観測成果

超新星爆発の形、実はでこぼこ?
−すばる望遠鏡で迫る超新星爆発のメカニズム−

2012年8月2日

  国立天文台の田中雅臣助教、広島大学の川端弘治准教授、国立天文台の服部尭研究員、東京大学カブリ IPMU の前田啓一助教らを中心とする研究グループ (注1) は、すばる望遠鏡を用いた観測により、大質量星が一生の最期に起こす「超新星爆発」がでこぼこした3次元構造をもっていることを明らかにしました (図1)。この研究は、超新星爆発の形状を探る道を新たに開くもので、長年にわたる謎である爆発のメカニズムを解明する糸口となることが期待されます。


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図1: すばる望遠鏡で観測された超新星爆発 SN 2009mi の画像 (右) と観測から推定される爆発の形の想像図 (左)。観測された SN 2009mi はうさぎ座の方向、約1億光年の彼方にある銀河 IC 2151 の中で、南アフリカのアマチュア天文家 Berto Monard 氏により発見されました。図をクリックすると拡大図が表示されます (画像のみの拡大図)。(クレジット: 国立天文台)


謎に包まれた超新星爆発

  太陽よりも8倍以上重い星は、一生の最期に大爆発を起こすと考えられています。この爆発は、突如星が新しく現れるように見えることから、「超新星爆発」と呼ばれており、星が秒速1万キロメートルもの猛スピードで爆発する激しい現象です。爆発によって、星の中にあった重元素が宇宙空間にばらまかれます。私たちの宇宙はほとんど水素とヘリウムのみで始まったと考えられており、多数の超新星爆発を経て現在のような様々な元素に満ちた姿となりました。

  このような重要な役割を果たす超新星爆発ですが、実は爆発がどう起きているか、そのメカニズムは半世紀以上にわたって謎のままです。しかも、近年の数値シミュレーションの結果、爆発はまん丸では起きない、と世界中の研究者が一致した結果に辿りつきました。まん丸ではなくなる効果が重要なのです。爆発がまん丸ではなくなる場合として、(1) 星の回転により指向性をもった爆発が起きる、(2) 対流によってでこぼこした構造ができて爆発が起きる、という二つのシナリオが有力ですが、どちらの効果により爆発が起きるかは未だ解明されていません。これらのシナリオを検証するには、実際の天文観測から超新星爆発がどのような形で起きているのかを調べる必要があります。


光の偏りで形を「見る」

  超新星爆発はどのような形をしているのか?天体写真を撮ると簡単に分かりそうですが、そうはいきません。なぜなら、ほとんどの超新星爆発は私たちの銀河系の外、およそ1億光年彼方で起きているため、秒速1万キロメートルもの高速で膨張する超新星でさえ、その姿は「点」にしか見えません。

  そこで、国立天文台の田中雅臣助教などを中心とする研究グループ (注1) は、光の「偏光」を使うことにしました。偏光とは光の振動方向の偏りのことです。研究グループが超新星の光り方を数値シミュレーションした結果、(1) きれいにそろった指向性をもった爆発と (2) 指向性が崩れたでこぼこした爆発では、偏光のパターンが異なることが分かりました。でこぼこした爆発の場合は、波長によって異なった方向をもった偏光が同じ天体からやってきます (図2)。

  このような予想に基づき、研究グループはすばる望遠鏡に搭載された FOCAS (微光天体分光撮像装置) を用いて、近傍に現れた超新星爆発の偏光観測を計画しました。しかし、超新星爆発はいつ起きるか分からないため、事前に観測時間を割り当てることができません。そこで、すばる望遠鏡には緊急観測のモードが用意されています。研究グループはこの緊急観測モードを使うことで、2009年に出現した2つの超新星爆発 (SN 2009jf および SN 2009mi) を新たに偏光観測することに成功しました (注2)。


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図2: 超新星爆発の形の違いによって期待される、偏光の向きの様子。きれいな指向性をもった爆発の場合 (右) は向きの揃った偏光が期待されますが、でこぼこした爆発の場合 (左) は、波長によって様々な向きの偏光が期待されます。図をクリックすると拡大図が表示されます。(クレジット: 国立天文台)


「でこぼこ」が見えた!

