観測成果

すばる、銀河から飛び出す火の玉を発見

2008年10月6日

[アブストラクト]

 国立天文台と東京大学の研究者からなる研究チームが、すばる望遠鏡主焦点カメラを用いて、かみのけ座銀河団を観測し、銀河から延びるフィラメント状の不思議な構造を発見しました。この構造は若い星と電離ガスからなり、銀河団中の銀河RB199から南に約26万光年にわたって広がっています。あたかも銀河RB199からいくつものかたまりがまっすぐに飛び出しているかのような、その形態にちなんで、研究チームはこの構造を「火の玉 (fireballs)」と呼んでいます。かみのけ座銀河団に高速で落ちこんでいる銀河が、銀河団中心部を満たしている高温ガスと激しく衝突した結果、銀河内のガスがはぎ取られて、このような特異な構造を作ったものと考えられます。はぎ取られたガス中では星が生まれており、「火の玉」は銀河間空間で星を作る現場ともなっています。今回の発見は、銀河団中の銀河進化や、銀河間空間での星生成を探る上で重要な手がかりを与えると、研究チームは考えています。

[はじめに:銀河進化と環境効果]

 銀河は、生まれてから時間が経つとともに、さまざまな過程を経て、その形や色を変えていきます。これを銀河の「進化」と呼びます。銀河がどのような進化をしていくのかを解明することは、現代天文学の最重要問題の一つですが、まだまだ未解明の問題が数多く残されています。銀河を取り巻く環境が銀河進化にどのような影響を与えるかという問題(銀河進化の環境効果問題)も、そうした未解明問題のひとつです。この問題にアプローチするための有望な方法の一つとして、銀河団の詳細な観測が挙げられます。銀河が数千~数万個集まって群れている構造のことを銀河団と呼びますが、銀河団の中は、その周囲に比べて、銀河の密度が高く、銀河間ガスが豊富で、強力な重力場を持つなど、極端な環境要素に満ちています。銀河団は、銀河進化における環境効果を調べるのにもってこいの場所なのです。

[「火の玉」の発見]

 国立天文台と東京大学の研究者からなる研究チームは、銀河進化における環境効果を調べるために、すばる望遠鏡主焦点カメラを用いて、かみのけ座銀河団を観測しました。そして、そのデータの中から偶然に、銀河から延びるフィラメント状の不思議な構造を発見しました (図1)。この構造は若い星と電離ガス (注1) からなり、銀河団中の銀河RB199から南に約26万光年にわたって広がっています。あたかも銀河RB199からいくつもの塊がまっすぐに飛び出しているかのような、その形態にちなんで、研究チームはこの構造を「火の玉(fireballs)」と呼んでいます。

 「火の玉」は、いくつかの明るいかたまり(knot)と、それに繋がる青いフィラメント、明るいかたまりに付随する電離ガス (図1で赤く見えるガス) などから構成されています (図2を参照)。明るいかたまりは、さしわたし3000~6000光年の大きさを持つ若い星の集団で、電離ガスが付随していることから、この場所で活発に星生成を行っていると考えられます (図3参照)。それぞれのかたまりは、太陽の1000万倍程度の質量を持っています。RB199と明るいかたまりを繋ぐかのように延びる青いフィラメントも、若い星からなりますが、電離ガスが見られませんので、すでに星生成は終了してしまっていると思われます。フィラメントの色を注意深く調べると、銀河から離れるに従ってより青くなっており、外側ほど星の年齢が若いことを示しています。このような特徴から、銀河RB199からはぎ取られたガスが星を作りながら銀河間空間を伝播していって「火の玉」を作ったのではないかと考えられます。「火の玉」は銀河間空間で起きている星生成の現場だということです。そのサイズや質量から考えて、明るいかたまりは将来、矮小銀河 (注2) に進化するかもしれません。

[銀河からのガスのはぎ取り]

 では、どのようなメカニズムでRB199のガスははぎ取られたのでしょうか?銀河団は銀河が密集していますので、銀河同士がすれ違うとき、あるいは衝突するときの潮汐力で銀河内のガスや星が外に放り出される、と考えられます。また、銀河団中心に銀河が落ちていくときに、銀河団の重力場によって銀河からガスや星がはぎ取られていく可能性もあります。しかし、これらのメカニズムでは「火の玉」の特徴をうまく説明できないことが分かりました。そこで考えられるのが、銀河団中の高温ガス (数千万度) と銀河との高速衝突による「衝突はぎ取り (ram pressure stripping)」現象です。かみのけ座銀河団の中心部は、X線を放射する大量の高温ガスで満たされていることが分かっています。そして、RB199は銀河団中心に向かって秒速2000km以上の猛スピードで落ち込んでおり、この高温ガスと激しい衝突を起こしていると考えられます。このときの衝突圧力で、銀河内のガスがはぎ取られて「火の玉」を作ったのだと、研究チームは考えています。

