観測成果

銀河系内

若い太陽のまわりの惑星誕生現場に見つかった巨大なすきま ~複数の惑星が誕生している現場か?~

2012年11月8日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

国立天文台、プリンストン大学、すばる望遠鏡、神奈川大学、ミシガン大学、工学院大学、オクラホマ大学などの研究者を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡と世界最高性能の惑星・円盤探査カメラ HiCIAO を用いて、PDS 70 星 (注1) と呼ばれる太陽くらいの質量を持つ若い天体 (年齢約 1000 万年) の近赤外線観測 (波長 1.6 ミクロン) を行いました。このすばる望遠鏡による観測の結果、PDS 70 星を取り囲む原始惑星系円盤に、太陽クラスの軽い質量の星としては過去最大級のすきまが存在していることを初めてつきとめました。原始惑星系円盤は惑星が生まれる現場であり、今回鮮明に撮影された巨大なすきまは、生まれたばかりの惑星の重力の影響で作られたと考えられます。しかも、ひとつの惑星では円盤に小さなすきましか作れないため、いくつかの惑星によって作られた可能性があります。今回の観測結果は、円盤のすきまという模様を詳細に撮影することで、太陽に似た若くて軽い恒星の周りに複数の惑星が生まれた可能性を示す、初めての直接観測だと言えます。研究チームは今後、生まれたての惑星を一度に複数発見できるかもしれないと期待しています。

太陽に似た軽い星でも可能になった円盤の直接観測
太陽のような恒星は、生まれたばかりの頃はガスと塵でできた原始惑星系円盤と呼ばれる円盤に取り囲まれていて、地球や木星のような惑星は、その中で生まれると考えられています。そのため、円盤が進化してどのような惑星系が誕生するかを調べるために、これまでにもたくさんの円盤の観測が行われてきました。一般に、質量が重い星ほど円盤が大きく広がっているため観測しやすく、太陽よりも重い星のまわりの円盤の詳しい観測がすばる望遠鏡でも行われてきました (ぎょしゃ座 AB 星や HD 169142 星を参照)。しかし、2009年からスタートした太陽系外惑星と原始惑星系円盤の大規模探査プロジェクト SEEDS (すばる望遠鏡の戦略枠プロジェクト SEEDS: Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru; 注2) のおかげで、太陽クラスの軽い質量の星であっても、そのまわりを取り巻く円盤の鮮明で詳しい観測が可能となりました。


PDS 70 星の円盤に見つかった巨大なすきま
今回、SEEDS プロジェクトの一環として、ケンタウルス座にある太陽に似た星、PDS 70 星 (距離はおよそ 460 光年、質量は太陽の約 0.9 倍、年齢は約 1000 万年の若くて軽い星) をすばる望遠鏡によって観測しました。使用した観測装置は世界最高性能の惑星・円盤探査カメラHiCIAO (HD 169142 星の観測手法を参照) です。PDS 70 星には、星の光のスペクトル分布を詳しく調べた間接的な観測や、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡 VLT の直接観測により、円盤があることは分かっていましたが、どのような構造をしているのかまでは分かっていませんでした。

すばる望遠鏡による観測の結果、PDS 70 星を取り囲む円盤には半径 70 天文単位にまで広がった巨大なすきまが存在していることが、今回初めて明らかになりました (図1; 赤外線の強度が弱くなって、暗くなっている場所がすきま)。太陽クラスの軽い質量の星が持つ円盤のすきまとしては過去最大級の大きさです。他の8メートル級クラスの望遠鏡ですら見つけることができなかったすきまですが、超高画質の画像を撮ることができるすばる望遠鏡/HiCIAO だからこそできた発見だと言えるでしょう。

若い太陽のまわりの惑星誕生現場に見つかった巨大なすきま
~複数の惑星が誕生している現場か?~ 図

図1: すばる望遠鏡/HiCIAO による PDS 70 を取り囲む原始惑星系円盤の近赤外線観測画像。中心付近は星の強い光の影響によるノイズが大きいため、黒く塗りつぶしています。画像は擬似カラーで着色しています。色は赤外線の強さを表しており、白に近いほど赤外線が強く、黒に近づくほど赤外線が弱いことを示しています。画像から PDS 70 を取り囲む円盤に巨大なすきまがあることが分かり、黒っぽい色の場所がすきまに対応します。半径1天文単位あたりにある内側の円盤は、中心星のすぐ近くにあるため画像では見ることができません。(クレジット: 国立天文台) 図をクリックすると拡大図が表示されます。(ラベル無し拡大図)

いくつかの惑星が生まれた痕跡を見つけたか!?