  観測の結果、2つの超新星爆発から偏光が検出されました。さらに、波長によって様々な偏光の向きの光が同時に発せられていることも発見されました (図3)。つまり、超新星爆発の指向性が崩れていて、でこぼこした構造があることが明らかになったのです。

  これまで同じグループは 2005年から 2007年にかけてすばる望遠鏡で他の2つの超新星爆発の偏光観測に成功しており (注3)、それ以前の観測と合わせて合計6つの超新星爆発の偏光観測データが集まりました。このようなでこぼこ構造の特徴はこれまで観測された全6天体中5天体で検出されており、でこぼこ構造は決して稀な現象ではないことが分かりました。

  銀河系内で過去に起きた超新星爆発の名残である「超新星残骸」という星雲状天体の観測から爆発の3次元的な形を推定した研究は、これまでにも数例ありました。しかし、銀河系内では 100 年に一度程度しか超新星爆発が起きません。田中助教らのチームによる一連の研究は、偏光観測という手段を用いて、銀河系外で起きた超新星爆発の爆発直後の3次元的な形をとらえることに成功したという点で新しく、またこれから出現する多くの銀河系外超新星爆発にも応用できる画期的なものです。


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図3: すばる望遠鏡で観測された SN 2009jf の偏光のスペクトル (波長ごとの光などの強さの分布)。カルシウム原子が示すスペクトルの特徴 (吸収線) を拡大したもの。波長 (膨張速度) とともに偏光の向きが変化していることから、SN 2009jf が「でこぼこした爆発」であることが分かります。図をクリックすると拡大図が表示されます。(クレジット: 国立天文台)


結果のまとめと今後の展望

  今回の研究により、超新星爆発がでこぼこした3次元形状をもっているとことが明らかになりました。この研究で超新星爆発の3次元的な形状を探る道が新たに開けたと言えます。一方で、これまでには指向性をもった2次元的な形状の爆発を支持する観測結果もあります (注4)。田中助教は「実際に宇宙で起きている超新星爆発はある程度の指向性をもちながら、細部ではでこぼこした形状をしているのかもしれません。超新星爆発の姿形がかなり見えてきたようです。」と話しています。このようなでこぼこ構造は、星が崩壊して、爆発に至る時に起こる対流が起源かもしれず、今回の結果が爆発のメカニズムを解明するための糸口となることが期待されます。


  この研究成果は、2012年7月20日に発行された天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました (Tanaka, M. et al. 2012, The Astrophysical Journal, 754, 63)。

  また、この研究成果は、科学研究費補助金・研究スタートアップ (課題番号: 22840009)、若手 (B) (課題番号: 24740117) によるサポートを受けています。



動画: 研究を主導してきた田中雅臣さん (国立天文台) による解説。(2012年8月2日撮影)



(注1) 研究グループの構成

  • 田中 雅臣 (国立天文台)
  • 川端 弘治 (広島大学)
  • 服部 尭 (国立天文台)
  • Paolo A. Mazzali (Max Planck Institute for Astrophysics、ドイツ)
  • 青木 賢太郎 (国立天文台)
  • 家 正則 (国立天文台)
  • 前田 啓一 (東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構)
  • 野本 憲一 (東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構)
  • Elena Pian (Scuola Normale Superiore、イタリア)
  • 佐々木 敏由紀 (国立天文台)
  • 山中 雅之 (京都大学)

(注2) 超新星爆発はその特徴からいくつかの種類に分類されています。大質量星が起こす「重力崩壊型超新星」の中で、爆発のメカニズムを探りやすいのは、巨大な水素層を失った超新星 (Ib 型、Ic 型) で、以後文中で「超新星爆発」はこの水素層を失った超新星を指します。

(注3) 参考文献
Tanaka, M., et al. 2008, The Astrophysical Journal, 689, 1191
Tanaka, M., et al. 2009, The Astrophysical Journal, 699, 1119

(注4) 参考記事
超新星は丸くない すばる望遠鏡で爆発する星の内部を探る。
http://www.ipmu.jp/ja/feb-1-2008



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