観測成果

すばる、系外惑星の撮影に成功

2009年5月21日

 宇宙には無数の銀河があり、銀河には無数の星があります。その中に、太陽系のような惑星系はどれほど存在するのでしょうか。そして、地球のように生命を育む惑星はあるのでしょうか。太陽系外惑星系の性質を知ること、系外に生命の可能性を探ること、そして宇宙の中での地球の位置付けを見出すことは、天文学においてもっとも重要な研究テーマのひとつになっています。

 これまでにおよそ 350 個もの系外惑星が見つかっており、その数はどんどん増えています。ただし、惑星そのものをとらえるのではなく、惑星が存在するために生じる現象をとらえるという、間接的な方法によって発見されてきました。たとえば、星のまわりを惑星がまわっていると、惑星の重力の影響で星の位置がわずかにふらつきます。そのわずかなふらつきをとらえるのが視線速度法であり、もっとも多くの惑星発見に寄与してきました。一方、惑星の姿をとらえることができれば、直接その存在を証明できるわけですから、誰もが撮像による発見を目指すことは言うまでもありません。中心星の光と惑星の光を分離して測定することができるため、惑星の大気組成などの性質を調べる上で絶好の研究対象となるという点でも重要です。しかし、惑星は星に比べて何桁も暗く (木星は太陽のおよそ 10 億分の 1 の明るさ)、しかも星のすぐそばに存在するため、惑星を空間的に分離してとらえることは至難の業でした。その証拠に、撮像によって惑星候補天体をとらえた例は、つい最近まで 10 例に満たないものでした。しかも、本当に惑星と呼べるぐらい軽い天体なのかが不確かだったり、実際に星のまわりを公転しているかどうかが不明だったりするケースがほとんどでした。

 2008年11月、ケック望遠鏡 (英語)ジェミニ望遠鏡 (英語)ハッブル宇宙望遠鏡 (英語) を使った撮像観測によって、HR 8799 (ペガスス座) とフォーマルハウト (みなみのうお座) に惑星をとらえたという報告がありました。とらえた天体が本当に惑星であることがこれまでの観測例よりも確からしいことから、系外惑星の研究分野において極めて重要な結果であるととらえられています。特に HR 8799 は初めて複数個 (3個) の惑星が中心星のまわりを公転している様子が撮影され、注目を集めています。この発見を受けて、大阪大学、神戸大学、国立天文台などの研究者からなるチームは、2002 年にすばる望遠鏡で得られた HR 8799 のイメージを再度詳細に解析し、星から一番離れた軌道をまわる惑星 HR 8799b を検出することに成功しました。

 HR 8799 はチリでできた円盤に囲まれていることが知られており (塵円盤の観測結果)、もともとはこの円盤を撮影する目的で観測されていました。円盤や惑星は明るい星のごく近傍に存在しているため、撮像できるかどうかは、中心星の光をどれくらいきちんと取り除けるかで決まります。そのため、大気ゆらぎをリアルタイムで補正して星像をシャープにする補償光学を用い、さらに CIAO というコロナグラフ装置を使って、星を観測装置内部のマスクで隠しながら観測を行いました。また、得られたデータに対しても、暗い惑星の検出に最適化した画像処理を行いました。その結果、星から 68.7 AU (1 AU は太陽と地球との距離) 離れた場所に存在する惑星を浮かび上がせることに成功しました (図1)。これにより、2002 年に惑星が星に対してどの位置にいたのかが分かり、どのような軌道を描いて運動しているかを知るために有用な情報が得られました。また、惑星のように軽い天体であることを確認する手段として、天体の明るさを重さに焼きなおすという方法がよく使われます。そのため、惑星候補天体の明るさが正確に測定できているかも確認すべきポイントのひとつです。今回すばるで測定した明るさは、他の望遠鏡を使って得られた結果と一致していました。明るさから重さへの変換にはまださまざまな不確定要素があることに注意しなければいけませんが、現在受け入れられている理論モデルに従うと木星の約 10 倍の質量を持つことが独立に確かめられました。

 HR 8799 の惑星系は、太陽系とは大きく異なります。3 つの惑星は木星の 10 倍程度の質量を持ち、星から 24, 36, 69 AU の場所を公転していると考えられます (図2)。この惑星系がどのようなメカニズムで誕生したのか、3 つの巨大惑星がお互いの軌道を乱さずに安定して回り続けていられるのかといった点について、研究者の間で現在盛んに議論されています。また、惑星の軌道は、今回の結果からもほぼ円軌道ではないかと推測されます。しかしまだ軌道周期のごく一部しか観測されていないため、今後も惑星の位置を継続して測定していくことが重要です。

 今回の成果によって、すばる望遠鏡が系外惑星を直接撮像できる能力を持っていることが実証されました。今、すばるには性能が向上した補償光学が搭載され、新しく開発されたコロナグラフカメラも稼働を始めたところです。今後続々と、すばるによる系外惑星発見のニュースが流れることは間違いありません。

 この結果は2009年5月1日発行のアストロフィジカル・ジャーナル・レターズ誌に掲載されました。(Fukagawa et al., The Astrophysical Journal Letters, Volume 696, Issue 1, pp. L1-L5.)





図1: すばるがその姿を直接とらえた系外惑星。矢印で示したのが、今回近赤外線 (1.6 ミクロン) で撮影された系外惑星 HR 8799b です。星印は恒星 HR 8799 の位置を表します。


図2: これまでに見つかった 3個の惑星が円軌道を回っていると"仮定"した場合の模式図。HR 8799b の外側には塵円盤が存在すると考えられています。3個の惑星のうち2個は、太陽系における海王星の軌道 (約 30AU、赤の点線) よりも外側を回っていることになります。







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