観測成果

あかり+すばる+スピッツァー、連係プレーで惑星誕生の謎に迫る

2010年6月17日

 宇宙航空研究開発機構および東京大学の研究者を中心とする研究チームは、赤外線天文衛星「あかり」やすばる望遠鏡など3つの望遠鏡を駆使した赤外線観測から、極めて活発な惑星系形成活動が HD 165014 という星で進行している可能性があることを発見しました。この星の周囲では、惑星の材料である微惑星同士が衝突することで、多量の塵がまき散らされているようです。さらに、観測で得られたスペクトルから、まき散らされている塵が主に結晶質のケイ酸塩鉱物でできているということを特定することも出来ました。3望遠鏡の連係プレーによって惑星系形成の鍵をにぎる重要な天体が新たに一つ見つかったことで、今後、惑星系の生い立ち・太陽系の歴史のさらなる解明につながると期待されます。

 近年、太陽系外に多くの惑星が見つかってきています。惑星系の生い立ちを探ることは、現代天文学の中でも最もホットな分野の一つだと言えるでしょう。現在考えられている惑星系形成の標準的なシナリオでは、生まれたての星の周囲にできる原始惑星系円盤の中で、もともと星間空間に存在していた小さな塵が集まって微惑星に成長し、さらにその微惑星同士が衝突・合体することで、地球のような岩石質惑星が作られると考えられています。また、より進化した星の周囲では、微惑星同士が衝突・合体する際に生成された大量の破片によって、塵の円盤が二次的に作られるとも考えられています。この円盤は、惑星の材料のデブリ (残骸) でできているため、デブリ円盤と呼ばれています。まさに惑星形成の現場であると考えられ、非常に興味深い研究対象です。

 デブリ円盤中の塵は、中心星からの光を吸収して温まることで赤外線を放射します。特に中間赤外線で光る温かい塵は、中心星の近くの地球のような岩石質惑星が作られる領域に存在するので、地球型惑星の形成過程を詳しく解き明かす上でのヒントを与えてくれると期待されています。そこで宇宙航空研究開発機構の藤原英明研究員、東京大学の尾中敬教授を中心とする研究チームは、日本の赤外線天文衛星「あかり」(注1) の観測データの中から、中間赤外線で明るく光る温かい塵が存在するデブリ円盤を探す試みを進めてきました。

 その結果、いて座の方向にある恒星 HD 165014 に、強い中間赤外線を発するデブリ円盤を発見しました (図1)。観測された赤外線の強さからこの星の周囲に漂う塵の濃さを見積もったところ、これまで見つかっているデブリ円盤の中でも、最も濃い塵をまとう天体の一つであるということが分かりました。私たちの住む太陽系にある塵の濃さの 1000 倍以上にもなります。HD 165014 では微惑星が大変激しく衝突・合体していることで、これほど濃い塵が放出されたと考えられます。

 さらに「あかり」での発見を受けて、研究チームはすばる望遠鏡や米国のスピッツァー宇宙望遠鏡 (注2) を使い、より詳細な観測を行いました。得られた波長 10~20 マイクロメートルのスペクトル (波長ごとの光の強さの分布) に注目してみると、細かい凹凸があることが分かりました (図2)。この凸凹は、赤外線を発する塵の種類を特定する上で大きな手がかりとなる、いわば塵の「指紋」のようなものです。観測された凹凸のパターンを鉱物のデータベースと照合した結果、HD 165014 の周囲に豊富に存在し赤外線を発する塵は、大きさが1マイクロメートル程度以下の結晶質 (注3) のケイ酸塩鉱物であることが分かりました。宇宙空間で一般的に見られるケイ酸塩鉱物の塵は非晶質 (結晶でない状態) であり、塵が結晶化するためには 1000 ℃程度の高温環境にさらされる必要があることが知られています。今回見つかった温かいデブリ円盤で結晶質のケイ酸塩鉱物が検出されたことから、微惑星同士の激しい衝突・合体によるデブリ円盤の形成と塵の加熱メカニズムとの間には、何か密接な関係があるのかもしれません。

 本研究により、惑星系形成過程を解明する上で鍵となる重要な天体を発見し、また惑星材料物質の鉱物学的性質に関する新たな知見を得ることが出来ました。研究チームは、「あかり」の中間赤外線観測データからデブリ円盤の候補を HD 165014 の他にも複数見つけています。デブリ円盤の素性とその背景にある惑星系形成過程のさらなる解明を目指し、研究チームはさらに解析を進めています。

 この研究成果は、米国のアストロフィジカル・ジャーナル誌 (2010年5月1日発行714巻L152-L156ページ) に掲載されました。

注1
宇宙航空研究開発機構によって2006年に打ち上げられた口径68.5センチメートルの赤外線天文衛星。赤外線での全天観測が主たる役割で、「あかり」の観測により作られた約130万天体を収録する赤外線天体カタログが世界の研究者に向けて2010年3月に公開されている。 参考ウェブサイト http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/index-j.html

注2
米国航空宇宙局によって2003年に打ち上げられた口径85センチメートルの赤外線宇宙望遠鏡。「あかり」とは異なり、個別の天体や領域を詳しく観測することが主たる目的である。
参考ウェブサイト http://www.spitzer.caltech.edu/spitzer/index.shtml

注3
固体物質において原子・分子・イオンなどが空間的に規則正しく配列されている状態にあること。

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  figure1  

図1:「あかり」による HD 165014 の中間赤外線 (波長9マイクロメートル) 画像。画像の大きさは 0.1 度× 0.1 度。



  figure2  

図2:スピッツァー宇宙望遠鏡による HD 165014 の赤外線スペクトル (赤)。垂線で示した位置に見られる顕著な凹凸パターンが、結晶質のケイ酸塩鉱物 (青) と一致する。







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