巨大なすきまの中はどうなっているのでしょうか? 研究チームはすきまの中を調べるために、PDS 70 星とその円盤からやってくる光のスペクトル分布を詳しく調べました。その結果、半径1天文単位あたりにさらに円盤があることが明らかになりました。つまり、PDS 70 星を取り巻く円盤は図2のように2重の円盤構造をしていることが分かったのです (内側の円盤は中心星である PDS 70 のすぐ近くにあるため、今回の観測画像では見ることができません)。ぎょしゃ座 AB 星同様の構造です (ぎょしゃ座 AB 星参照)。このような2重円盤構造は、円盤に埋もれた惑星の重力的影響によるものだと考えるのが最も自然です。惑星の重力の影響により円盤の物質の密度が薄くなり、円盤に散乱される赤外線が少なくなったためにすきまのように見えているわけです。しかも、ひとつの惑星でこれほど巨大なすきまを作り出すのは難しいため、いくつかの惑星によって作り出された可能性があります。ただし、すきまの中の物質が完全になくなったわけではないので、残念ながら惑星の微弱な光はわずかな円盤の物質に埋もれてしまって見えません。

若い太陽のまわりの惑星誕生現場に見つかった巨大なすきま
~複数の惑星が誕生している現場か?~ 図2

図2: PDS 70 想像図。内側と外側に円盤があり、その間に巨大なすきまがあります。すきまには生まれたばかりの惑星がいくつか周っており、それら惑星の重力的な影響で円盤に巨大なすきまができた可能性があります。(クレジット: 国立天文台)

まとめと展望

従来は平凡な円盤にしか見えなかった PDS 70 星の円盤ですが、すばる望遠鏡/ HiCIAO で観測して初めて巨大なすきまがあることが発見されました。このような巨大なすきまは、いくつかの生まれたばかりの惑星の重力的影響によって作られたものだと考えられ、今後、すきまを作った惑星そのものの直接観測に期待が持てます。

観測を主導した橋本淳さん (国立天文台) は「HiCIAO のおかけで、若い太陽に似た軽い星を取り囲む円盤の詳しい直接観測がようやく可能となりました。今回見つかった PDS 70 星の円盤の姿は、私たちの太陽系が生まれて 1000 万年ほど経った頃の姿、つまり現在の太陽系の姿に進化してゆくまさにその最中を見ているのかもしれません。これからも惑星系が形づくられていく過程の、躍動的な円盤の姿をとらえてゆきたいです」と意気込んでいます。さらに理論的解釈を主導したロビン・ドンさん (プリンストン大学) は「原始惑星系円盤の中で惑星がまさに生まれている場所を直接観測することは、"いつ" "どこで" "どのように" 惑星が生まれるのかを知る理想的な観測です。惑星によって作られたと考えられる巨大なすきまのある円盤を持った PDS 70 星は、円盤中で惑星がどのように生まれるのかを直接研究するための橋頭堡の役割を果たすでしょう。」と語っています。

動画: 国立天文台などの研究者から成る国際研究チームは、すばる望遠鏡と世界最高性能の惑星・円盤探査カメラ HiCIAO を用いた観測により、PDS 70 星と呼ばれる若い太陽に似た軽い恒星 (年齢約 1000 万年) の原始惑星系円盤に、過去最大級のすきまが存在していることを初めてつきとめました。(2012年11月13日撮影)

文献

観測的研究成果は、SEEDS プロジェクトの主な研究者の1人である橋本淳さん (国立天文台) ほか 54 名の共著者を含む論文として 2012年10月10日発行のアストロフィジカル・ジャーナル・レター誌に掲載され、理論的研究成果は、同じく SEEDS プロジェクトの共同研究者であるロビン・ドンさん (プリンストン大学) ほか 51 名の共著者による論文が 2012年中にアストロフィジカル・ジャーナル誌に掲載される予定です。
・Hashimoto et al. 2012 "Polarimetric Imaging -- PDS 70: Observations of the Disk"
・Dong et al. 2012 "The Structure -- PDS 70 System"

研究グループの主要構成メンバー
・橋本淳 (国立天文台)
・ロビン・ドン (プリンストン大学)
・工藤智幸 (すばる望遠鏡)
・ロマン・ラフィコフ (プリンストン大学)
・本田充彦 (神奈川大学)
・ジャオファン・ジュ (プリンストン大学)
・武藤恭之 (工学院大学)
・バーバラ・ホィットニー (ウィスコンシン大学)
・ティモシー・ブランド (プリンストン大学)
・メリッサ・マククルレ (ミシガン大学)
・ジョン・ウイスニエウスキー (オクラホマ大学)

(注1) PDS 70 星の「PDS」とは

1990 年代初頭、ブラジルにある Pico dos Dias 観測所において、若い星を探す比較的大きな規模の探査「Pico dos Dias Survey」が行われ、その結果約 100 天体が若い星として報告されました。これに基づいて作成された若い星の一覧を、探査名の頭文字を取って「PDS カタログ」と呼んでいます。PDS 70 星はそのカタログの 70 番目にある星という意味になります。

(注2) すばる望遠鏡戦略枠観測プロジェクト「SEEDS」

すばる望遠鏡に搭載された世界最高性能の惑星・円盤探査カメラ HiCIAO を用いて、様々な星の周囲の太陽系外惑星や原始惑星系円盤の直接検出を目指すプロジェクト「SEEDS」(Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope) が、国立天文台の田村元秀准教授 (太陽系外惑星探査プロジェクト室長) を中心として進行中です。SEEDS は、2009年から約5年間にわたって、すばる望遠鏡で 120 夜の観測を投入する戦略的国際共同プロジェクトであり、現在までにぎょしゃ座 AB 星、リックカルシウム 15 星、HR 4796 A 星、HD 169142 星、SAO 206462 星などの星の周囲にある円盤の詳しい構造を明らかにしています。

■関連タグ