観測成果

すばる望遠鏡、 重い星に伴う星周円盤の赤外線直接撮像に成功

2009年11月18日

 茨城大学、宇宙航空研究開発機構、神奈川大学、東京大学、台湾中央研究院、国立天文台の研究者たちからなるチームは、太陽の 10 倍程度の質量を持つ生まれたばかりの重い星 HD200775 の周囲を赤外線で撮像し、大質量星周としては初めて、星周円盤の赤外線直接像を得ることに成功しました。この研究成果は、アストロフィジカルジャーナル誌 11 月 20 日号に掲載されます。

 太陽の 8 倍以上の質量を持つ星は、大質量星と分類されます。そうした大質量星は、壮年期には周りに美しい電離ガスの星雲を作り、また一生の最期には超新星爆発を起こして鉄を含むさまざまな重い元素を宇宙空間にまき散らすなど、さまざまな興味深い現象を示すとともに、銀河内の物質循環に大きな役割を果たしています。銀河系の外の銀河を見たときに最も目立つのも、明るく輝く大質量星です。

 しかし、大質量星が生まれるメカニズムは、実はまだよくわかっていません。太陽ほどの質量の星は、星のもとになるガス雲が収縮していく過程で、周りに円盤を形成し、その円盤を通して物質が中心の星に降り積もって質量を増やしていくことがわかっています。またそのような円盤は惑星系のもとになると考えられるため、原始惑星系円盤とも呼ばれています。

 一方、大質量星の場合には、このような円盤を通して星の質量を増やしていくのか (降着説)、それとも、軽い星どうしの合体によって重い星が作られるのか(合体説)、諸説あるもののはっきりは分かっていませんでした。 2000 年代に入って、いくつか円盤による形成を支持する観測結果が出てきました。 2005 年のすばる CIAO による成果もそのひとつです。しかし、太陽ほどの星の周りの円盤が、多数、赤外線や可視光で直接的な像を観測され調べられている (例: 2006 年に取得されたすばる COMICS, CIAO による HD142527像など) のに対して、大質量星ではそのような像は得られていませんでした。これは、大質量星は進化が早すぎて円盤が極めて短い時間で消失すること、形成期の大質量星は分子雲に深く埋もれていてその姿を外から見通すことがとても難しいこと、などが原因でした。またそもそも大質量星はもっと軽い星に比べて数がずっと少ないので、なかなか調べにくい面もあります。

 研究チームは、ケフェウス座のHD200775と呼ばれる若い星の周囲を、すばる望遠鏡の中間赤外線装置 COMICS を使って、波長 8-25 マイクロメートルの赤外線で撮影しました。 HD200775 は、地球から 1400 光年ほど離れたところにある、生まれたばかりの太陽の 10 倍ほどの質量の星です。この星が過去に行ったアウトフロー (ガスを星の極方向に吹き出す現象) 活動で作られた空洞があり、東西方向に伸びています。空洞の壁は分子ガスの密度が高くなった状態にあり、その最も星に近い部分は、 HD200775 の光に照らされて反射星雲 NGC7023 として輝いています。中心の星は実は連星で、少なくともふたつの星が軌道半径6.5AUで互いの周りを周りあっています。地球から見た連星の軌道は南北方向に伸びており、ちょうど連星軌道を公転面に近いところから見たために楕円形に伸びていることが分かっていました。

 COMICS による赤外線撮影の結果、観測した全ての波長で、南北に半径 750 から 1000AU にも伸びる楕円形の放射を検出しました。南北に伸びていることから、連星の周りに連星軌道面とほぼ同じ方向に広がった円盤を、円盤面に近いところから見ていると解釈できます。また、円盤と周囲のアウトフローによる空洞がほぼ垂直です。このことは、星形成過程においては一般的に円盤の極方向に過去のアウトフロー活動が起こることとよく合致しています。今回の画像は、大質量星周円盤としては初めてとられた直接像であり、これまでに赤外線で円盤が直接撮影された天体の中で最も中心星質量が重い天体でもあります。

