観測成果

年老いても心は若い Leo II

2007年11月28日

 国立天文台、東京大学などの研究チームが地球に最も近い銀河の1つである Leo II をすばる主焦点カメラで観測し、この銀河がこれまで見えていた範囲よりずっと大きな広がりを持っていることを明らかにしました。またこの銀河を構成する星の分布を詳細に見ることで Leo II における現在までの星形成の歴史がわかるようになってきました。

 すばる主焦点カメラ(Suprime-Cam)で観測した矮小楕円体銀河 Leo II の画像です (図1)。 Leo II は矮小銀河 (注1) に分類される銀河の一つで、質量は銀河系の1/20000(太陽質量の1千万倍)という大変小さくて暗い銀河です。このような矮小銀河は銀河系の周りに約10個、局所銀河群 (注2) に約40個存在していることが分かっています。

 銀河系のような大きな銀河は、 Leo II のような矮小銀河を多数飲み込むことで大きな銀河へと成長してきたと考えられています。従って、現在まで生き残っている矮小銀河は、矮小銀河自身がどのように生まれ進化してきたかを知るために重要であるだけなく、大きな銀河の進化を探る上でも重要な銀河です。しかし、その暗い見かけのために大型望遠鏡を使わないとなかなか詳細な観測をすることはできません。そこで研究チームはすばる主焦点カメラ(Suprime-Cam)を用いて、 Leo II の観測を行いました。広い視野を持つSuprime-Camを使うことで、 Leo II の中心部から潮汐半径 (注3) の外側までを一気に観測することができ、銀河はどこまで広がっているのか、星の性質は銀河内の場所ごとに違いがあるのか、などを調べることが可能になります。また、 Leo II は我々から76万光年という比較的近くにいるために、銀河内の星一つ一つの位置・明るさを測定することができます。このことから星の観測量(明るさや色)と恒星進化理論とを照らし合わせることによって、これらの星々から構成される銀河の進化を詳細に調べることが可能です。

 研究チームはまず Leo II の星の色等級図 (図2) を用いて赤色巨星 (注4) を選び出し、銀河中心からの半径に対して星の数を数え、 Leo II の星がどこまで外側まで存在しているかを調べました。その結果、今までは星がないと思われていた、潮汐半径より外側にも赤色巨星が確実に存在していることが明らかになりました。このような潮汐半径外の星がどのような空間分布で存在しているかを調べるために、 Leo II の星のみを使って明るさ分布図を描いてみたものが図3です。この図から分かるように、銀河の東側(左側)には非常に暗い (表面輝度にして約31等/平方秒)、細長い構造が存在していることが明らかになったのです。

 この構造に属する星の性質は銀河本体の星の性質と大きく異なっていることはなく、比較的年齢の古い星で占められていることが分かりました。このデータだけではこの構造がどのようにできたかについて答えを出すことはできませんが、 Leo II の周りに付随していた球状星団のような古い星団がまさに Leo II の潮汐力によって壊されている姿を見ているのではないかと考えられています。

 一方、潮汐半径より内側の星が多数存在する領域に目を向けて、赤色巨星・水平分岐星・準巨星分岐星などの空間分布を調べてみると、銀河の中でも場所ごとに構成する星の性質が異なることが分かってきました。大きな特徴の一つは、ほとんどが年老いた星で作られている Leo II も中心付近にはまだ若い星があることです。この結果から、 Leo II という銀河は、最初は銀河全体に渡って星を生み出していたものの、80億年前くらいから徐々に星生成活動が銀河の外側から終息してきて、40億年前位になると、ついに中心部を除いては星生成活動がほとんど止まってしまったようだ、という進化の歴史が見えてきたのです。

 こうしてみてみると、見かけは整った形態をしていて単純で小さな銀河と考えられてきた矮小楕円体銀河 Leo II も、見かけよりもずっと大きな広がりを持っていたり、星形成の歴史もそう単純ではないことが分かります。今後は、他の矮小楕円体銀河での観測を進めるとともに、このような矮小楕円体銀河の形成進化を説明する力学化学進化モデルを構築することが期待されています。

 この論文は2007年8月発行の The Astronomical Journal 誌に掲載されました。

研究論文の題と著者
"Wide-Field Survey around Local Group Dwarf Spheroidal Galaxy Leo II:
Spatial Distribution of Stellar Content"
Komiyama, Y., Doi, M., Furusawa, H., Hamabe, M., Imi, K.,Kimura, M., Miyazaki, S., Nakata, F., Okada, N., Okamura, S.,Ouchi, M., Sekiguchi, M., Shimasaku, K., Yagi, M., Yasuda, N.
2007, The Astronomical Journal, Volume 134, Issue 2, pp. 835-845


注1: 矮小銀河とは、その名の通り小さな銀河であり、明るさが銀河系の十分の一程度以下の銀河を指す。

注2: 銀河系とアンドロメダ銀河(M31)を中心として半径約400万光年にわたって広がる銀河の集団。

注3: Leo II に所属する星は、 Leo II 自体の重力に加え、銀河系の重力ポテンシャルによる潮汐力を受ける。このため、 Leo II の中心からある半径以上のところの星は Leo II から引き剥がされてしまう。このような半径を潮汐半径と呼ぶ。

注4: 主系列星は星の中心で水素を燃やしているが、年齢を重ねると次第に中心にヘリウムがたまり核となり、ヘリウム核の周りで水素の殻燃焼を起こすようになる。このような時期にある星を赤色巨星分岐星と呼ぶ。


図1: Leo II の擬似カラー画像 (V、Icバンドの画像から合成)。
視野は26.67分角×26.67分角。
Vバンド:積分時間3000秒
Icバンド:積分時間2400秒
上が北、左が東。




- 低解像度画像 (270KB)

- 高解像度画像 (975KB)


図2:Leo II の星の色等級図。
横軸に星の色 (V-I),縦軸にVバンド等級をプロットしたもの。解説図に描いたように、星は年齢とともに、主系列→準巨星分岐→赤色巨星分岐→水平分岐という進化系列をたどることが知られている。従って、色等級図から星の年齢 (星の集団としての銀河の年齢) を推定することが可能となる。 Leo II の星の色等級図は銀河系の球状星団の色等級図とよく似ており、このことから Leo II の大部分の星は球状星団と同様に年齢の古い星であるということがわかる。

解説図:星の進化経路と色等級図上の特徴を球状星団NGC5024の色等級図上に重ねたもの。  


図3: Leo II の表面輝度 (明るさ) 分布。
白→赤→黄→緑→青→黒となるに従って表面輝度が暗くなる。黒い部分はほぼ Leo II の星が見られない部分である。この図から Leo II の東側(図で左側)には緑で表される、低表面輝度の細長い構造があることが判明した。なお銀河周辺部の輝度分布の様子を強調するために、銀河中心部は白くなってしまったため、代わりに等高線表示をした。等高線はそれぞれ、26.5, 27.5, 28.3, 29.0, 30.0 等/平方秒 である。図中の点線がLeo IIの潮汐半径である。

 

 

 

画像等のご利用について

ドキュメント内遷移