観測成果

太陽系内

ガリレオ衛星が「月食」中に謎の発光? すばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測

2014年6月18日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

東北大学、JAXA 宇宙科学研究所、国立天文台などの研究者を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測から、ガリレオ衛星 (木星の周りを回る4大衛星:内側からイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト) が、木星の影に入り太陽光に直接照らされていない「食」の状態にも関わらず、わずか (通常の 100 万分の1程度) に輝いているという現象を発見しました (図1)。詳しい原因ははっきりとは解明されていませんが、研究チームは、木星の上層大気に存在する「もや」で散乱された太陽光が、ガリレオ衛星を間接的に照らしているのではないか、と考えています (注1)。これは、月が地球の影に完全に隠れてしまう皆既月食の時でも月が赤く光るのと似た現象です。今後この現象を継続的に調べることで、これまで観測が難しかった木星の「もや」の性質に迫れるだけでなく、近年数多く発見されている太陽系外の惑星の大気についても新たな知見が得られると期待されます。

ガリレオ衛星が「月食」中に謎の発光? すばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測 図

図1:食中にも発光が観測された木星の衛星ガニメデ (上段) およびカリスト (下段) の赤外線画像。左はすばる望遠鏡、右はハッブル宇宙望遠鏡の観測で得られたもの。各画像の視野は4秒角四方。黒丸は各衛星の観測時の視直径を示します (文字・記号が入っていないバージョン)。また、エウロパが木星の影の中に入り、「食」の状態になる様子をすばる望遠鏡が撮影したムービーがこちら (上から順にエウロパ、ガニメデ、木星が写っています)。(クレジット:国立天文台/JAXA/東北大学)

今回の観測はもともと、「宇宙誕生直後の遠方宇宙からのかすかな光を捉える」という目的で行われました (図2)。「真っ暗」であると期待される食中のガリレオ衛星を観測し、背景の明るさと精密に比較することで、遠方宇宙からのかすかな光を捉えるのです。観測はすばる望遠鏡に搭載された近赤外線分光撮像装置 IRCS と補償光学装置 (注2)、そしてハッブル宇宙望遠鏡を用いて、2012年2月から2014年3月まで続けられました。しかしながら実際に観測をしてみると、「真っ暗」だと思われていた食中のガリレオ衛星 (ガニメデとカリスト) が、予想に反してわずかに光を発していることが分かったのです。ただし明るさは通常の状態の 100 万分の1程度と、かすかなものです。研究チームによるすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡での観測、そして緻密なデータ解析の後に初めて分かった発光現象です。

ガリレオ衛星が「月食」中に謎の発光? すばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測 図2

図2:宇宙誕生直後の遠方宇宙からのかすかな光を捉えるための観測の原理 (上)。観測の支障となる太陽系内の光 (黄道光) を観測的に差し引くため、木星の影に入ったガリレオ衛星 (ガリレオ衛星食) を観測することで、「真っ暗」であると期待される食中のガリレオ衛星を遮光板として使い、遠方宇宙からのかすかな光を捉えるのです。しかしながら、実際に観測をしてみると、「真っ暗」だと思われていた食中のガリレオ衛星がわずかに発光していることが判明したのです (下)。(クレジット:国立天文台/JAXA/東北大学)

なぜ太陽光に直接照らされていないガリレオ衛星が光るのでしょうか?天文学者と惑星科学者とで構成される研究チームが、スピッツァー宇宙望遠鏡による観測結果も加えた多波長の観測データを手がかかりに調べたところ、原因としていくつかの可能性が浮上してきました。その中で研究チームが現時点で最有力と考えているのが、「木星の上層大気に存在する『もや』によって散乱された太陽光が、影の中にあるガリレオ衛星を照らしている」というものです (図3)。月が地球の影に完全に隠れる皆既月食の時も月が赤く光りますが、木星の衛星でも似たようなことが起こっているのでは、と研究チームは考えています。木星は身近な惑星ですが、まだまだ分からない事が数多くあります。例えば、木星の縞模様を作っている雲についても、一つ一つの雲粒がどのように出来るのかという事は、実はまだ完全には理解されていません。木星大気中に形成される「もや」はそれらを知る上で手がかりの一つとなりますが、今回の研究から、衛星の「月食」の観測から木星の「もや」を観測的に探ることができるという新たな可能性が浮上しました (注3)。

ガリレオ衛星が「月食」中に謎の発光? すばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測 図3

図3:木星の上層大気に存在する「もや」によって散乱された太陽光が、影の中にあるガリレオ衛星を照らしている様子の概念図 (木星とガリレオ衛星の大きさ・距離の比は実際とは異なります)。皆既月食の際でも月がわずかに赤く輝く原理に類似しています。(クレジット:国立天文台/JAXA/東北大学/NASA)

