観測成果

渦巻銀河M81の淡い外部構造に記された銀河形成史

2010年3月18日

 すばる望遠鏡主焦点カメラを用いた観測により、1200万光年の距離にある渦巻銀河M81の周辺に分布する星が一つひとつ写し出され、銀河の外部領域の構造が初めて明らかになりました。その結果、この銀河の外部領域は、銀河系のものに比べると数倍も明るく、重元素量も高いことがわかりました。これは一見銀河系と似たように見える渦巻銀河であっても、その形成の歴史は多様であり、外部領域がその理解のための鍵を握っていることを示しています。

 M81は私たちの銀河系に最も近い渦巻銀河の一つです。そのために銀河形成のモデルを検証するのに最も適した「実験台」とされています。多くの天文学者に支持されている銀河形成理論によれば、M81や銀河系のような大型銀河は多数の小さな銀河が重力による相互作用で合体して形成されたと考えられています。このように小さな銀河から大きな銀河へと、無秩序的に成長してゆく渦巻銀河の周辺には、ハローと呼ばれる星の構造が残ります。

 これまで銀河系と同じグループに属するアンドロメダ銀河 (距離250万光年) などについて、ハローの星の観測が行われてきましたが、すばる望遠鏡はこのたび、銀河系とは別のグループに属する銀河としては初めて、M81の明るい円盤部の外側に淡く広がるハローとおぼしき構造を発見しました。この広がった構造の光はあまりにも暗く、夜空のほうが100倍も明るいほどですが、すばる望遠鏡の強力な集光力のおかげで、M81周辺に分布する一つひとつの星を写しだすことに成功しました。しかも主焦点カメラの広い視野をいかし、M81の外側を広範囲にわたって観測することで、その物理的な特性を解析することができました。

 私たちの銀河系のハローと比べてみると、この構造に含まれる星の広がりぐあいはよく似ていますが、幾つかの点で様子が異なっていることが判明しました。たとえば、M81のハローは銀河系のハローよりも全体として数倍も明るく、星の重元素量 (ヘリウムよりも質量の大きな元素の総称) も2倍近くあることがわかりました。

 このような違いはM81が銀河系よりもはるかに多数の小さな銀河を飲み込んだことによるのかもしれません。あるいは、この渦巻銀河の周辺構造は銀河系とは全く異なる歴史を経て形成されたのかもしれません。いずれにしろ、すばる望遠鏡によるこの観測は、一見銀河系とよく似た渦巻銀河であっても、その外部領域は多様であり、銀河の成長を理解する鍵を握っていることを示しています。

 この研究結果は、アメリカ天文学会のAstronomical Journal 誌2009年11月号に掲載されました。


研究チーム : 有本信雄 (NAOJ)、Barker, M. K. 、Ferguson, A. M. N. (エジンバラ大学)、Irwin, M. (ケンブリッジ大学)、Jablonka, P. (ジュネーブ天文台)

  figure1  

図1:主焦点カメラ Suprime-Cam による渦巻銀河M81の可視光画像。距離約1200万光年。


天体名: 渦巻銀河 M81
使用望遠鏡: すばる望遠鏡 (有効口径 8.2m)、主焦点
使用観測装置: Suprime-Cam (すばる主焦点カメラ)
フィルター: V, i'
カラー合成: 青(V)、緑(Vとi' の平均)、赤(i')
観測日時: 世界時2005年1月8日
露出時間: 各視野ごとに105分(V)、72分 (i')、合計1視野 
視野: 約34分角 x 27分角(60分角は1度)
画像の向き: 上が北、左が東
位 置: 赤経(J2000.0)=9時55分、赤緯(J2000.0)= +69度16分 (おおぐま座M81北半分)






画像等のご利用について

ドキュメント内遷移