観測成果

129.1 億光年の彼方、宇宙の「夜明け」にきらめく銀河を発見

2011年12月15日

  東京大学の小野宜昭 (おの よしあき) さんと大内正己 (おおうち まさみ) 准教授らの研究チームは、ビッグバン後わずか 7.5 億年の生まれて間もない宇宙に、きわめて活発に星を生み出す銀河 GN-108036 を発見しました (図1)。研究チームによる分光観測から GN-108036 は、赤方偏移で 7.2、私たちからの距離が 129.1 億光年だと判明しました (注1)。一般にこのような遠い銀河までの距離を正しく求めるには、銀河が発する非対称な形をした「ライマンα輝線」を見つけなければなりません。GN-108036 ではこの「ライマンα輝線」が確認され、疑いの余地なく距離が決まりました。このようにして距離が正確に決まった銀河の中で、GN-108036 は最も遠い銀河です (注2)。さらに、すばる望遠鏡などによる赤外線データを組み合わせ、GN-108036 で活発な星形成が起きていることもわかりました。この銀河では毎年太陽 100 個分のガスから星が生まれており、同時代の宇宙で見つかっている他の銀河とは比べものにならないほどです。「ガスが重力で集まり始め、ようやく銀河で星が生まれるようになる宇宙の『夜明け』において、これほど活発な銀河が存在することに、私たちはとても驚いています」と、研究チームをリードしてきた大内准教授は語ります。


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図1: GN-108036 の擬似カラー画像。ハッブル宇宙望遠鏡のカメラ ACS で I および z バンドフィルターを用いて得られたデータを青色と緑色に、ハッブル宇宙望遠鏡のカメラ WFC3 の F140W フィルターのデータを赤色に割り当てています。GN-108036 は非常に遠い宇宙にあるため、宇宙膨張の影響でとても赤い色をしています。 (クレジット:国立天文台/ハッブル宇宙望遠鏡)


  研究チームはまず、「すばる・ディープ・フィールド」と「グッズ・ノース・フィールド」と呼ばれる天域を、すばる望遠鏡に搭載されたすばる主焦点カメラ Suprime-Cam で詳しく観測し、天体の色を手がかりにして遠方銀河の候補を絞り込みました (注3)。そして2010年にそのうちの 11 天体をケック望遠鏡の分光器 DEIMOS で観測しました。その結果、本物の遠方銀河であることの決め手となる非対称な形をした「ライマンα輝線」と呼ばれる光が、GN-108036 を含む3天体で検出されました。ただ、GN-108036 からのライマンα輝線は1マイクロメートルに迫る波長にあり、検出に疑いの余地がありました。この波長帯での分光観測は、現存の可視分光装置で最高性能を誇る DEIMOS をもってしても困難だからです。「発見当初は GN-108036 の輝線検出に確信が持てず、たまたま連なったノイズが輝線のように見えているだけかもしれない、とすら考えていました」と当時の心境を語るのは、輝線を最初に発見した小野さんです。「しかし幸運にも、翌2011年に再びケック望遠鏡で観測する機会を得ました。新たな観測で得られたデータでも同じように非対称な輝線が写っているのを目にした時は鳥肌が立ちました。」間違いなく GN-108036 が 129 億年以上前の黎明期の宇宙にある銀河であることが、こうして明らかになったのです (図2)

  「さらに幸運なことに、GN-108036 があるグッズ・ノース・フィールドは、ハッブル宇宙望遠鏡の新しい高感度カメラ WFC3 で撮影されたばかりでした。」チームメンバーのマーク・ディッキンソン研究員 (アメリカ国立光学天文台) は語ります。「我々が急いでそのデータを解析したところ、確かに GN-108036 が写っており、たいへんな興奮を覚えました。その画像から、GN-108036 は紫外線で極めて明るく、生まれたばかりの星がたくさんあることが分かりました。また興味深いことに、その大きさはおよそ5千光年で、天の川銀河の 20 分の1程度と非常に小さかったのです。」

