観測成果

色の対照鮮やか、おうし座の連星系円盤

2011年6月3日

  神戸大学、埼玉大学、大阪大学、東京大学 (著者順) の研究チームが、若い双子星 (連星) の観測を行い、双方の星を囲む原始連星系円盤の複雑な構造を描き出しました。円盤の南北が、それぞれ異なる波長 (色) で強く輝いている様子がわかり、赤外線および可視光という異なる2波長の観測を合わせて研究を進めることの利点も示しました。

 

  私たちの住む地球をはじめとする太陽系の惑星たちは、生まれたばかりの太陽がまとっていた「原始惑星系円盤」の中でできたと考えられています。誕生直後の恒星の多くにこのような原始惑星系円盤が伴うことが判明してきています。このため研究者たちは原始惑星系円盤を観測し、惑星が誕生するプロセスを探ってきました。これまで特に、単独星の周りにある原始惑星系円盤の観測が多く行われています。

  ところが、太陽のように単独で存在する恒星は、実は恒星の中でも圧倒的多数派というわけではありません。少なくとも半数程度の恒星が、2つまたはそれ以上の恒星からなる多重星系として存在します。そこでこの研究チームは、おうし座 FS 星という連星を、すばる望遠鏡で観測しました。この天体は 20 秒角 (2800 天文単位、1天文単位は地球と太陽の平均距離で約1億5千万キロメートル) 離れたところに伴星「おうし座 FS B 星」があることが知られており、FS 星自体もわずか 0.2 秒角 (30 天文単位) 離れた連星系 (おうし座 FS A 連星) であり、三重連星であるということが最近の観測からわかっていました。研究チームは、すばる望遠鏡でコロナグラフ (中心の明るい星だけを隠す装置) を持つ CIAO というカメラを用いて、近赤外線という波長でこの天体を観測し、A 連星の周りを囲む円盤を見つけることに成功しました。この円盤は、半径 630 天文単位程度まで広がっています。

  さらに、これらの赤外線画像を、ハッブル宇宙望遠鏡の高性能カメラ ACS を用いて取得した可視光画像と比較しました。すると、円盤の北側は可視光で明るく、南側は近赤外線で明るいことがわかりました。つまり円盤は、北側で青く、南側では赤い色をしているのです。原始惑星系円盤は、中心の恒星の光を反射することにより、可視光や近赤外線で輝いて見えます。おうし座 FS A 連星の円盤は、場所によって大きく色が変化する、非常に特殊な円盤であることがわかりました (図1)。

  この円盤は、なぜこのように場所によって色が違うのでしょう。その答えの一部は光の偏光の度合いから示唆されています。光は波の性質を持ち、物体で反射すると多くの場合「偏光」と呼ばれる現象を起こします。この偏光の度合いを観測することによって、反射する物体の性質、ここでは原始惑星系円盤の構造が推定できます。ハッブル宇宙望遠鏡の観測は偏光の情報も記録しています。おうし座 FS A 連星系の原始惑星系円盤内部における偏光度の分布図 (図2) を見ると、この円盤の大部分の場所では、中心星の光を反射することで円盤が光っていることがわかります。このような状態は、他の原始惑星系円盤でも一般に見られることです。

  ところが円盤の北側の外側部分とFS B 星の偏光度を比べることで、円盤中央にある星の光を反射しているのではなく、20 秒角も離れた「FS B 星」の光を反射していることがわかりましたわかりました。研究チームは、円盤の北側の内側部分は、手前にある物質が A 連星の原始惑星系円盤を隠しているものと解釈しています。一方で偏光データからは、円盤の北側の内側部分は A 連星の双方の星を取り巻く原始惑星系円盤であると解釈できるので、なぜ北と南で色が異なるのか、謎が謎を呼んでいます (図2)。

 

  今回の観測で、場所によって色が異なるという非常に稀な原始惑星系円盤を発見することができました。今後も数多くの原始惑星系円盤を観測することによって、原始惑星系円盤が共通に示す性質と、それぞれの個性、さらにその進化過程を明らかにすることができるでしょう。ひいては惑星の形成進化過程をも解き明かす手がかりが得られるかもしれません。

 


<論文掲載情報>

High-Resolution Optical and Near-Infrared Images of the FS Tauri Circumbinary Disk
Tomonori Hioki, Yoichi Itoh, Yumiko Oasa, Misato Fukagawa, Masahiko Hayashi
日本天文学会欧文研究報告 (PASJ) 6月号掲載予定



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図1:おうし座 FS A 連星系の可視光画像 (ハッブル宇宙望遠鏡より) および近赤外線画像 (すばる望遠鏡より) の合成。上側は可視光で明るく、下側は近赤外線で明るい。中心付近の楕円マークは、明るい中心星 (連星) の分を差し引いてある領域。破線は、望遠鏡の構造物の影響が出ている領域。視野は 17 秒角 × 18 秒角。方向は上が北、左が東。

 

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図2:可視光での偏光度を、可視光の画像 (上) および近赤外線の画像 (下) に重ねたもの。偏光度は、光源と想定される FS A 星と FS B 星を同心円状に取り巻くパターンからのずれ具合により、色分けしてある。偏光度は、およそ FS A 連星系を取り巻く同心円状 (青、赤の部分) と B 星からの光を反射して、B 星を取り巻く同心円状に分布している (緑)。視野はそれぞれ 19 秒角 × 31 秒角 (上の図) 、14 秒角 × 17 秒角 (下の図) で、方向は上が北、左が東である。

 




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