観測成果

彗星の起源に迫る:ディープインパクト探査の観測結果

2005年9月15日

 東京大学と国立天文台を中心とした日本、アメリカ、台湾の国際共同研究チームは、7月4日にディープインパクト探査機とテンペル第1彗星の衝突をすばる望遠鏡を用いて詳細な観測を行い、テンペル第1彗星の内部物質の組成や衝突の衝撃によって宇宙空間に飛び出した物質の量を明らかにしました。


 去る7月4日にアメリカ航空宇宙局のディープインパクト探査機がテンペル第1彗星に衝突したとき、ハワイ島のマウナケア山頂の大望遠鏡群は衝突によって生じる現象を観測する上で最適の条件にありました。

 世界最大級の望遠鏡群による最適条件下での共同観測は、彗星の生い立ちとその後の成長について非常に重要な新しい知見を与えてくれることとなりました。特に、テンペル第1彗星の内部から衝突によって掘削された新鮮な内部物質の詳細な観測は、非常に重要な結果をもたらしました。すなわち、これまで非常に遠い縁戚関係しか持たないと思われていた2つの族の彗星たちが、お互いに非常に似ていることを示したのです。

 観測の結果は、また、ディープインパクト探査機による衝突によって彗星からダンプカー約100台分もの大量の物質を宇宙空間へ放出させたということも明らかにしました。

 これらの発見は、口径8mのすばる望遠鏡およびジェミニ望遠鏡による岩石質ダストの観測と、口径10mのケック望遠鏡によるエタン、水、炭素質有機物の観測に基づいています。これらマウナケア山頂からの観測の結果は、アメリカの科学雑誌サイエンスのディープインパクト探査特集の一部として本日発表されます。

 テンペル第1彗星は太陽から近い安定軌道にあり、長期間にわたって表面が焼け焦がされてきた彗星です。したがって、この彗星には、ダストに富む風化層が内部の氷に富む新鮮な層を覆った構造ができています。これは、路肩に積もった雪が春の日差しによって少しずつ溶けるときに表面が黒く汚れてくるのとよく似ています。ディープインパクト探査は、この風化した彗星表面を掘り返し、彗星の内部に隠された本来の姿のままのダストや氷を調査するために計画された探査です。「この彗星が内部に何かを隠していることに疑いの余地はありませんでした。我々は、世界最大級の望遠鏡を使って何が隠されているのかを調べようと手ぐすねを引いて待っていたのです。」と、ジェミニ望遠鏡観測メンバーであるミネソタ大学のチャック・ウッドワード博士は述べています。

 共同観測の結果は、ケイ酸塩、水、有機化合物の三者が複雑に混じり合った彗星内部物質の正体を明らかにしました。短周期彗星であるテンペル第1彗星の内部物質は、オールトの雲と呼ばれる非常に遠い彗星の巣からやってくる長周期彗星と非常に似た特徴を持っていることが分かったのです。

 長周期彗星は、形成期の太陽系の記録を保持したまま現在まで残っている化石のような天体です。オールトの雲にある彗星は、時に重力によって太陽に向かって落ちていきます。太陽系の内側に至ると、太陽熱で暖められて大量のガスやダストを放出し、太陽系の果てまで再び飛び去るという動きをします。

 一方、テンペル第1彗星のような短周期彗星は、長周期彗星よりずっと冷たい場所で作られたのではないかと考えられてきました。それは、短周期彗星の吹き出すダストやガスの組成が、長周期彗星と大きく異なることが根拠でした。しかし、「この違いは単なる表面的な違いである可能性が出てきました。内部物質については、これら2種類の彗星はほとんど何も違わないのかもしれない。」と、ウッドワード博士は言います。

 2種類の彗星が類似した特徴を持っているということは、これらの彗星が同じ場所、それもかなり暖かい場所で誕生したことを示しているのかもしれません。すばる望遠鏡観測メンバーである東京大学の杉田精司博士は、「これら2種類の彗星が両方とも木星と海王星の間の領域でできた可能性が高いのではないか。」と語っています。

 「マウナケアの望遠鏡群が取り組んだもう一つの課題は、ディープインパクト探査機から発射されたグランドピアノ大の銅塊が彗星に衝突した際に、どれだけの質量の物質が宇宙に放出されたかを調べることでした。」と、杉田博士はコメントしています。衝突時には、探査機は彗星に対して時速2万3千マイル (時速3万7千km) の速度で飛行していました。

 衝突によってできたクレーターの大きさを探査機は測定することができなかったので、マウナケアの望遠鏡群の高分解能観測は放出物量の推定に必要な非常に貴重な情報を提供することとなりました。観測データは、放出物量が約1000トンであることを示していました。「これだけの量の物質を放出するためには、彗星はかなり強度の小さい物質でできているはずだ。」と、杉田博士は言います。

 「NASAの探査機による人工衝突は、彗星内部に眠っていた大量の物質を宇宙空間にばらまいてくれましたが、我々は地球最大の望遠鏡をもってそれらの物質の姿を捉えるのに最高の場所にいたのです。ケック、ジェミニ、すばるによる緊密な連係プレーは、世界最高の望遠鏡が最高のサイエンスを達成してくれ、また1+1が3にも4にもなることを示してくれた。」と、W. M. ケック天文台のフレッド・チャフィー所長は語りました。

 マウナケア山頂の3つの巨大望遠鏡は、いずれも彗星を赤外線と呼ばれる光で観測しました。赤外線とは、赤よりも赤い光で人間の目には見えませんが、熱などを運ぶ光として知られています。ディープインパクト探査機は、中間赤外線 (あるいは熱赤外線) を観測する機器を搭載していませんが、すばる望遠鏡とジェミニ望遠鏡では、この波長帯に対する優れた観測装置を持っていました。一方のケック望遠鏡では、近赤外線の高分解分光器を用いて観測を行いました。このような大型の観測機器は、ディープインパクト探査機に搭載することが不可能だったのです。

 「これらの観測は、ダストに富む薄皮の下にある彗星の内部物質を知る上で、史上最高の機会を与えてくれた。衝突から1時間もしないうちに彗星の光は大きく変化し、ダストの薄皮に守られた彗星の内部から激しく吹き出すガスによって微小なケイ酸塩粒子が大量に押し出されてくるのが観測された。観測されたケイ酸塩粒子には、多くのカンラン石が含まれているが、これはマウナケア山の麓の砂浜に見られる砂とよく似ている。今回の素晴らしいデータは、マウナケアからの贈り物だね。」と、ジェミニ観測のチームリーダーであるデイビッド・ハーカー博士は語りました。


図1.すばる望遠鏡が捉えたディープインパクト探査機直後のテンペル第一彗星の中間赤外像。赤色は炭素に富む表面物質を、緑色はケイ酸塩に富む内部物質を表す。衝突後数時間に渡って、彗星内部物質が宇宙空間に扇状に広がっていく様子が見える。(拡大画像)

 

 

 

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