の観測データから以下のような事実を明らかにしました。

1. 銀河の星形成活動の歴史
  銀河の星形成率は、星を作る材料となる物質の総質量に伴って変化し、また宇宙初期から現在にかけて、星形成率が次第に低下していることが知られています。この関係はこれまで我々の近傍の宇宙でしか確かめられていませんでしたが、FMOS を用いた今回の観測結果から、宇宙初期の銀河でも、星形成率は銀河の質量に伴って増加し、しかもその効率が現在よりも 20 倍以上高かったということが示されました (図2)。宇宙の歴史のその時々で星形成率は銀河の星質量に伴って増加している様子が、赤方偏移 1.6 (約 100 億年前) まで示されたことになります。この関係は他の星形成率指標 (紫外線光度や遠赤外線光度) を用いた観測であれば高赤方偏移についても確認されていましたが、FMOS による Hα 輝線の観測結果により、宇宙初期の星形成を測定し、近傍宇宙での同様の指標に基づいた観測結果と比べる場合に、一貫性のある正確な議論が可能になりました。


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図2: 銀河の星質量と星形成率の関係。FMOS により観測された銀河が赤点で示されています。縦軸は地球の1年に相当する時間にその銀河で新しく作られる星の総質量を太陽質量単位で表した量です。星形成率は銀河の質量とともに増加し、500 太陽質量/年にまで届いています。宇宙の年齢が上がるにつれて、星形成率は全体的に規則正しく低下している様子が示されています。(クレジット:国立天文台)


2. 宇宙初期でのダスト (星間固体微粒子) 形成と化学組成の進化
  FMOS が観測した多くの銀河では、我々の近傍の同じ質量の銀河と比べて、星間ガスの重元素の含有量が非常に少ないことが確かめられました。この結果は、激しい星形成の燃料となる原初のガスを大量に蓄えていて、これから成長する余地があるという宇宙初期の銀河像に一致します。一方で、観測された中でも非常に重い銀河は大量のダストと重元素を蓄えていることがわかりました。この事実はそういった重い銀河はすでに十分に成長しており、我々の近傍の完全に成熟し星形成を終えてしまった銀河と似ていることを示しています。

  研究チームによる一連の野心的な観測を実現するためには、FMOS の先進的な技術が不可欠でした。 FMOS は光ファイバーを用いた近赤外線の分光装置です。一本一本のファイバーを 10 マイクロメートル以下の精度で精密に制御して個別に天体に向けることで、同時に 400 個の天体のスペクトルを得ることができます。また、すばる望遠鏡の主焦点に取り付けられ、広い視野を観測することができます。広視野と多天体同時観測の能力は、様々な環境における銀河の進化や性質の違いを明らかにするような研究から、星形成の現場、銀河団の形成、宇宙論まで幅広い目的に大変有効です。また、FMOS には夜光と呼ばれる地球大気が出す邪魔な光を遮断する装置が組み込まれており、これによってより遠方の淡い銀河を捉えることができました。FMOS のこれらの能力を活かした観測によって、今回、これまでに前例のない遠方銀河の姿が明らかにされました。

  現在、FMOS-COSMOS サーベイは 1000 個を超える銀河を観測して、宇宙の大規模構造の地図を作るという目標のちょうど中間地点に到達しています。これまでに1平方度の範囲を観測しており、今後その領域を広げるとともに、他の望遠鏡を用い、これまでの観測と比べて観測視野は狭い代わりに広い観測波長範囲と高い感度の観測を行う予定です。そのような補完的観測によって、近傍の宇宙に存在する成長した重い銀河団のような銀河の集まりが、宇宙の初期にもあったのかという問いに対する答えを見つけることが期待されます。


(注) COSMOS: COSMOS フィールドと名付けられた空の一部分を様々な観測装置で多波長観測し、銀河の形成と進化の謎について迫ろうとするプロジェクト。特にすばる望遠鏡を用いたファイバー多天体分光器では、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 (研究責任者 John Silverman) とハワイ大学 (同 Dave Sanders) を中心とした研究者らが目的を達成するために共同研究を行っています。


  この研究成果の一部は、2013年11月1日に発行された米国の『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』誌に掲載されました (Kashino et al. 2013, "The FMOS-COSMOS Survey of Star-forming Galaxies at z ~ 1.6. I. Hα-based Star Formation Rates and Dust Extinction", The Astrophysical Journal Letters, Volume 777, L8)。また本研究は、科学研究費補助金 (22340056, 25287057: N.S., 23224005:N.A.) 及び名古屋大学博士課程教育リーティングプログラム「PhDプロフェッショナル登龍門: フロンティア・アジアの地平に立つリーダーの養成」による助成を受けています。


研究論文の出典

  • Kashino et al. 2013, "The FMOS-COSMOS Survey of Star-forming Galaxies at z ~ 1.6. I. Hα-based Star Formation Rates and Dust Extinction", The Astrophysical Journal Letters, Volume 777, L8
  • Zahid et al. 2013, "The FMOS-Cosmos Survey of Star-Forming Galaxies at z~1.6 II. The Mass- Metallicity Relation and the Dependence on Star Formation Rate and Dust Extinction'', arXiv:1310.4950, Submitted to Astrophysical Journal.

関連リンク
すばるの新しい眼、ファイバー多天体分光器 FMOS (2010年11月19日 すばる望遠鏡プレスリリース)





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