[「火の玉」発見の意義]

 衝突はぎ取り現象自体は、近傍の銀河団でしばしば観測されています。しかし、今回見つかった「火の玉」のように、はぎ取られたガスが星を作りながら銀河間空間にただよているというケースは非常に珍しく、近傍銀河団では初めて見つかったものです。「火の玉」と似た構造は、これまでに我々から数十億光年離れた遠くの銀河団に数例見つかっているだけです。これらは、外から銀河団に落ち込んで来た銀河が激しくその形や色を変える瞬間を捉えたものだと解釈されています。すばる望遠鏡で今回見つけた「火の玉」は、遠方銀河団で起こっている現象が、我々に近い銀河団 (かみのけ座銀河団:距離3億光年) でも起こっているということを初めて示しました。

「火の玉」を発見した研究チームは、これまでにもおとめ座銀河団や、かみのけ座銀河団の中に、様々な銀河からのガスのはぎ取り現象を発見してきています (「銀河の周りに広がる超巨大ガス雲の発見」(2002年4月15日ニュースリリース)、「まっすぐにのびる謎の水素ガス雲(2007年3月5日ニュースリリース)」など) 。研究チームでは、これらの現象をさらに詳しく調べて、銀河団中のガスはぎ取り現象についての理解を深めるだけでなく、銀河団という特殊な環境が銀河の進化にどのような影響を与えるかという、重要な問題の解明に役立てたいとしています。

本成果は、米国のアストロフィジカルジャーナル誌 (2008年12月10日付) に発表される予定です。

研究論文:
"Strange Filamentary Structures ("Fireballs") around a Merger Galaxy in the Coma Cluster of Galaxies" Yoshida, M., Yagi, M., Komiyama, Y., Furusawa, H., Kashikawa, N.,Koyama, Y., Yamanoi, H., Hattori, T. and Okamura, S., 2008, The Astrophysical Journal, Volume 689, Issue 1 掲載予定


注1: 原子にある量のエネルギーを与えると、原子から電子が飛び出してくる。この現象を電離という。電離した原子 (イオン) と電子からなるガスのことを電離ガス (プラズマ) と呼ぶ。宇宙空間をただよう星間ガスを電離させる機構はいくつかあるが、生まれたばかりの若い大質量星の放つ強力な紫外線もそのひとつである。活発な星生成が行われているところでは、周囲のガスが広い範囲にわたって電離され、発達した水素の電離ガスなどとして観測される。

注2: 矮小銀河とは、その名の通り小さな銀河であり、明るさが銀河系の十分の一程度以下の銀河を指す。かみのけ座銀河団など近傍の銀河団の中には、暗い矮小銀河の数が異様に多い銀河団が存在するが、どうしてそのように暗い矮小銀河が多いのか、その成因については良く分かっていない。


図1: かみのけ座銀河団中の銀河RB199 (右端に写っている大きな銀河)と、そこから左方向にのびている「火の玉」。図の方向は、右が北、上が東。いくつかの青いフィラメントが直線状にRB199から飛び出しているように見え、その先に明るいかたまりがあり、さらに外側に電離ガスの赤いフィラメントが繋がっている。図の左端の丸い銀河の上下にもかすかに電離ガスの雲が見える。この淡い電離ガス雲まで含めた「火の玉」構造のサイズは約26万光年である。

天 体 名: かみのけ座銀河団 RB199 付近
使用望遠鏡: すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、主焦点
フィルター: Hα線狭帯域 (671nm)、Bバンド (450nm)
、 Rバンド (650nm)
観測日時: 世界時2006年4月28日、2007年5月11日-15日
露出時間: 100分 (Bバンド)、80分 (Rバンド)
、330分 (Hαバンド)
視野: 3.7×2.2分角
画像の向き: 北が右、東が上
位 置: 赤経(J2000.0)=12時58分、
赤緯(J2000.0)=+27度42分 (かみのけ座)

図2: 「火の玉」のスケッチ。


図3: 「火の玉」中の明るいかたまりの拡大図。図の方向は図1と同じで、右側に銀河RB199がある。どのかたまりもRB199から遠い側(図の左側)に赤い色で見える電離ガスが付随しているのが分かる。



 

 

 

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