  また、バーラム・モバッシャー教授 (カリフォルニア大学リバーサイド校) は言います。「さらにスピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線カメラ IRAC と、すばる望遠鏡の近赤外線カメラ MOIRCS で得られたデータも組み合わせることで、GN-108036 の星形成率を求めることができました。その結果、GN-108036 では、同時代の銀河と比べてなんと 10 倍以上もの星が生まれていることが分かりました。このような銀河が宇宙の黎明期に存在していたとは驚くべき発見です。」

  近年、ビッグバンから数十億年後の宇宙にきわめて重く年老いた銀河が見つかってきていますが、それらがどのようにできたかはまだよくわかっていません。小さいながらも星形成が活発な GN-108036 は、そのような銀河の祖先にあたるのかもしれません。GN-108036 をさらに詳しく調査することで銀河の誕生から成長の謎に迫れると、研究チームは期待しています。

  本研究成果は米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」の2012年1月10日号に掲載が予定されています。また本研究は、W.M. ケック天文台、すばる望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡およびスピッツァー宇宙望遠鏡で得られたデータに基づいています。なお本研究は、科学研究費補助金の特別研究員奨励費、基盤研究 A およびカーネギー・フェローシップによる助成を受けています。


(注1) 天体が観測者から遠ざかっている場合に天体から発せられる光の波長がドップラー効果により長波長側に伸びることを赤方偏移といいます。宇宙膨張により遠くにある天体ほど速く遠ざかっていることが知られているために、赤方偏移は天体までの距離の指標としても使われます。赤方偏移の値から距離への換算は、近年国立天文台での発表で用いてきたものと同じ宇宙モデル (ハッブル定数 H0=71km/s/Mpc、Ω=0.27、Λ=0.73) を採用しました。このモデルでは宇宙年齢は約 136.6 億歳となります。

(注2) 最近赤方偏移が8以上の可能性がある銀河候補が報告されていますが、ほとんどは銀河の色から推定されたものであり、非対称な形状を示す「ライマンα輝線」の条件を満たすものについては一つも見つかっていません。

(注3) 「すばる望遠鏡、多数の超遠方銀河を発見」(2009年11月6日 すばる望遠鏡観測成果リリース) に詳しい解説があります。



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図2: ケック望遠鏡の分光器 DEIMOS を使って得られた GN-108036 の分光スペクトル。赤矢印で示している 998 ナノメートル付近にライマンα輝線が検出されました。この輝線は波長の長い方へ裾野を引く非対称な形をしており、疑いの余地なくライマンα輝線であることが分かります (赤線は観測された輝線の形によく合うモデル曲線)。灰色の影の部分は地球大気からの強い夜光輝線が重なってしまっているため除いています。(クレジット:国立天文台/ケック天文台)



<研究チームの構成>

  • 小野宜昭 (東京大学・大学院生/日本学術振興会特別研究員)
  • 大内正己 (東京大学・准教授)
  • Bahram Mobasher (カリフォルニア大学リバーサイド校・教授)
  • Mark Dickinson (アメリカ国立光学天文台・Associate Astronomer)
  • Kyle Penner (アリゾナ大学・大学院生)
  • 嶋作一大 (東京大学・准教授)
  • Benjamin J. Weiner (スチュワード天文台・Assistant Astronomer)
  • Jeyhan S. Kartaltepe (アメリカ国立光学天文台・Research Associate)
  • 中島王彦 (東京大学・大学院生)
  • Hooshang Nayyeri (カリフォルニア大学リバーサイド校・大学院生)
  • Daniel Stern (NASA ジェット推進研究所・NuSTAR Project Scientist)
  • 柏川伸成 (国立天文台・准教授)
  • Hyron Spinrad (カリフォルニア大学バークレー校・名誉教授)


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