観測成果

見えてきた、50個以上に分裂した微小な彗星核

2007年4月24日

SW3
観測されたB核 (左上) と分裂核の一部

 国立天文台ハワイ観測所の布施哲治研究員を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡を用いて地球へ接近したシュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星の本体 (核)が崩れていく様子の撮影に成功、分裂後、間もない13個の微小核が写る画像を2006年5月に速報として発表しています。引き続いて行われた本格的な画像解析により、観測データには前回報告の13個を含む50個以上もの分裂核が写っていることが今回明らかになりました。本成果は、2007年4月25日発行の日本天文学会欧文研究報告誌に掲載されます。

 シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星 (73P/Schwassmann-Wachmann 3、シュワスマン・ワハマン第3彗星とも:以後 SW3 彗星) は、これまで1995年と2000年に核が分裂したことが知られていました。その分裂した核のうち、B核と呼ばれる直径が数百mの核は、2006年4月にもさらに小さく分裂したという報告があります。研究チームは翌月の5月3日、地球から1,650万km離れたSW3彗星をすばる望遠鏡のすばる主焦点カメラ(Suprime-Cam)で撮影し、画像から分裂後まもない13個の微小な核を検出し、観測から8日後の5月11日には以下の発表行いました。

リリース: すばる、崩れゆくシュヴァスマン・ヴァハマン第 3 彗星をとらえる (2006年5月11日発表)

 13個の核を発見した画像は、公開までの時間的な制約から、簡易な画像処理しか行っていないものです。その後、研究チームでは本格的な画像解析を実施し、明るいB核の影響を取り除いて、分裂した微小な核の検出が容易にできるようにしました。続いて撮影した画像全体の中からB核の南西方向のおよそ縦5,500km、横7,700kmの範囲 (およそ1.6分角×1.1分角に相当) を切り出して調べた結果、54個もの微小な核の発見に成功しました。研究チームの山本直孝研究員 (産業技術総合研究所) は「解析を進めるにつれ、次々と分裂核が見えてきた時は眠れなくなるほどでした。すばるの能力を存分に発揮できた成果といえるでしょう」と語っています。微小な分裂核が写る本画像は、2007年4月25日発行の日本天文学会欧文研究報告誌の表紙を飾る予定です。

 また、B核と同様に、2006年4月以前に分裂した大きなC核やE核はB核から離れているため、B核を中心に撮影した今回の画像全体 (およそ0.5度四方:満月の大きさに匹敵) には写っていませんが、B核とC核、およびB核とE核の間に未発見の微小な核を検出できる可能性は残ります。 このため、これらの微小な核を発見すべく研究チームは、大型望遠鏡の中でも広範囲を一度に撮影できる「主焦点カメラ(Suprime-Cam)」の特徴を活かし、B核を中心とした画像全体 (縦13万km、横17万kmの範囲:「主焦点カメラ(Suprime-Cam)」の一視野分に相当)に対象を広げ、彗星核の探査を行いました。この観測の制約 (限界等級が24.3等級であること) を考えると、直径数mから10m程度以上の分裂核であれば発見できるはずでしたが、その存在を確認することはできませんでした。今回の未発見は、分裂から時間が経過しているため、小さな核はさらに小さくなり検出不可能になったと仮定すれば、今後の研究によって分裂した核の寿命の解明に迫れるかもしれません。

 約46億年前に太陽系が形成された時の状態を保つとされる彗星。その本体である核は、氷とチリが混ざった、いわば"汚れた雪だるま"のようなものといわれます。布施研究員は「今回のような彗星に関する研究が進み、核の素性が明らかになるにつれ、太陽系誕生時の情報一つ一つがひもとかれていくことでしょう」と語っています。

※分角:1度の60分の1。1度は60分角。

出典:Fuse, T., Yamamoto, N., Kinoshita, D., Furusawa, H., and Watanabe, J. 2007, Publ. Astron. Soc. Japan 59, 381-386


天体名:
シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星
使用望遠鏡: すばる望遠鏡 (有効口径8.2m)、主焦点
使用観測装置: すばる主焦点カメラ Suprime-Cam
フィルター: R (0.65μm)
観測日時: 世界時2006年5月3日
露出時間: 8分
視野:約1.6分角x約1.1分角
画像の向き: 上が北、左が東
説明:左上角の明るい B核の周りに点在する微小な分裂核。彗星の動きに合わせて望遠鏡を駆動させているため、恒星は線状に伸びている。

【補足説明】シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星について
シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星は、ドイツのSchwassmann (シュヴァスマン) とWachmann (ヴァハマン) により1930年5月2日に発見されました (「第3彗星」とは、シュヴァスマンとヴァハマンがペアを組んで発見した三番目の彗星という意味です)。その後1979年までの約50年間、観測しても見つからずに行方不明だったことや核が分裂したことで知られています。1995年の分裂直後は、A から D の 4個の核が確認できましたが、2000年には A と D 核は検出できなかった一方で、B、C、E 核の存在は確かめられました。今回の観測は、2006年5月12日に地球へ約1,200万kmの距離まで最接近する直前の2006年5月3日に行われたものです。なお、観測時の B、C、E 核の夜空を見上げたときの見かけ上の位置関係については、こちらを参照ください。

【参考リンク】
○SW3 彗星の一般について
  ・国立天文台「シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星特集」
   http://www.nao.ac.jp/phenomena/20060502/index.html

○2006年4月の分裂について
  ・ヨーロッパ南天天文台プレスリリース (英文)
   http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2006/pr-15-06.html
  ・ハッブル宇宙望遠鏡プレスリリース (英文)
   http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/2006/18/image/a

 

 

 

 

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