観測成果

銀河系内

塵粒にふわりと包まれた惑星誕生の現場

2013年8月22日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

<概要>

台湾中央研究院や国立天文台の研究者を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された世界最高性能の惑星・円盤探査用赤外線カメラを用いて、おうし座 RY 星と呼ばれる若い星の原始惑星系円盤を観測し、円盤の立体構造の存在を示す赤外線分布の検出に成功しました。従来考えられていた単純な円盤構造では説明できない可能性があるため、研究チームは、観測結果と数値シミュレーションの結果との詳細な比較を行いました。その結果、この円盤の赤外線分布が、円盤上層部に広がった密度の薄い塵の層によるものだということがわかりました。円盤の立体構造がここまで詳細に明らかにされたのは世界で初めてです。このような層のさらなる研究は、太陽系外惑星系の多様性の原因を理解する手がかりになるかもしれないと、研究チームは考えています。

塵粒にふわりと包まれた惑星誕生の現場 図

図1: おうし座 RY 星の原始惑星系円盤の想像図。円盤上層部に密度の薄い塵の層が広がっています。この塵の層の向こうに円盤があることがわかるよう、円盤は実際より明るめに描かれています。円盤と垂直方向にのびるジェットは、おうし座 RY 星のような若い星でしばしば観測されるものです (今回の赤外線観測では見えません)。(クレジット:国立天文台)

<研究背景>

近年、私たちの太陽系以外にも多様な惑星系が発見されています。このような惑星は、原始惑星系円盤と呼ばれる、ガスと塵 (ちり、固体小粒子) からなる円盤の中で生まれたものと考えられています。円盤の中で惑星系がどのように生まれ成長するのかは、まだ解明されていません。この謎に迫るため、多くの天文学者たちが赤外線や電波などで観測を進めています。

星や星をとりまく原始惑星系円盤は、分子雲と呼ばれるまわりのガスや塵が降り積もることにより生まれます。このプロセスは 10 万年から 100 万年の間にほぼ終了します。一方で円盤の中では円盤赤道面への塵の集中が進み、その中で塵同士が衝突することにより、惑星のもととなる岩石コアが成長します。このような原始惑星系円盤の立体構造の進化の解明は、原始惑星系円盤や惑星系が成長するプロセスやメカニズムを理解する上で大変に重要です。しかし円盤の平面構造の観測と異なり、立体構造の観測に適した天体ははるかに少なく、多数の天体を探査することで研究例を増やしていく必要があります。

<すばる望遠鏡による観測>
原始惑星系円盤の構造を観測するためには、特殊な観測装置が必要です。すばる望遠鏡では近年、世界最高性能の惑星・円盤探査用赤外線カメラ HiCIAO (ハイチャオ) を用いて、多数の原始惑星系円盤の観測が行われています。 この装置を用いると、地球型惑星の主材料である塵粒子が、中心星からの赤外線を散乱する様子を非常に高い感度でとらえることができます。これまでも、原始惑星系円盤の渦状構造や、リング状構造の発見などで、めざましい成果をあげてきています。

台湾中央研究院の高見道弘さんを中心とする研究チームは、地球から距離約 470 光年にある、年齢約 50 万歳、太陽の2倍程度の質量のおうし座 RY 星という星のまわりの原始惑星系円盤を観測しました。この天体ではこれまでの電波の観測などから、惑星系が成長しつつある可能性が議論されてきました。

観測は波長 1.65 マイクロメートルの赤外線について行われました。観測の結果、検出された赤外線の分布が星を中心とせず、円盤の短軸方向にずれていることがわかりました (図2)。この傾向は、HiCIAO による他の天体の観測では見られなかった新しい結果です。このずれは、はほぼ透明で内部まで見通せる電波と異なり、赤外線では円盤の比較的上層付近の散乱光が観測されるからと考えられます (図3)。すなわちこのずれは、円盤の鉛直方向の構造のあかしということができます。

塵粒にふわりと包まれた惑星誕生の現場 図2

図2: (左) すばる望遠鏡/HiCIAO による、おうし座 RY 星を取り囲む塵粒子の赤外線観測画像。色は赤外線の強弱を表わし、青から黄色、赤になるにしたがって明るくなります。 星印は星の位置を示しています。星の強い光はコロナグラフのマスクで抑えて観測し、この部分は青く塗りつぶしています。白い楕円は、原始惑星系円盤の赤道面の位置で、電波の波長で観測される円盤の位置に対応します。赤外線で観測された星からの散乱光が、全体的に上方向にずれているのがわかります。(右) 円盤により散乱された赤外線の模式図。塵が上層高くに分布しているほど、観測される赤外線の散乱光の分布が上方向にずれます。(クレジット:国立天文台)

<数値シミュレーションとの比較>

円盤の立体構造をさらに詳しく理解するためには、コンピューターを用いた数値シミュレーションとの比較が大変に有効です。そこで研究チームは、さまざまな厚みと表面形状の円盤について光の散乱や放射のシミュレーションを行いました。その結果、観測された赤外線分布は、これまで考えられていたような円盤表面の散乱 (図3a) では説明できないことがわかりました。