さらに今回観測された現象は、食中の真っ暗なガリレオ衛星というスクリーンに投影された、木星大気を透過した光を観測している、と言うこともできます。通常の惑星観測では太陽光の反射光を見ていますが、今回の観測手法は「透過光」で太陽系惑星を観測するという点で新しいものです (注4)。また近年、太陽系外の惑星が数多く発見され、いくつかの惑星についてはその大気の性質も詳しく調べられています。一般的に太陽系外の惑星の大気は、惑星が主星の前を遮った際の減光を詳しく調べる手法 (「トランジット観測」) で調べられています。この手法はまさに惑星大気の透過光を調べていることに他ならないのです。太陽系外の惑星の大気を詳しく調べるためには、まずは身近な木星大気の透過光を詳しく調べて理解することが重要です。つまり、本研究による木星大気の透過光を調べる新しい手法は、「第2の太陽系」を調べる研究にもつながるのです。

今回の観測は、明るい木星のすぐそばにある非常に暗いガリレオ衛星食を観測するもので、大変難しい観測でした。しかもガリレオ衛星食は限られた日時にしか観測できませんし、観測中に木星とガリレオ衛星が刻一刻と異なる動きをするということが観測をさらに難しくしています。研究チームの緻密な観測計画、そしてすばる望遠鏡スタッフの入念なサポートが、新たな現象の発見をもたらしたのです。本研究を主導してきた津村耕司さん (東北大学 学際科学フロンティア研究所) は「この現象は偶然の発見でしたが、それが木星や太陽系外惑星の大気を詳しく調べる研究につながるかもしれず、とても面白いと思っています。また、元々の研究目的だった遠方宇宙の研究の成果も出せる可能性は残っているため、今後もこの観測を継続する事で、近くの宇宙 (太陽系や太陽系外の惑星) から遠くの宇宙 (宇宙誕生直後の時代) までを併せて研究したいと思っています」と述べています。

ガリレオ衛星が「月食」中に謎の発光? すばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測 図4

図4:すばる望遠鏡に搭載された近赤外線分光撮像装置 IRCS と補償光学装置で観測された木星の擬似カラー画像 (青:J バンド (波長 1.3 マイクロメートル)、緑:H バンド (波長 1.6 マイクロメートル)、K バンド (波長 2.2 マイクロメートル))。ハワイ現地時間2012年7月27日午前5時頃撮影。右上に写っているのは食の状態でないガニメデ。木星に対して動いているので、時間をおいて撮った3色の画像を合成すると、にじんで見えてしまっています。(クレジット:国立天文台/JAXA/東北大学)

動画:研究代表者の津村耕司さん (東北大学 学際科学フロンティア研究所) による解説。(2014年6月18日撮影) (クレジット:国立天文台)

この研究成果は、2014年7月10日に発行されるアメリカの天文学論文誌『アストロフィジカル・ジャーナル』789 号に掲載予定です (Tsumura et al. 2014, "Near-infrared Brightness of the Galilean Satellites Eclipsed in Jovian Shadow: A New Technique to Investigate Jovian Upper Atmosphere", arXiv: 1405.5280)。また、この研究成果は、科学研究費補助金 24111717 および 26800112 によるサポートを受けています。

研究チーム:
津村耕司 (東北大学/JAXA 宇宙科学研究所)、有松亘 (JAXA 宇宙科学研究所/東京大学)、江上英一 (米国・アリゾナ大学)、早野裕 (国立天文台 ハワイ観測所)、本田親寿 (会津大学)、木村淳 (東京工業大学 地球生命研究所)、倉本圭 (北海道大学)、松浦周二 (JAXA 宇宙科学研究所)、美濃和陽典 (国立天文台 ハワイ観測所)、中島健介 (九州大学)、中本泰史 (東京工業大学)、白籏麻衣 (国立天文台/JAXA 宇宙科学研究所)、Jason Surace (米国・カリフォルニア工科大学 Spitzer Science Center)、高橋康人 (北海道大学)、和田武彦 (JAXA 宇宙科学研究所)

(注1) ここでいう「もや」は専門用語ではヘイズ (haze) と呼ばれます。一般に惑星大気による屈折の影響で惑星の端の部分が明るくなる効果も知られています (例えば JAXA 宇宙科学研究所 2009年2月18日 トピックス など)。しかし今回明るく観測したガリレオ衛星食は、そのような屈折の影響で明るくなった木星の端の部分で照らされている効果を考慮しても説明できず、木星大気のより上層部分に存在する「もや」による散乱を考慮する必要があるのです。

(注2) 補償光学装置は、星像の劣化の原因である大気ゆらぎの影響を補正し、望遠鏡本来の解像力を実現するための地上観測技術です。補償光学装置の使用により、人間の視力に換算すると 1000 以上の解像度で観測することが可能になります。

(注3) 木星上層大気の観測は、木星探査機ガリレオが木星に落としたプローブによる観測や、木星がたまたま恒星の前を通過した時、もしくは惑星の裏に探査機が回り込んだ時に、それらからの電磁波を惑星が遮る様子を調べる「掩蔽観測」を用いて調べられてきました。しかしこれらの現象は非常に稀であるため、本研究による「ガリレオ衛星食」を用いて継続的に木星上層大気を調べる事ができる意義は大きいと期待されます。

(注4) 惑星大気の透過光観測の例としては、上記 (注3) の掩蔽観測のほか、金星の日面通過時における金星大気の観測の例がありますが、珍しいケースです。

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