観測成果

すばる、最も軽い星の円盤の撮像に成功 ~地球型惑星の誕生の場か?~

2008年2月8日

 総合研究大学院大学、国立天文台などの研究者からなるチーム (注1) が、すばる望遠鏡コロナグラフ・カメラを用いてFN Tau (おうし座FN星) とよばれる、重さが太陽の10分の1しかない若い星の観測を行い、惑星が生まれる現場である原始惑星系円盤を直接撮像することに成功しました。

 惑星は、若い星を取りまく円盤状のガスと塵のかたまりから生まれます。そのため、この円盤は「原始惑星系円盤」 (以下、円盤と省略します) ともよばれ、太陽のような恒星が生まれ成長するのと同時に自然につくられる構造です (注2)。円盤中で塵が成長して微惑星が形成され、微惑星どうしの合体衝突などによって惑星が誕生すると考えられています。つまり、惑星がどのように形成されるのかを理解するには、若い星の円盤を調べればよいことになります。惑星の誕生は天文学における最重要研究課題のひとつであり、年齢10-100万年程度の若い星の星周構造を調べる研究が以前から盛んに行われています。

 円盤はそのサイズが小さく、また恒星に比べて暗いため、観測技術が発達した近年でさえ、その姿を画像にとらえる観測 (撮像観測) の例は限られています。実際、若い太陽型星の周りの円盤の観測はたった2例しかありません。また、これまで円盤の観測で成果を挙げてきたすばる望遠鏡も、観測が比較的容易な太陽より重い恒星の円盤の研究を行ってきました (注3)。これに対し、太陽質量の半分以下の若く軽い恒星のまわりの円盤はまだ一例も撮像されていません。そこで、できるだけ軽い恒星のまわりの円盤の撮像に挑戦することが重要になります。

 総合研究大学院大学、国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室・ハワイ観測所などの研究者たちからなるグループは、近赤外線コロナグラフ・カメラCIAO (チャオ) および補償光学装置 (注4) を用いて、FN Tau (おうし座FN星) とよばれる年齢約10万年の若い星の観測を行い、円盤を直接撮像することに成功しました (データ画像:図1、想像図:図2)。

 今回円盤を観測したFN Tauは、地球から約460光年の距離のおうし座星形成領域にある、太陽の重さのわずか10分の1しかない軽い星です。太陽質量の半分以下の恒星の円盤が画像としてとらえられたのは初めてのことで、これまでに円盤が撮像された最も軽い恒星 (TW Hya、うみへび座TW星) と比べて、1/7 の質量しかありません。

 発見された円盤はほぼ円形で、これは円盤をほぼ真上から撮像できたことを意味します。円盤の半径は地球・太陽の距離の260倍で、大きさとしてはこれまで他の恒星のまわりに発見しされていた円盤と同程度で、目立った特徴や特別な形状は認められません。また、質量は恒星質量の6%程度と見積もられ、これまで発見された円盤では最も軽いものです。すなわち、今回発見されたのは、これまでに撮像された、最も軽い恒星の周りの最も軽い原始惑星系円盤、となります。

 惑星には、比較的小さな地球型惑星と、その数百倍の質量をもつ木星のような巨大惑星があります。太陽系にはどちらのタイプの惑星も存在しますが、FN Tauの周りに見つかったような軽い円盤の中では、小さな地球型惑星しか形成されないと考えられます。実際、私たちの観測から推定される円盤の質量と惑星形成の理論から、太陽系の惑星が存在する距離である 30天文単位 (注5) の距離以内にどのような惑星が生じるかを予想すると、地球質量以下の小さな惑星しか形成されないことがわかりました。このことは、今回の撮像観測で円盤以外の惑星候補天体が発見されなかったことと矛盾しません。

 これまでに発見された約270個の太陽系外惑星 (いずれも主星の見かけの速度の変化を調べるなどの間接的な手法でみつかったもの) は多くが木星型巨大惑星、最小でも地球質量の5倍の惑星で、真の地球型惑星と言える例は発見されていません。太陽系外惑星探査の急務はこのような軽い星の周りで地球型惑星を発見することです。

 系外惑星プロジェクト室とすばる望遠鏡では、このような円盤をさらに詳しく調べることのできる装置 (HiCIAO-ハイチャオ-とよばれる新コロナグラフ) を開発中です。本観測で用いられた補償光学の後継機と組み合わせると、円盤の微細構造や塵の大きさ・組成の情報も得られるでしょう。さらに、国立天文台ほかが建設中のALMA (アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計) や計画中の次世代超巨大望遠鏡を用いて地球型惑星の誕生過程を探る上で、FN Tauの円盤は最も重要な観測対象のひとつとなるでしょう。

 この成果は、米国のアストロフィジカルジャーナル誌(2008年1月20日号:673巻L67ページ)に掲載されました。


注1: 総合研究大学院大学、自然科学研究機構 国立天文台 (太陽系外惑星探査プロジェクト室、ハワイ観測所),宇宙航空研究開発機構、名古屋大学、神戸大学、茨城大学の研究者からなるチーム。この研究は、文部科学省科学研究費特定領域研究「太陽系外惑星科学の展開」によるサポートを受けています。

注2: 太陽のような恒星とその周りの物質の進化の模式図 http://www.naoj.org/Pressrelease/2004/04/18/j_index.html

注3: すばる望遠鏡によるこれまでの観測は、重い星の円盤では、「うずまき状」や「向かい合ったアーチ (バナナ・スプリット) 」のような多様な構造があることを明らかにしてきました。
すばるが暴いたうずまき円盤
http://www.naoj.org/Pressrelease/2004/04/18/j_index.html
すばるが発見したバナナ円盤
http://www.naoj.org/Pressrelease/2006/06/27/j_index.html

注4:
・コロナグラフCIAO (チャオ)
http://www.naoj.org/Observing/Instruments/CIAO/index.html
・補償光学AO
http://www.naoj.org/Observing/Instruments/AO/index.html

注5: 太陽と地球との距離(約1億5000万キロメートル)を1天文単位 (= 1 AU) と 呼びます。


図1: すばる望遠鏡コロナグラフ撮像装置 (CIAO) で観測されたFN Tauの円盤。波長1.6マイクロメートルの画像 (1マイクロメートル=1ミリメートルの1000分の1)。円盤の形状はほぼ円形で、これは円盤をほぼ真上から見ていることに対応する。中心星 (FN Tau) はコロナグラフのマスクで隠されている。また、円盤の一部が黒く見えているのは望遠鏡の副鏡支持機構の影響。


図2: FN Tauの原始惑星系円盤の想像図。中心星が太陽の重さの 1/10 しかないために重力が相対的に弱く、円盤は外側に行くほど膨らんでいる (フレアしている) と考えられる。 その結果、軽い円盤にもかかわらず、平らな円盤と比べると中心からの光を効率的に反射して、明るい円盤として見えていると考えられる。

 

 

 

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