観測成果

すばる望遠鏡が解き明かす逆行惑星の成り立ち

2013年1月24日

【概要】

  国立天文台と東京大学の研究者を中心とする研究グループは、逆行 (注1) 惑星を持つ惑星系 HAT-P-7 に、これまで知られていなかった伴星 (連星をなすもうひとつの恒星) が存在することを発見しました (図1)。この恒星はすばる望遠鏡による3年間に渡る観測によって本物の伴星であることが確認され、その質量は太陽の 0.25 倍程度とわかりました。また研究グループは、もうひとつの別の長周期の巨大惑星が存在することも確認しました。この巨大惑星は木星より重たいことがわかりましたが、どちら向きで公転しているのかはわかっていません。最初は全て順行の状態で形成されると考えられる惑星が、なぜこの惑星系では逆行して公転するようになってしまったのかこれまでよく分かっていませんでしたが、今回の発見は外側の伴星や惑星の存在が内側の惑星の軌道に影響を与えて逆行惑星を生み出したという示唆を与えるものです。この発見は国立天文台を中心とする、太陽系外惑星・円盤探査の国際研究プロジェクト SEEDS (注2) による直接撮像観測によってなされました。


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図1: すばる望遠鏡による惑星系 HAT-P-7 の撮像結果。上からすばる望遠鏡の IRCS で 2011年8月に撮られた J バンド (中心波長 1.25 ミクロン)、K バンド (中心波長 2.20 ミクロン)、L' バンド (中心波長 3.77 ミクロン) と 2012年7月に HiCIAO で撮られた H バンド (中心波長 1.63 ミクロン) の画像。上が北で、左が東の方角になります。中心の明るい星が HAT-P-7 で、東側 (左側) に写っているのが今回確認された伴星 B です。この伴星 B は、中心星から約 1200 天文単位 (1天文単位は太陽と地球の距離) 以上離れており、0.25 太陽質量程度という軽い恒星であることも分かりました。西側 (右側) に写っている天体は無関係の背景星と確認されました。伴星 B の位置を示した図はこちら
(クレジット: 国立天文台)



【すばる望遠鏡が明らかにした逆行惑星系 HAT-P-7 の姿】

  HAT-P-7 は 2009年にすばる望遠鏡が世界で初めて逆行惑星を発見した惑星系です (すばる望遠鏡 2009年11月4日プレスリリース)。しかし、HAT-P-7 の逆行惑星 HAT-P-7b (以下 "惑星b") が、どのようにして逆行軌道になってしまったのかはまだよくわかっていませんでした。

  HAT-P-7b が逆行していることを最初に発見した国立天文台フェローの成田憲保さんと、東京大学大学院生の高橋安大さん、葛原昌幸さん、平野照幸さんらを中心とする研究グループでは、この惑星 b がどのようにして逆行軌道に至ったのかを明らかにするため、SEEDS プロジェクトの一環として 2009年からこの惑星系の撮像観測を行ってきました。

  研究グループは 2009年にまず伴星の候補を二つ発見し、その後3年間に渡って伴星候補の固有運動 (注3) を測定しました。その結果、一つの候補天体が中心星 HAT-P-7 と連星系をなす本物の伴星 HAT-P-7B (以下 "伴星B") であると確認されました。

  さらに研究グループは、すばる望遠鏡を用いた長期視線速度観測によって、惑星 b の外側かつ伴星 B より内側に、別の巨大惑星 HAT-P-7c (以下 "惑星 c") が存在することも確認しました。すなわち、この惑星系には少なくとも二つの巨大惑星 b と c が公転し、さらに遠い外側に伴星 B を持つという姿をしていることがわかりました。(図2)


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図2: すばる望遠鏡が明らかにした逆行惑星系 HAT-P-7 の想像図。(クレジット: 国立天文台)


【HAT-P-7b はどうして逆行軌道になったのか?】

  最近アメリカのアルブレヒト氏らは、惑星 b は主星の自転軸を短時間で自身の公転軸と同じ方向に揃えてしまうため、逆行軌道は長期間維持されないはずであるという理論的考察を発表しました (Albrecht et al. 2012)。これは惑星形成の初期に惑星 b が逆行軌道になったとしても、それだけでは現在の惑星 b の逆行軌道を説明できないということを示しています。

  一方、今回の観測により、HAT-P-7 には逆行惑星 b の外側に別の惑星 c と伴星 B が見つかりました。複数の惑星・伴星が存在すると、お互いに重力的な影響を及ぼします。このことから、HAT-P-7b の現在の逆行軌道を説明するシナリオとしては、伴星 B や惑星 c が惑星 b に対して古在機構 (図3) という現象を引き起こして惑星 b の軌道の傾きを少しずつ変化させ、主星の自転軸が惑星の公転軸に揃うのを阻んでいたというものが考えられます (詳細は補足を参照)。すなわち HAT-P-7 では、外側にある伴星 B と惑星 c の存在、特にそれらによる古在機構が鍵となって逆行惑星 HAT-P-7b が誕生したと考えられることが、今回の観測からわかりました。