 今回、円盤の像をさらに詳しく調べると、中心星の位置と、円盤放射の中心が、わずかにずれていることが分かりました。実はこの「ずれ」は、円盤が平坦ではなく、外にいくほどめくれあがった形の「フレア円盤」と呼ばれる形であると考えるととても良く説明できます。フレア円盤は、太陽ほどの星の星周円盤では例がありますが、大質量星でも同様の形状を示すことがわかりました。一方で、 HD200775 のフレア円盤は、別の太陽程度の質量の星のフレア円盤に比べると、めくれあがってはいるが、高さが低いことも分かりました。同時に、赤外線で光っている円盤領域は、過去の電波観測結果と比較すると、光蒸発と呼ばれる、ガスの散逸現象を起こしているらしいこともわかりました。光蒸発とは、重い星(この場合には円盤の中心星)からの強い紫外線によって、ガスが電離され、それがその場所での重力束縛による脱出速度を越えると円盤から流出していくというものです。 HD200775 は、その大質量星ゆえの性質として、自らの円盤を急速に消失させているようです。

 今回の結果は、太陽の 10 倍程度の大質量星でも、太陽程度の質量の星と同様に星周円盤を持ち、円盤を通して星が形成されたらしいことを示しました。一方で、中心星質量によって円盤の進化が確かに異なるらしいことも示しており、たとえば、このような重い星の周りで惑星ができうるのか、といったことも今後興味深い課題です。さらに、今回の観測も含め、円盤による形成の証拠はこれまでせいぜい太陽の 10-20 倍の質量の星までにしか見付かっておらず、もっと重い星がどのように形成するのかは依然よくわかっていません。今後、他にも同じような円盤がないかをすばるで探すなど、より深く大質量星形成の問題に迫っていくことが期待されます。

 

 

研究グループ代表者
岡本美子 (茨城大学)
片坐宏一 (宇宙航空研究開発機構(JAXA))

Okamoto, Yoshiko K., Kataza, Hirokazu, Honda, M., Fujiwara, H., Momose, M., Ohashi, N., Fujiyoshi, T., Sakon, I., Sako, S., Yamashita, T., T. Miyata, and T. Onaka
"Direct detection of a flared disk around a young massive star HD200775 and its 10 to 1000AU scale properties"
The Astrophysical Journal, Volume 706, Number 1, pp.665-675, (2009)

 

図1

図1: HD200775 の周辺図 (上が北。左が東。東西 0.28 度×南北 0.30 度の領域。 HD200775 の距離 (430pc=1400光年) では、6.9 光年×7.3 光年の領域に相当)。 DSS と 2MASS のデータアーカイブから作成。 中心で白く輝く星がHD200775で、南と北で可視光で光っている星雲が NGC7023。HD200775 の周囲に、砂時計を横倒しにした形で東西に広がっているのが、過去のアウトフロー活動に伴って作られた空洞。今回、この中心部の HD200775 の星のごく周辺部をすばる COMICS で観測した。




図2: HD200775 のすばる COMICS で取得した画像。 2色合成図 (説明なし画像と説明入り画像)。図 1 で見た HD200775 の星のごく近くをズームアップしたもの。いずれも右下の黄色い部分が円盤。その中心部でピークの部分が 中心星のある位置 (実際に赤外線で光っているのは、中心星に近いところにある ダストであって、星の光を見ているのではない)。円盤は南北方向に伸びた楕円形の放射をしており、円形の円盤を斜めから見たときの形に相当している。星の位置は 円盤の楕円形放射の中心位置に対して、ほんのわずかだが右(西)側にずれている。円盤の北方向に伸びる赤い構造は、反射星雲 NGC7023 の方向に伸びており、円盤よりもっと大きな (30000AU 程度の半径を持つ) エンベロープと呼ばれる構造と円盤を結ぶ構造が見えている。(中心星の周りのきれいな円形のリングは、望遠鏡による回折像であって、実際の構造ではない。) 上記のすばるCOMICSでの画像は全て11.7マイクロメートルと18.8マイクロメートルの画像をそれぞれ緑と赤にわりあてて合成したもの。大きさは9.9秒角×19.3秒角。(HD200775の距離では、4300AU×8300AUの大きさに相当)

左: 画像そのもの
右上: 説明入りの画像
右下: 図1 との関係を示した図



図3: HD200775 の円盤の模式図。円盤を真横から見た場合には左の図のように見え、円盤の外側にいくほど、円盤表面がめくれあがった「フレア円盤」の形状を している。中心星からの光は円盤表面に、外側の方までよくあたり、そのため円盤表面は外側までよく温まって赤外線で光っている。これを、円盤中心軸から少しずれた方向から見ると、右の図のように、円盤放射の楕円形の中心位置と、星の位置が若干だがずれる。この円盤表面からガスが蒸発し、急速に円盤が消失しつつあると考えられる。






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