観測成果

100 億光年彼方の宇宙にある「勾玉 (まがたま)」銀河の正体は?
~距離の離れた二つの銀河が共演~

2013年3月31日

【概要】

  愛媛大学、大阪産業大学、国立天文台、東北大学の研究グループは、すばる望遠鏡の観測により 116 億光年彼方に見つかった「勾玉 (まがたま)」のような奇妙な形をした銀河 LAE221724+001716 が、手前にある別の銀河による重力レンズ効果を受けていることを突き止めました。重力レンズ効果による増光の度合いなどから、手前にあるのは宇宙誕生から約 40 億年の時代にある形成途中の銀河で、その質量はおよそ太陽 10 億個分、銀河系の質量の1パーセント程度の小さいものであることもわかりました。重力レンズ効果から形成途中にある銀河の素性に迫る今回の研究手法は、どの時代にどれだけの星ができあがっていたのかという銀河の形成過程を明らかにする上で、重要な手がかりを与えてくれそうです。


【研究の背景】

  今回の研究対象となった若い銀河は LAE 221724+001716 という名前で、距離が 116 億光年です。この銀河は、もともと研究グループの一員である大阪産業大学の井上昭雄准教授らのグループが、すばる望遠鏡を用いた観測で発見した、水素原子をイオン化する強い紫外線 (イオン化光) を放射している銀河たちのひとつでした ()。

  この銀河は、イオン化光の放射位置と銀河本体の位置がずれていることが分かっていましたが、そのずれは非常に小さく、手前の銀河の重なりの確率はほとんど無いと考えられていました。ところがその後の研究で、イオン化光と考えられた光は距離 99 億光年にある別の銀河からの放射であることが分かりました (図1図2)。「この結果を知ったときは大きなショックを受けました。これほど珍しい現象が見つかることに大きな驚きを覚えました」と、大阪産業大学准教授の井上昭雄さんは語ります。


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図1: 「勾玉 (まがたま)」銀河 LAE221724+001716 のハッブル宇宙望遠鏡による撮像観測結果 (左)。撮像観測結果ではこの銀河は勾玉 (右) のような形をしています。(クレジット:愛媛大学、右図はウィキペディアより転載)


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図2: LAE221724+001716 の模式図 (上) とすばる望遠鏡 (下左、下中央) およびハッブル宇宙望遠鏡 (下右、図2の左と同じ) による撮像観測結果。当初は、NB497 が銀河本体、NB359 がイオン化光の放射で、両者の重心の位置にずれがあると考えていましたが、実際には二つの銀河が重なっていることがわかりました。(クレジット:愛媛大学)


  「この観測事実を知ったとき、すぐに重力レンズ効果を受けている可能性を考えました」と研究の動機を語るのは、今回の研究の中心となった愛媛大学教授の谷口義明さんです。遠方の天体からやってくる光が手前の重力源の近くを通ると、重力レンズ効果を受けることが期待されます (図3)。重力レンズは相対性理論で有名なアインシュタイン博士が理論的に予想していたものです。


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図3: (a) 重力レンズの模式図。「天体」からの光は「重力源」がない場合は黒線のように進みますが、「重力源」がある場合には光は重力源のそばで曲げられ、赤線のように進みます。その結果、本来届くはずのなかった光が届くことで、「天体」は明るくなります。(b) 今回の場合。116 億光年彼方の奥の銀河の本来の位置 (緑の☆印) から放射された光は、99 億光年彼方にある手前の銀河の重力レンズ効果で曲げられ、我々からは赤の★印の位置に観測されます。このとき、奥の銀河と手前の銀河は角度θだけ離れているように見えます。θの観測値は 0.6 秒角です。(クレジット:愛媛大学)


  重力レンズ効果は遠方からやってくる光を増光するので、本来は検出できないほど暗い天体を検出するという自然の虫メガネの役割を果たすという利点もありますが、逆に増光の程度が分からないと元の明るさが分からないという問題を引き起こします。銀河の明るさは銀河の星質量に関係するので、増光の程度を見積もることは、どの時代にどれだけの星ができあがっていたのかという銀河の形成過程を明らかにするためにも必要です。


【今回の成果】

  重力レンズ効果を見積もるために必要な情報は、(1) 我々から奥の銀河までの距離、(2) 手前の銀河と奥の銀河の間の距離、(3) 手前の銀河と奥の銀河との位置のずれ、(4) 手前の銀河の質量、の4つです。(1)〜(3) は既に観測で得られています。今回、研究グループはすばる望遠鏡の観測データから、新たに手前の銀河の質量を見積もりました。その結果、手前の銀河の質量はおよそ太陽 10 億個分で、これは銀河系の質量の1パーセント程度の小さいものでした。銀河としては質量が軽いほうなので、116 億光年彼方の銀河を明るくしているとはいえ、最大でも 1.2 倍程度しか明るくしていないことが分かりました (図4)。


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図4: 増光率と手前の銀河に含まれる星の質量との関係。赤い線は、今回我々が推定した手前の銀河に含まれる星の質量の上限値で、それにより増光率の上限値が得られる。(クレジット:愛媛大学)


  手前にある若い銀河は、宇宙誕生から約 40 億年の時代にある形成途中の銀河でした。このような形成途中の銀河が、奥にある銀河の視線方向上に偶然重なる確率は、およそ 100 個に 0.5 個の割合です。頻度としては無視できるほど小さくはありません。しかし、今回の研究成果から、このような形成途中の銀河の重力レンズによる奥の銀河への影響は、それほど大きくないことが確認できました。

  今回の研究は、愛媛大学理学部4回生の中広祐也さんが卒業研究として行ったものです。中広さんは、「卒業研究が論文になるとは思いませんでした。今回はたまたま見つかった一例についての解析でしたが、このような天体は他にも見つかっています。それらの重力レンズ効果も調べ、宇宙の謎を解き明かしたい」と意気込みを語っています。


動画: 論文の筆頭著者である中広祐也さん (愛媛大学) による解説。(2013年3月11日撮影)


  この研究成果は2013年4月1日に発行された天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました (Nakahiro et al. 2013, The Astrophysical Journal, 2013年4月1日号)。また、本研究は、科学研究費補助金 (17253001, 19340046, 23244031, 23654068, 23684010, 24244018) によるサポートを受けて行われました。

研究チーム:
中広 祐也 (愛媛大学)、谷口 義明 (愛媛大学)、井上 昭雄 (大阪産業大学)、塩谷 泰広 (愛媛大学)、鍛冶澤 賢 (愛媛大学)、小林 正和 (愛媛大学)、岩田 生 (国立天文台)、松田 有一 (国立天文台)、林野 友紀 (東北大学)、田中 彩果 (愛媛大学)、濱田 勝彦 (愛媛大学)。


(注) この成果についてはすばる望遠鏡2009年2月9日プレスリリース「すばる望遠鏡、遠方宇宙の銀河からの強力な紫外線の検出に成功」をご覧ください。すばる望遠鏡で得られた LAE 221724+001716 の画像は、図3の左・中央に示されています。





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