研究チームは、観測された赤外線は、円盤の上に広がる密度の薄い塵の層 (散乱層、図3b) によるものではないかと考えました。シミュレーションの結果、このような層を考えることで、観測結果を説明できることがわかりました (図4)。研究チームは、散乱層の塵の総重量を月の重さの約半分程度と見積もりました。

なぜこの原始惑星系円盤で、このような塵の分布が観測されたのでしょうか。これはこの天体が他の原始惑星系円盤に比べてやや若く、星や円盤ができる際に降り積もってきた塵がやや上層に残っているからではないかと考えられます。

塵粒にふわりと包まれた惑星誕生の現場 図3

図3: 原始惑星系円盤の構造の模式図。電波の波長では原始惑星系円盤は透明で、主に赤道面付近の密度の非常に濃い部分の放射が観測されます。赤外線で不透明な層は電波で観測される層に比べて厚く、HiCIAO などの観測では (a) のように、この層の表面からの散乱光が観測されるとふつう考えられています。(b) は、今回のおうし座 RY 星の研究により得られた新しい描像。上層に、電波だけではなく赤外線でもほぼ透明の層が存在し、主にこの層からの散乱光が観測されたと考えられます。(クレジット:国立天文台)

塵粒にふわりと包まれた惑星誕生の現場 図4

図4: 塵粒子による散乱の数値シミュレーション。色は赤外線の強弱を表わし、青から黄色、赤になるにしたがって明るくなります。 白いコントアはすばる/HiCIAO で観測された赤外線の強度分布を示します。図3 (b) のような散乱構造を考えると、観測された赤外線強度分布をうまく説明できます。(クレジット:国立天文台)

<まとめと展望>

惑星系の生成メカニズムは大きくわけて、塵の衝突成長から始まるメカニズムと円盤の重力不安定から始まるメカニズムの2つが提案されています。太陽系外の多様な惑星系がどのメカニズムで生成されたのか、そして何が多様性のもととなったのかはよくわかっていません。しかしいずれの場合も、生まれる惑星の個数、質量、大気組成などは、原始惑星系円盤内の密度や温度に大きく影響されると考えられています。「散乱層の光や赤外線は、観測者の方だけでなく円盤の方向にも散乱され、円盤を暖めるはずです。このことが、円盤内でどのような惑星系が生まれるかを左右するかもしれません」と高見さんたちは考えています。

今後 HiCIAO により、類似の天体がより多く発見されるのではないかと期待されます。一方、近年国立天文台など日米欧がチリに建設した大型電波望遠鏡「アルマ」でも、多数の原始惑星系円盤が今後観測される予定です。アルマを用いることにより、赤外線では見通せない円盤の奥深くの惑星系形成の様子を観測できると期待されています。すばる望遠鏡による赤外線による研究と組み合わせることにより、惑星系の多様性の謎に迫れるのではないかと研究チームは期待しています。

<研究論文出典>
Takami, M. et al. 2013, Astrophysical Journal 772, “High-Contrast Near-Infrared Imaging Polarimetry of the Protoplanetary Disk around RY Tau”


<研究チーム>
本研究は、すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト SEEDS【プロジェクト代表者:東京大学/国立天文台の田村元秀教授】の一環として行われ、本プロジェクトメンバーである台湾中央研究院の高見道弘研究員を主体に、日米台独仏など 53 名の共著者による論文が、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』の2013年8月1日号に掲載されました。SEEDS はすばる望遠鏡と観測装置 HiCIAO 及び補償光学装置 (AO) を用いた観測によるプロジェクトで、2009年から進められています。メンバーは国立天文台、米国・プリンストン大学、NASA、ドイツ・マックスプランク天文学研究所などの研究者によって構成されています。


<研究グループの主要構成メンバー>
  • 高見道弘 (台湾中央研究院)
  • ジェニファー・カー (台湾中央研究院)
  • 橋本淳 (東京大学/米国・オクラホマ大学)
  • キム・ヒョスン (台湾中央研究院)
  • ジョン・ウィスニエウスキー (米国・オクラホマ大学)
  • トーマス・ヘニング (ドイツ・マックスプランク研究所)
  • キャロル・グレディ (米国・エウレカ・サイエンティフィック)
  • 神鳥亮 (国立天文台)
  • クラウス・ホダップ (米国・ハワイ大学)
  • 工藤智幸 (国立天文台)
  • 日下部展彦 (国立天文台)
  • チョウ・メイイン (台湾中央研究院)
  • 伊藤洋一 (兵庫県立大学)
  • 百瀬宗武 (茨城大学)
  • 眞山聡 (総合研究大学院)
  • 田村元秀 (東京大学/国立天文台)
<研究助成情報>
本研究の一部は、科学研究費補助 (22000005, 23103004)、アメリカ国立科学財団 (1008440, 1009203)、台湾行政院国家科学委員会 (100-2112-M-001-007-MY3)、 総合研究大学院大学学融合推進センター若手研究者研究支援による助成を受けています。

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