観測成果

はぎ取られた銀河ガスの中で誕生・進化した青色超巨星

2013年4月11日

【概要】

  台湾中央研究院などの研究チームは、すばる望遠鏡などの観測により、銀河が高速で銀河団中に落ち込む際にはぎ取られたガスの「尾」の中に、単独に存在すると思われる青色超巨星を発見しました。この青色超巨星は、もともとはこのガスの「尾」の中で 5000 万年以上前に生まれた大質量星 (O型星) であったと考えられます。本研究は、私たちの住む天の川銀河でみられる星生成とはまったく異なる環境での星生成の様子について、新たな知見をもたらすものです。


  銀河団の中心部にはおよそ 1000 もの銀河が存在し、それらはセ氏 100 万度ほどの高温プラズマとダークマターに埋もれています。そこに銀河が落ち込むと、銀河に付随するガスが高温プラズマとの相互作用によってはぎ取られてしまいます。「はぎ取られたガスの中で星は生まれるのだろうか?もしそうならどのように生まれるのだろう?」このような疑問を抱いた大山陽一さん (台湾・中央研究院) とホタ・アナンダさん (インド・基礎科学研究センター) は、おとめ座銀河団に落ち込んでいる銀河からはぎ取られているガスに注目して、そこでの星生成活動を調べることにしました。おとめ座銀河団は、おとめ座の方向、地球からおよそ 5400 万光年離れたところに存在し、私たちから最も近い所に存在する銀河団なので、これらの様子を細かく調べる上で適した環境です。

  IC 3418 銀河はおとめ座銀河団に秒速 1000 キロメートルもの高速で落ち込んでおり、付随している冷たいガスが引きはがされていることが知られています。この銀河が銀河団を通り抜ける時、引きはがされた冷たいガスによって5万光年にもおよぶ長さの尾を作ります。高温プラズマの中に置かれた低温のガスが再び集まって新しい星を生み出すのかどうかは、最近まで明らかになっていませんでした。しかし、米国の紫外線宇宙望遠鏡 GALEX で得られた紫外線画像によると、新たな大質量星がこの尾の中で生まれている事は確かです。それではどのように、銀河からはぎ取られたガスが高温プラズマ中で再び凝縮して、新しい星が生まれるのでしょうか?私たちの住む天の川銀河では、大質量星は巨大分子雲の中で守られるようにして集団で生まれますが、高温プラズマの中の状況はこれとは異なります。


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: (上) GALEX によって得られた、おとめ座銀河団に落ちつつある IC 3418 銀河の紫外線画像。この銀河が右上の方向に動くにつれ、若い星々の集合体がその後方に5万光年にもおよぶ長さの細長い尾のように延びて分布しています。矢印で示されたこの固まりの一つが今回発見された青色超巨星です。(下) すばる望遠鏡で観測されたこの星の可視光スペクトル。スペクトルからは、水素ガスからの明るい輝線が一本検出されました。これは星生成活動に伴うものとしては説明できず、星表面から吹きだすガスの風に由来する輝線であると考えられます。(クレジット:国立天文台)


  大山さんは、IC 3418 銀河の中の尾の中にあるちっぽけな点にしか見えない天体が、同じ尾の中にあり紫外線で光っている他の天体とは様子が異なることに気づきました。そして2011年4月に研究チームが行ったすばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置 FOCAS の可視光観測により、この天体のスペクトル情報が得られ、その驚くべき特徴が明らかになりました。大山さんは「この天体のスペクトルを初めて見たとき、私の知っているどの系外天体のスペクトルとも似ていなかったので、大変困りました」と当時を振り返ります。通常の星生成領域に見られる特徴が、この天体では見いだされなかったのです。通常は、星が生まれると強い紫外線を放射し、その周囲にあるガスを加熱・電離するはずです。しかしながらこの天体では、これらの周囲の加熱されたガスの代わりに、星の表層大気から秒速およそ 160 キロメートルで吹きだすガスの「風」の特徴が見つかったのです。

  近傍にある良く知られた星との比較の結果、この星はもともと 5000 万年以上前に生まれた大質量星 (O型星) が歳をとった天体であることが明らかになりました。この状態の星は「青色超巨星」と呼ばれ、いずれ近い将来に超新星爆発を起こして死を迎えます。大山さんは、「私たちの解釈の通りなら、この星はスペクトル観測がなされた宇宙で最も遠い星です。私たちは 8.2 メートルのすばる望遠鏡を使い、一晩のうちにこの天体の分光観測に成功しました。計画されている 30 メートル望遠鏡 (TMT) が実現すれば、似たような星の分光観測の研究がどんどんできるようになります。このような時代がくるのが楽しみです」と語ります。

  またホタさんは、今回のような見慣れない天体を研究することの重要性について、「これまで天の川銀河で行われてきた星生成活動の研究に加えて、全く異なる環境での星生成活動を調べる事は大変重要です。このような研究について、すばる望遠鏡による詳細な分光観測データなどが新たな道を開きます」とコメントしています。今後、この不思議な天体を取り巻く高温プラズマやその乱流、その中での冷たいガスの状態をより詳しく調べることによって、星生成の新たな側面が見いだされると期待されます。


  本研究成果は、すばる望遠鏡、カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡 (CFHT)、および Galaxy Evolution Explore (GALEX) を用いた観測で得られました。また、2013年4月20日に発行された天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に掲載されました (Ohyama and Hota 2013, The Astrophysical Journal, 2013年4月20日号)。





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