観測成果

宇宙の暗黒物質の空間分布を初めて測定 ─ “ダークマターの中で銀河が育つ”銀河形成論を観測的に検証

2007年1月7日

 宇宙の中で、たくさんの銀河が泡状の大規模構造を作って分布していることが1980年代後半にわかり、銀河形成論に大きなインパクトを与えました。また、そのような宇宙大規模構造がどうしてできたのかが大きな謎として呈示されていました。

 銀河や、銀河の作る構造は、宇宙初期に生じた密度の小さな揺らぎ (凹凸) が少しずつ成長して、130億年余の時間をかけて進化してゆくと考えられています。その際、目に見える物質の揺らぎだけでは、構造が成長するまでに時間がかかりすぎる問題点がありました。そこで、目に見える物質よりも数倍質量密度の高い、ダークマター (暗黒物質) があり、その密度の揺らぎがまず濃くなってゆき、その中で銀河の「種」の成長を促すというアイデアが提唱されています。ダークマターの存在は、近傍の銀河や銀河団の観測から知られていましたが、これが宇宙の大規模構造の形成にも重要な役割を果たしていたという考え方です。それでは、「目に見えない」ダークマターは、実際の宇宙の中では、どのように分布しているのでしょうか?そして、銀河の形成とはどのように結びつくのでしょうか?

 ハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラムであるCOSMOSプロジェクト (Cosmic Evolution Survey:宇宙進化サーベイ) では、まさにこの観測的検証を行うために、2平方度の視野の天域を高性能サーベイカメラで撮像観測を行いました(代表研究者はカリフォルニア工科大学のニック・スコヴィル教授で、約70名の研究者が参加しています。日本からは谷口義明愛媛大学教授のグループが参加しています)。 0.05秒角の分解能で約50万個の銀河の形態を詳細に調べ、「重力レンズ効果」と呼ばれる手法を用いて、視野内のダークマターの分布を調べたのです。目には見えないダークマターも、「質量」は持っています。ある場所に質量を持つ物質がより集中して分布していると、相対論的効果によって背景の天体の像にゆがみ (重力レンズ効果) が生じます。この「ゆがみ」の程度によって、そこにどれだけの質量があるのかを推定できるのです。

 一方、すばる望遠鏡では、COSMOSプロジェクトに連携する重点プログラムを採択し、主焦点カメラを用いてCOSMOSフィールドの多色撮像観測を行いました(研究代表者は愛媛大学の谷口教授)。その結果、解析に用いられた約50万個の銀河の距離を推定することに成功しています。これらの値をハッブル宇宙望遠鏡の結果と合わせて解析すると、重力レンズ現象を引き起こしているダークマターの距離が推定できました。これにより、ダークマターの3次元的な空間分布 (図1; Richard Massey et al.) を世界で始めて明らかにし、ダークマターもまた、大規模構造を形成していることが明らかになりました。 そして、これを、銀河の3次元分布と比較した結果、銀河はまさにダークマターの作る大規模構造の中に分布していることがわかりました(図2; Richard Massey et al.)。今回の観測で「ダークマターの作る大規模構造の中で、銀河が形成され、進化してきた」というシナリオが観測的に検証されたことになります。

 このような画期的な研究成果が得られたのは、2平方度という広い視野を、ハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラで撮像観測したことと、すばる望遠鏡による銀河の距離を決める大規模撮像観測の成功という2つの要素が上手く機能したことによります。今回の研究成果は、2つの偉大な望遠鏡の連携プレーが功を奏して得られたという意味で、新しい時代の観測研究の方向性をも提示したことにもなります。この成果は、2007年1月7日の Nature 誌に発表されました (Richard Massey et al.)。

※さらに詳しい内容: 愛媛大学大学院 理工学研究科 谷口義明教授のホームページ
http://cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/Cosmos/PressRelease/


図1: COSMOS天域で得られた、暗黒物質(ダークマター)の2次元分布(青色に等高線付きで示されている)と通常の物質(バリオン)の2次元分布 (赤色で示されいる)。2次元分布とは、天球面に投影した分布を意味する(Richard Massey et al.)。[拡大]

図2

図2: COSMOS天域で得られた、暗黒物質(ダークマター)の空間分布。天の川銀河からの距離は上から下に行くほど大きくなり、一番下までの距離は約80億光年。( (Richard Massey et al.) [拡大]
 

 

 

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