高分散分光器 HDS
(High Dispersion Spectrograph)

光を10万色にわけて観察

 HDSは、可視光で 10 万分の1の波長差を識別できる装置です。古い星の元素形成を調べて宇宙における元素の進化を研究したり、クエーサーの吸収線を調べて銀河間ガスの組成や物理状態を調べる研究に用いられます。重さが6トンもあり、ナスミス台の片方に常設されます。

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彗星はどこで生まれたのか?

 近赤外線カメラCISCOによる LINEAR C/1999 S4彗星の画像。この彗星をHDSで観測した結果を紹介します。

観測成果:すばる、話題のリニア彗星をとらえる (2000年7月24日)

 

  (1) HDSで取得された生データの一部。分光器を通して、波長 (色) に分けられた光が、画面上、左右に広がって写っています。しかも、効率よくデータを得るために、スペクトルは検出器上で折り畳まれて写されます。画像の右上側ほど波長の長い光 (人間の目には赤く見えます) 、左下側ほど短い波長の光 (同じく青く見えます) のスペクトルです。ここで示したのは下で紹介しているリニア彗星のデータで、ところどころ縦に線が見えているのが彗星に現れているNH2分子の輝線です。

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  (2) 上のデータを処理すると、天体の光が波長 (色) ごとにどれくらいの強さになっているか、調べることができます。 これを光のスペクトルと呼びます。上の図は、HDSによって得られたリニア C/1999 S4彗星の可視光スペクトルです。強い光を出しているのはNH2分子で、図の下側のパネルには、比較のためにNH2分子について計算されたモデルスペクトルを示しました。このデータの詳しい解析から、彗星ができた当時の温度は摂氏-245度だったことがわかり、彗星が土星と天王星の軌道の間で形成されたと推定されました。

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銀河間ガスの構造を詳細に調べる

 HDSで取得されたクェーサーHS 1603+3820 の可視光スペクトル (上) 。ここには、クェーサーの光が、手前にある銀河間ガスによって吸収を受けている様子が映し出されています。下のスペクトルは、別の望遠鏡で取得された分解能の低いスペクトルです。下のスペクトルでは波長幅が広く見えていた吸収も、HDSのスペクトルでは細かいギザギザに分かれて見えます。これらはガスのわずかな速度の違いによるもので、HDSのデータを用いれば、銀河間のガスの小さな速度差まで詳細に調べることができます。

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超新星による元素合成のしくみにせまる

 HDSで取得された二つの星のスペクトル。鉄 (Fe) やマグネシウム (Mg) などの吸収線が見えます。鉄などの重い元素の量は、星の中で核融合による元素合成によって、宇宙全体で徐々に増えていくため、大昔に生まれた星は、あまり重い元素を含んでいません。この二つの星も、宇宙のごく初期に誕生したとみられています。この二つの星では、鉄の吸収線の強さは同程度ですが、上の星ではマグネシウムの吸収線が非常に強いことがわかります。こういった吸収線の解析から宇宙の初期に元素がどのように作られ、宇宙に広がっていったかという情報を得ることができます。

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 コラム:HDS

 HDSは分光観測専用の装置で、光を10万色以上に分けるという、普通の分光器より100倍くらい細かく分光できる性能を持っています。光を細かく分けるため、装置自体も大きく、重さでいえば6トンもあります。これはすばるの装置の中で最も重いものです。光を非常に細かく分ける場合、装置に少しでもズレが生じると、それぞれの細かい色の違いが不明瞭になってしまいます。そのため、HDSはナスミス台という、望遠鏡の横に備え付けられた台の上に常設されており、付け替えられたり、望遠鏡と一緒に傾いたりすることはありません。星の光を細かく色に分けて観測するので、HDSで観測する場合は、他の装置よりは明るめの天体が目標になります。多くの色、つまり広い波長を一度に観測できるのも、HDSの特徴のひとつです。

 この装置は主に、星の科学組成を詳細に研究したり、ドップラー効果を測って星やガスの動き (近づいているか遠ざかっているか) を研究したりするのに使われています。恒星の周囲を惑星がまわると、惑星の重力に影響されて構成が非常にわずかな前後運動をしますが、HDSはこのような微小な運動を検出するための機能もそなえているため、太陽系外惑星の研究にも使用できる装置です。

(サポートアストロノマー田実晃人さんとの2002年末のインタビューより)

 


 

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