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図3: 古在機構とそれによる惑星移動の概念図。元国立天文台長・古在由秀氏 (現ぐんま天文台台長) が 1962年に発表した天体力学の効果 (古在機構) を取り入れて考案された惑星の軌道移動モデルです。惑星 b を持った中心星 A が伴星 B と連星系をなしていて、その伴星の軌道面が惑星の軌道面に対して大きく傾いているとき、惑星 b は伴星 B からの古在機構を受けて、軌道離心率 (軌道が円軌道からどれくらいずれているかを示す値:e) や軌道傾斜角 (中心星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度:i) が振動します。これを古在振動と呼びます。軌道離心率が非常に大きくなると惑星は中心星の非常に近くを通過することになります。このとき惑星には中心星からの潮汐力が働いて軌道のエネルギーを失い、軌道は中心星に近づいて軌道離心率も小さくなります。これら一連の惑星の軌道移動は、逆行惑星の起源を説明しうるシナリオの一つとして知られています。
(クレジット: 国立天文台)


【本研究の意義と展望】

  この結果は、観測による明確な証拠によって逆行惑星の起源について示唆を与えた初めての結果です。研究グループ代表の成田さんは「今回の結果は、一つの逆行惑星系の謎を解くだけでなく、他の逆行惑星や軌道の大きく傾いた惑星、軌道離心率の大きな惑星などがどのように形成されるかについても、直接撮像による外側の伴星の存在確認によって理解していく道を開いたものです。」と語っています。



動画: 研究グループのリーダーである成田憲保さん (国立天文台) による解説。(2013年1月18日撮影)


【出典】

  この研究成果は、日本天文学会が発行する学術誌『欧文研究報告 PASJ』に掲載されました。
"A Common Proper Motion Stellar Companion to HAT-P-7"
Publ. Astron. Soc. Japan, Vol. 64, L7
著者:
成田憲保 国立天文台太陽系外惑星プロジェクト室 国立天文台フェロー (特任助教)
高橋安大 東京大学大学院生
葛原昌幸 東京大学大学院生
平野照幸 東京大学大学院生
他51名


【謝辞】

  本研究は以下の研究助成を受けて行われました。
科学研究費補助金・研究活動スタート支援No. 23840046 (代表:成田憲保)
科学研究費補助金・特別研究員奨励費No. 23-271 (代表:高橋安大)
科学研究費補助金・特別推進研究No. 22000005 (代表:田村元秀)
大学共同利用機関法人自然科学研究機構・若手研究者による分野間連携研究プロジェクト (代表:成田憲保)


(注1) 逆行:惑星の公転軸と中心星の自転軸のずれが 90 度以上の状態で公転している状態を逆行と呼びます。逆に惑星の公転軸と中心星の自転軸のずれが 90 度以下の状態で公転している状態を順行と呼びます。太陽系の全ての惑星やほとんどの衛星は順行しています。逆行している衛星の有名な例としては、海王星の衛星トリトンがあります。


(注2) SEEDS:「SEEDS」(Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope) は、国立天文台の田村元秀・准教授 (太陽系外惑星探査プロジェクト室長) を中心として、すばる望遠鏡に搭載された高コントラスト撮像装置 HiCIAO を用いて、様々な星の周囲の太陽系外惑星や原始惑星系円盤の直接検出を目指す国際共同研究プロジェクトです。SEEDS プロジェクトでは 2009年から約5年間にわたって、すばる望遠鏡の戦略枠観測プログラムとして 120 夜の戦略的観測を行います。

(注3) 固有運動:恒星は惑星と異なり天球面上をほとんど動かないように見えます。しかし恒星もそれぞれが宇宙空間を移動しているので、長い時間をかけると地球から見て少しずつ移動していることがわかります。このような恒星の天球面上の移動を固有運動と呼びます。同じ連星系に属する恒星は同じ固有運動を持ちます。


(補足)

  HAT-P-7b の現在の逆行軌道を説明するシナリオとしては、以下の二つが考えられます。

  まずこの惑星系で惑星 b と c が惑星同士の重力散乱 (惑星散乱) を起こさなかった場合を考えてみましょう。この場合、惑星 b の逆行軌道を説明するためには、伴星 B がまず外側の惑星 c に古在軌道移動を引き起こし、それによって傾いた軌道を持った惑星 c が惑星 b に古在軌道移動を引き起こすことで惑星 b の軌道が大きく傾き、逆行軌道に至ったというシナリオ (連続的古在軌道移動) が考えられます。

  次に惑星形成の後に惑星 b と c が惑星散乱を起こした場合を考えてみましょう。この場合、惑星散乱で惑星 b が始めから逆行軌道になる可能性がありますが、アルブレヒト氏らの研究結果からそのまま逆行軌道を維持し続けることは困難なので、惑星散乱後にも惑星 c が惑星 b に古在軌道移動を引き起こし、少しずつ軌道を変化させたため現在まで逆行軌道を維持できたと考えられます。

  このように、どちらの場合においても HAT-P-7 という惑星系では外側の伴星 B と惑星 c の存在が鍵となって、内側の惑星 b に対して古在機構を引き起こし、その逆行軌道を生み出したと考えられます。



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